第66話 海のカリトン
大河シアラムの下流地域は肥沃な土壌の
大穀倉地帯だった。
それは今でも変わらない。
大災厄のあと千年は荒れ放題だったけど、
人が増えるに連れて徐々に開墾されて、
広大な農地が蘇っている。
でも河口付近では様相が一変する。
草木も生えない荒涼とした砂漠が現れる。
旧バルドー帝国の都パーリゾンが在った
地域だ。
サラサラの砂と言うよりも、カチカチの
セメントの様な大地が白くうねっている。
日中は強烈な日差しを受けて焼け付き、
雨水は留まる事なく流れ去る。
河川敷の僅かな部分にだけ雑草が生えている。
まさに呪われた土地だ。
『さすがに熱いですわね・・・』
「照り返しがキツイですね。」
陽が高い間は進めないなぁ~
イクアナもバテちゃう暑さだよ。
早朝と夕方に移動して、日中は車の間に
幕を張って日差しを凌ぐんだ。
『1万年も経っていますのに、まだ再生は
しませんのね。』
「分子レベルに分解しましたからねぇ。」
そう!この土地を呪ったのはサーシアだ!
カルアンを殺されて怒りに支配されたんだ。
そしてこの土地にある全ての存在を否定する
大魔法を発動したんだよ。
人も草も樹も鳥も獣も、みんな細かい粒子と
なって崩れ落ちたんだ。
雨が降ってドロドロのスープの様になり、
乾いて固まり、日差しに温められて膨張し、
夜間に冷えて縮む。
それを繰り返してバリバリにひび割れて、
今の姿になったんだ。
「まだ怒っていますか?」
『まさか!そこまで執念深くありませんわ。』
「どうやら、まだ少し魔法の作用が残って
いるようですね。」
『あら!そうですの?』
「えぇ、魔子がそう言っていますよ。」
『あの子、そーゆーのに敏感ですものね。』
「未だに再生しないのは、そのせいですね。」
『何ですの?私が悪いの?』
「いいえ、でも魔法が復活したら解除して
あげてくださいね。」
『そうですわね。このままでは後味が
悪いですものね。』
「えぇ。」
魔法の影響力が無くなれば、3年で草が生え、
10年で木が育ち、100年で林が出来て
千年もすれば豊かな森に成るだろうね。
しかし1万年も効果が持続するなんてねぇ~
さすがサーシアの本気の一撃だよね。
あれで世界情勢がガラッと変わったもんね。
大災厄までの五千年間は一度も戦争が
起きなかったよね。
聖女を本気で怒らせたら国どころか
国土そのものが滅びるって、
みんながそう思ったんだ。
だから、武力衝突する前に教会に裁定を
依頼するようになった。
勝手に戦争を始めるなんて、
とても怖くて出来ない。
パーリゾンの惨状が戒めとして人々の
歯止めになったんだよ。
サーシアはあくまでも個人的な感情で動く。
でも結果として世界を導く事になる。
そーゆー存在なんだよ。
それが特異点。
それがエルサーシアと言う運命。
***
「あれぇ~オージーじゃんか~!
久し振りぃ~!」
「グオゥ~~~」
「どーしたのぉ~?」
「グオグオグオ~~~グオゥ~」
あっ!セイレンだぁ~!
横に居る生意気そうなクソガキはお前の子か?
「サーシア?あぁ~!イリュパーの娘かぁ!」
「ガオガオグオ~」
「イリュパーは元気?」
「グロロロガロロロ」
乳飲み子が居るから一緒には来れなかった事、
今はダモンの族長として頑張ってる事なんかを
伝えた。
「そうかぁ~会いたかったなぁ~イリュパー」
「かーちゃん!なんだコイツ!」
「グオ?」
「こらカリトン!オージーは精霊だぞっ!」
「え?コイツが?」
ほぉ~!カリトンって名か~
カリトン族のカリトンかぁ~
見た目通りの生意気な奴だぁ~
「ほら、人間の友達が居るって言ったろ?」
「うん、聖女を産む為に旅をしてるんだろ?」
「そうそう、その娘の聖女がもうすぐここに
来るんだってさ。」
「へぇ~!どんな奴だろう?」
「きっと美人だよ!イリュパーもかなりの
美人だったからね。」
「ふ、ふ~ん。」
「友達になってあげなよ。」
「か、か~ちゃんがそー言うなら?」
残念~~~ん!
二人とも彼氏持ちだよぉ~~~ん!
***
「うわぁ~!可っ愛ゎい~い!
どっちがルルナで、どっちがサーシア?」
「私がルルナです。そして妹のサーシアです。
あなたがセイレンですね?」
「そーよ!あぁ、これ息子のカリトン!」
「お、おっす・・・」
『まぁ!香ばしい名前ですわねっ!』
こ、こらサーシアっ!やめなさいっ!
まぁ、聞こえないから良いか・・・
「私さぁ~旦那の手伝いで真珠貝の養殖
してんのよぉ~
今は真珠核を入れる作業が忙しくてねぇ。
一緒には行けないから、代わりに息子に
案内させるよ。」
カリトンの黒真珠は人間界でも人気だね!
高値で取引されているよ。
「そうですか、よろしくお願いしますね。」
「おぉ!任せとけよ!」
「私も行くわよっ!」
「うわっ!ピピ!何しに来た!」
「だから!私も行くって言ってるの!」
『おほぅ!これはこれは~』
嬉しそうだね~サーシア~
オモチャを見つけた時の顔だよぉ~




