第82話 聞いてませんわよっ!
二つのゲート間に在る情報を遮断して、
通過する者と環境とを相互不干渉の
状態にする。
音や光と言った単純なものでは無く、
物理現象の全てを遮断するんだ。
見る事や触る事はもちろん、あらゆる検知が
不可能になってしまうんだよ。
すると互いに存在しないと言う結果になる。
トンネルだと周りの景色こそ見えないけど、
内側の壁に触れるでしょう?
手は壁を認識できるし、壁は手を認識する。
それさえ出来ないのよ。
つまり一方のゲートを通過すると同時に
他方のゲートも通過した事になるのね。
長距離を瞬間的に移動するんじゃ無くて、
距離を無い事にしちゃうの。
それがゲートの魔法。
これの良い所はね、情報を遮断するだけだから
双方には何の影響も無いのね。
何も変換しないの。
ただ縁を切るだけ。
事故による再構成ミスとかが無いのよ。
たまたま服に付いてた虫と混ざって
ハエ女に成ったりはしないから安心だよ!
***
「お久しぶりですユーリ姉様、アジャ姉様。
と言ってもボクは覚えていないので、
始めましての方がしっくりしますけどふっ!」
『あぁ!あぁ!カイザル!カイザル!
大きくなりましたわね!
なんて可愛らしいのかしらっ!
お姉様に良くお顔をみせて頂戴な!
まぁ~~~!
まぁ~~~!
まぁ~~~!
覚えていないだなんて、つれないですわね~
あんなに毎日おしめを替えてあげましたのに
でも許して差し上げますわぁ~
あぁ~~~カイザル~~~』
「ね、姉様・・・苦しい・・・」
カイザルも5歳になったよ。
言葉遣いも礼儀作法もしっかりしてる。
サリーちゃんが教育係だもんね。
剣術や体術はトリオルが教えている。
将来はダモンの棟梁になるのだからね。
「サーシア、そんなに強くしたら駄目ですよ。」
『あらまぁ、御免なさいね。』
「カイザル、元気そうでなによりです。」
「はいっ!姉様達も無事にお戻りになられて
とても嬉しいです!」
「長旅で疲れたでしょう?」
「いいえ、お母様。
ゲートを使いましたから。」
「ゲート?」
細かい事を言っても理解できないだろうから
魔法で移動したと簡単に説明した。
ノーベルンとダモンの精霊殿をゲートで
繋げたからいつでも行き来が出来るのだと。
「へぇ~!凄いねぇ!そんな事が。」
まぁ、さすがにゲートみたいな高度な魔法は
サーシアとルルナにしか出来ないけどね。
高位の精霊と契約出来れば、かなり強力な
魔法を使う事が出来るよ。
なにはともあれ
先ずはダモンの民からだよね!
今や30万を超える大勢力となったダモン。
北のモルゴン王国に迫る大きさだ。
結束を固め円滑な運用と統率を維持するには
精霊の加護が不可欠な規模になっている。
ダモンの本分は専守防衛。
その為には自給自足が鉄則だ。
自国の領内で完結しなければ、外へ進出
する以外に維持が困難になってしまう。
それを可能にするのが精霊の加護だ。
例えば農作、例えば工作、例えば流通。
魔法の恩恵は計り知れない。
だからね。
ちゃんと仕事しろよぉ~!
サーシア~!
ぼぉ~~~っとしてんじゃねぇ~よ~!
呪文を考えろよぉ~!
前のはリセットされちゃったから
使えないんだよぉ~!
全~~~部やり直し!
『え?そんなの聞いてませんわよ?』
「それでもやらないと駄目ですよ。」
『ルルナがやりなさいな。』
「私ひとりじゃ無理ですよ~
サーシアも手伝ってくださいよ~」
『え~~~、面倒くさいですわぁ~』
「そんな事言わないで、ほらほら。」
『仕方がありませんわねぇ~』
「先ずは生活魔法からですよ。」
『水と照明と加熱と冷却ですわね。』
「えぇ、重力操作と状態変化も早めに
必要になりますよ。」
『助手が欲しいですわ。』
「聖女にしか出来ませんからね。
攻撃魔法はアリーゼが生まれてからですね。」
『早く産まれなさいな、アリーゼ。』
「まだ半年先ですよ。」
『待ちきれませんわぁ~』
そう!
サーシアは妊娠中なんだ。
もうハニーが大喜び!
やっと会えるよ~
「サーシアーお腹の音聞かせて~」
『さっきも聞きましたでしょう?』
「何回でも聞きたいの~」
『しょうがない子ですわねぇ、良いわよ。』
「もしも~し、聞こえる~?アリーゼ~。
こらこら~喧嘩しちゃ駄目だよぉ~
仲良くしてねぇ~」
『?何の話かしら?誰と喧嘩しますの?』
「アーミアとサラーラだよ~
そんなの決まってるじゃん!」
『そんなの、まだまだ先の話しですわよ。』
「えぇ~?違うよぉ~今の話しだよぉ~」
『早くても3年先ですわよ。』
「違うよぉ~もう居るよぉ~」
『なんですって!』
「もうお腹の中に居るよぉ~
アーミアも。
サラーラも。
いっしょだよぉ~」
『なんですってぇ~~~!』
おやぁ!まぁ!
今回は三つ子か!
まとめて生まれて来るのか!
そりゃまた大変だな~
『聞いてませんわよっ!』




