第68話 禁漁区
寂し気に沖を見つめていた魔子にピピがね、
「海は好きですか?」
って話し掛けたんだ。
「わ、わ、私・・・人魚だから・・・」
「え?魔子様って魚人なんですか!」
「ぎょ、魚人ではなくて、その、あの、
人魚とゆーか、なんてゆーか。」
「どー違うんですかぁ?」
そーなんだよねぇ~
魔子はさ、「魔法の魔子ちゃん」がモデル。
人魚姫をモチーフにした昭和のアニメだよ。
ポニーテールの可愛い子!
「人と魚の間が魚人で・・・
さ、魚と人の間が・・・人魚。」
「へぇ~!そ~なんだぁ?ってどう違うの?」
「に、似たようなものかな・・・」
あぁ~説明すんのが面倒になったな?
「じゃぁ私達と縁の深い精霊様なんですね!」
「そ、そーかな?」
「そうですよぉ!わぁ~なんか嬉しい!
海の精霊様だぁ~!」
「いや・・・そんな大げさな・・・」
「大げさじゃないですよぉ~!」
人間の男に惚れて海を捨てたなんて、
恥ずかしくて言えねぇ~
「ちょっと聞いてくださいよぉ~魔子様ぁ~
あのサーシアって女なんとかして下さいよ。」
ゴメンねピピ!本っ当ゴメン!
「いや・・・私に言われても・・・」
「え~~~、精霊様なんだから聖女より
偉いんでしょう?
他魚の男に手を出すなって言ってやって
下さいよぉ~」
「サ、サーシアに注意するなんて・・・
こ、こ、怖くてとても・・・・」
「精霊様なのにぃ~?」
「サーシアは別格だから・・・」
「やっぱり極悪淫乱女なんだ!」
「い、いや、そーは言って無い・・・」
「そろそろ我慢の限界なんですよねっ!」
「ちょっと・・・落ち着いて・・・」
「よしっ!決めた!」
「何を?」
「決闘よっ!」
「け、決闘・・・」
うわぁ~
それ、サーシアが喜ぶだけ~
***
『で?どんな勝負をしますの?』
基礎部分が組み上がった大筏をボォ~っと
見て居る所に、頭に血の昇ったピピが来て
「あんた!私と決闘しなさいっ!」
って言い出したんだ。
もう、魔子がオロオロしてるよ。
「決まってるでしょう!タマクラ~ベよっ!」
魚人の決闘と言えばタマクラ~ベだね!
日が昇って落ちるまでの間に採って来た
真珠を比べて、優れている方が勝ち!
平和的でしょう?
『宜しいですわよ。』
「あんたは人間だからハンデをあげる。
ひとりだけ助っ人を認めるわ!」
『じゃぁ、カリトンを指名するわね。』
そー言って真っ直ぐ指差す。
「え?お、俺?」
「な!ひ、卑怯な!」
あぁ~やると思ったよ~
相手の一番嫌がる事を察知するのは
サーシアの得意技だよね。
「い、いいわよ!カリトンが相手なら
不足は無いわ!絶対勝ってみせるから!」
「お!俺だって負けねぇぞっ!」
勝負は3日後、正式な決闘として審判も付く。
カリトン族の長老が主審を務める。
ルールは単純明快だ。
これぞ!と思う真珠貝を3個選び持ち帰る。
それを審判の前で開けて、出て来た真珠を
比べるんだ。
最もグレードの高い真珠を採って来た方が
勝利者となるんだよ。
魚人は超音波を操る事が出来るから、
熟練度によっては貝の中身を探知する事が
可能なんだよ。
でも大きさは分かるけど品質までは分らない。
それは実際に開けてみてのお楽しみだね!
そんでもって~
決闘の当日~
「すんげぇ~の採って来るからな!」
『えぇ、楽しみにしていますわね。』
「・・・」
「それでは、これより聖女エルサーシア様と
カリトン族ピピのタマクラ~ベを始める!
双方共に己の誇りにかけて正々堂々と戦い、
結果には潔く従うべし!
始めっ!」
合図と同時に飛び込む二人。
さてさて、どうなる事やら~
***
親が真珠貝の養殖をしているだけあって、
カリトンもなかなかの目利きだ。
良い真珠を抱いている貝の特徴を知っている。
超音波センサーも感度バツグンだよ!
半日もすれば目ぼしい貝を二つも確保した。
正直、ピピには分が悪い。
(このままではマズイわね・・・
ちょっとは手加減しなさいよね・・・
馬鹿・・・)
一発逆転の心当たりは有る。
あそこなら掘り出し物が在る筈だ。
でもそこは立ち入りが禁止されている。
何故ならそこはホテイドン族の縄張り。
カリトン族とは仲が悪い。
(ちょっとだけ・・・端っこの方だけなら)
駄目だよ~ピピ。
馴れない海域だと何が起こるか分かんないよ?
海の怖さを一番知ってる君達じゃないか。
あぁ~~~行っちゃったぁ~~~
***
予想した通りの穴場だ!
水温や豊富な餌など、条件が良いから
丈夫で大きな貝が育つ。
大粒の真珠が期待できそうだ!
夢中になって探している内に、知らず知らず
奥へと流されている。
海流に乗ってしまったんだ。
貝の事で頭が一杯だから気が付いていない。
マズイよピピ!
深入りし過ぎてるよ!
「おいっ!お前!何してる!」
ほらぁ~!見つかったよぉ~!
「え?あっ!しまった!」
辺りを見回しても全く見覚えが無い。
当たり前だ。
他所の海域だもん。
「カリトンの娘か!」
「真珠を盗みに来やがったな!」
「いい度胸してるなぁ、お嬢ちゃん!」
「覚悟は出来てるんだろうなぁ!」
「ご、ごめんなさい!」
「謝っても駄目だ!一緒に来い!」
「目一杯こらしめてやるから覚悟しな!」
「諦めるんだなぁ!」
「た、助けて・・・カリトン・・・」
「ピピ~~~!」
おぉ~~~!カリトン~~~!
来たかぁ~~~!
「カリトンっ!」
「ピピを放せっ!」
「何だ!仲間が居たのか!」
「このクソガキがっ!やっちまえ!」
「ピピ!逃げろ!」
「で!でも!」
「いいから行け!みんなに知らせろ!」
「そんな!いや!」
「早く!早く行け!」
「逃がすか!」
「行けぇ!ピピ~~~!」
ピピは全力で泳いだ!
カリトンの指さす方に向かって!
急げ!急げ!急げ!
助けを呼ぶんだ!
(あぁ・・・まただ・・・また・・・)
あの時もそうだった。
小魚を夢中で追いかけて、ウツボの巣に
飛び込んでしまった。
馬鹿なのは私だ・・・




