第59話 押せば命の泉ワクワク
「この集落の何所が気に入ったんですか?」
かれこれ10日目になるな。
もう1日、後もう1日と出発を延ばしている。
『気に入ってなどいませんわよ。』
「えぇ~?じゃぁ何故ですか?」
『何がですの?ルルナ。』
「そろそろ出発しませんか?サーシア。」
『まだ早いですわ~』
「遅いくらいですよ!」
『そうですのよね~じれったいですわぁ~』
「何がですか?」
『ねぇルルナ?』
「何ですか?サーシア。」
『年頃の男女が7日間毎日デートしてたら、
キスくらいしますわよね?』
「さぁ~?」
『恋のひとつくらいなさいな、ルルナ。』
「してますよ。」
『あら!そうなの?相手は誰かしら?』
「うふっ!サーシアに決まってますよ。」
『まぁ!ルルナったら~』
何やってんだ?お前ら~
***
「何をしておるのだ?シャリィ。
まだ落とせぬのか?」
「はい・・・その・・・申し訳ありません。」
「早くあの者をこちらに引き込むのだ、
これを使うがよい。」
そう言ってピヨラールは茶色の小瓶を出した。
遺跡からの発掘品だね。
え~っと確かそれは青髭薬局の~
「ストロング・ケケマムシZ」じゃん!
超強力精力剤!
「これは?」
「男を獣にする薬じゃ。
宿屋に誘い込んで、茶に3滴たらして
飲ませるのじゃ。後は分かるな?」
「・・・はい・・・猊下・・・」
いや強引だなぁ~
ウブな二人だから、なかなか進まないのに、
いきなりそれ使っちゃう?
もう止まらなくなるよ?
理性が吹っ飛んじゃうからね、それ。
初体験でそれは可哀そうだよぉ~
ロマンスのカケラも無いよぉ~
変態のクソエロ親父が使うやつだよ~
それにさぁ~3滴は多いよ?
オジサンのグータラ息子を叩き起こす量だよ。
思春期バリバリのトールちゃんに使ったら、
効き過ぎて危険だよ。
ケケエキスも入ってるからね。
中枢神経を興奮させる作用が有るんだ。
急性中毒症状を起こすかも知れないよ?
用法用量を守って正しくご使用下さい!
~青髭薬局~
***
「チュ~チュチュチュ。」
「ウキキウキウキ。」
あっさりと宿屋に連れ込まれたトールちゃん。
一時利用OKのお店。
狭い部屋にベッドが一つとテーブルが一つ。
こんな所に来るのなんて当然初めてだから、
二人とも緊張して固まってるよ。
「ど、どう?少しは楽になった?」
一人で出歩くのが怖いってシャリィが
言うもんだからね、
「じゃぁ俺が付いててやるよ!」
って約束しちゃったのよ。
後から追い駆けるから、先に出発してくれ
って頼んだら、しばらくは此処に居るって
サーシアが言ったのよね。
もちろん全部お見通しだよん!
んで~
今日も作物をお得意さんに配達してからの
帰り道でね。
急にシャリィが眩暈がするって言い出したの。
ちょうど目の前に宿屋があってね。
都合の良い事に休憩利用が出来るお店でね。
「ねぇ、ちょっと休んで行きましょう?」
って言われてね。
「う、うん・・・そうだね。」
って流れなんだよ~
ちょろいよぉ~トールちゃん。
ちょろ過ぎるよぉ~
「す、少し楽になったかな?」
「そ、そうか!良かった・・・」
あ~も~イライラする~~~!
YOU達もう、やっちゃいなよっ!
情熱熱風シリナーデなんだからさぁ!
薬なんか必要ないじゃん!
ベッドに並んで座ってる時点で
そーゆー流れじゃ~ん!
「の!喉乾いたね!」
「え?あ、あぁ、そうだね?」
「お、お、お茶貰って来るね!」
「う、うん。」
ほらぁ~モタモタしてるから~
しっかりしなさいよ~
トールちゃん。
ボ~っと壁のシミを見つめながら待ってる。
ふと隣の部屋からの声が漏れて来る。
シェケナベイベ~!
「はは・・ははは・・・」
「おまたせ~」
「うわっ!」
「え?ど、どうしたの?」
「い、い、いや!なんでもない!」
「そ、そう?お湯とお茶っ葉貰って
来たから、今入れるね。」
「うん。」
シェケナベイベ~!
「け、け、結構聞こえちゃうんだね。」
「そ、そう?ぜんぜん気にならないよ。」
シェケナベイベ~!
「・・・」
「・・・」
シェケナベイベ~!
シェケナベイベ~!
シェケナベイベ~!
シェケナ!シェケナ!シェケナ!
シェケナベイベ~~~~~~!
小瓶を持つ手が震える・・・
こんな事したくない・・・
あぁ・・・トール・・・
ごめんなさい・・・
罪悪感と緊張でブルブルしてるよ。
ほらほら、そんな手でやったら・・・
あちゃぁ~ボトボト零れてるじゃん!
振りかけてるじゃん!
何滴ってレベルじゃ無いよ~!
死ぬ死ぬ死ぬ!
それ飲んだら色んな血管が切れて死ぬ!
海綿体が破裂しちゃうよぉ~!
「チュ~~~チュチュチュ~。」
「ウキャウキャキィ~キキ。」
「そ、そ、粗茶ですが・・・」
粗茶どころじゃねぇ~よっ!
無知って怖ぁ~い。
「あぁ、ありがとう。」
ト、トールちゃん!駄目だって!
飲んじゃ駄目ぇ~~~!
「飲んじゃダメェ~~~!」
それ先に私が言ったの~~~!
「え?え?え?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!
ごめんなさい!ごめんなさい!
うわぁ~~~~~~~~~~ん!」
はぁ~~~
ほっとしたよぉ~
「ウキッウキャキャウキウキ。」
「チュウ~。」




