第72話 禁断の恋
「こ、これが・・・我らが祖先・・・」
ほら、例のリチャードとナイエルの映像ね。
カリトン族は殆ど見てるんだけど、
ホテイドンが見るのは初めてなんだ。
噂には聞いていたんだけどね、
ここはカリトンの領域だからさ~
来たくても来れなかったのよ。
インスタン島の研究施設裏の船着き場に
筏を接岸させたの。
その方が管理し易いからね。
魚人誕生の映像は常時再生だから、いつでも
自由に閲覧が出来るんだ。
若いカップルの定番デートコースになってる。
今日も5組の初々しいペアが来てるよ。
残念ながら水かきが邪魔して恋人繋ぎが
出来ないんだよね~
「本当に人間だったのか・・・」
愛を貫く為に魚人となる道を選んだ。
その事実はティモーヤスの心に誇らしく
また切なく刻みつけられた。
彼はまだ独身だ。
しかもドーテー。
父親の後を継いで族長になったんだけどね。
忙しかったのもあるんだけど実はすんげぇ~
純情でね。
女性に面と向かって話が出来ないんだよ。
魚人の世界は自由恋愛が基本でさ~
親の言い成りで結婚なんて有り得ないんだ。
お見合い結婚はするよ?
でもお互いが気に入ったらの話しね。
100回以上お見合いしたけど全滅・・・
一言も喋らないし、顔も見ない。
相手が気を使って話題を振っても、
「あー」とか「んー」しか言わない。
挙句には「ふぅ~」って溜息をつく始末だ。
いや、緊張し過ぎて呼吸が苦しくなるんだ。
でも相手からしたら「そんなに嫌か!」
ってなるよね~
んで激怒されて終わり~
そんなこんなで気が付いたら、
もう三十代半ば。
本人はもう諦めてるんだけどね。
でも憧れちゃうのよ。
恋人が出来て、愛を育んで、子供が出来て
二人で歳を取って、どちらかが死を看取って
後から行くから待っててねって。
そんな魚人生。
そんな彼には最近、気になる女性が居る。
不思議と緊張しないで話が出来るんだよ!
業務上のちょっとしたやり取りなんだけどね
それでも驚きの出来事なんだよ!
会話が成立するんだ!
「ティモ-ヤスさん、ルルナ様が呼んで
ますよ。」
「あぁ、分かった、すぐ行くよ。」
「ティモーヤスさん、ボタンが取れてるの
直して置きましたからね。」
「あぁ、ありがとう。」
ね!
凄いでしょう?
こないだなんか、思い切ってこちらから
話し掛けてみたんだ。
三十数年の魚人生で初の事だよ~
「リ、リ、リリカ殿、その、なんだ、
さ、魚は生で食べるのと焼いたのは
どっちが好きかな?」
そう!
気になる女性と言うのはリリカ~!
え?
誰かって?忘れちゃった?
しばらく出てこなかったもんね~
ほらほら、カイザの浮気相手だよ~
ほんでハニーに洗脳されて僕になったの。
あの女だよぉ。
「どっちも好きですね。
食事の時は焼いた方が良いし、
お酒のつまみには生の方が合うし。」
「そ、そうか!どっちも好きか!」
「えぇ。」
「そうかそうかそうか。」
「?」
そんな感じだからさぁ、映像を観て
余計に感動したんだよねぇ~
魚人の女性と人間の男性の愛の物語に。
立場は逆だけど、自分を重ねちゃったのよ。
こんど首飾りでもプレゼントしてみようかな
やっぱり真珠が良いかな?
それともサンゴが良いかな?
どっちも似合うだろうな・・・
なんて悩んでいるのだよ~
***
「ねぇねぇサーシア~」
『なぁに?ハニー』
「リリカにロマンスが訪れるかも~」
『ほぉ!詳しく聞かせて頂戴な!』
実はね、サーシアはとっくに許してるんだ。
洗脳も解けてる。
そろそろ3年目になるからね。
一緒に旅を始めてから。
元々ダモンの民だしね。
今では身内として認めた仲間なんだよ。
リリカもすっかり馴染んじゃってね。
昔で言う侍女的な役割が板に付いてる。
ファナッタの姓も授かったんだ。
前世でサーシアの侍女を長年務めた
マルガリテの姓だよ。
ちゃんと認めて貰ったのが嬉しくてね。
嘘偽りの無い忠義者になったんだ。
人って変わる時は変わるもんだね~
顔つきも柔らかくなったよ。
『まぁ!ティモーヤスと?』
「うん、そーなの~」
「いろいろと難しいですね、それは。」
『あら?どうしてかしら?』
「だって魚人と人間ですよ?サーシア」
『そんな事は分かっていますわよ、ルルナ』
「リリカは水中では暮らせませんよ。」
『ティモーヤスが陸に住めば良いですわ。』
「干からびちゃいますよぉ~」
『魔法でなんとか出来ないかしら?』
「しょっちゅう水浴びしないと駄目ですよ。
夏コミのオタク並みにグショグショですよ~」
『人間から魚人になったのだから、また
人間に戻る事は出来ませんの?』
「さぁ?どうなの?ルルベロ。」
「それは無理だよぉ。」
『あら、どうして?』
ナイエルは何世代にも渡って品種改良した
人造人間なんだ。
元々備わっていた器官を補強するだけで
良かったんだよ。
だからリチャードは魚人に成れなかった筈だ。
でも子孫が残っていると言う事は、
自分の遺伝子を改変したのは確かだね。
交配が可能な様にね。
研究資料は残っているだろうから、
それが理解出来れば、なんらかの魔法化も
可能だろうけどさ。
でもサーシアにそんな事は無理だし、
今の時代に魔法科学の再現は不可能だね。
『魔法科学なんてものが生まれましたのね。』
「うん、かなり進んでたよ。」
『魔法だけで充分ですのに。』
「仕方が無いですよ、人の性です。」
運命には逆らっても、好奇心には抗えない。
それが人間だよね~
さてさて、ティモーヤスとリリカ。
どうなるのかな~?




