第58話 花とミツバチ
どんな組織にも言える事なんだけどね。
上に行くほど打算的になってしまってね。
組織の維持と保身が主眼になるんだ。
無理もないんだけどね。
抱えるものが大きいとそーなっちゃうんだよ。
いつまでも理想に燃える情熱は続かない。
最初は小さな妥協から始まってね。
気が付くとすっかり汚れているんだ。
美しくも青臭い正義感が消えるのは、
だいたい20歳から25歳くらいかな?
文字通り青春と共に終わるんだ。
もちろん例外な人も居るよ、少数だけどね。
これには理由があってね。
単に経験を積んだからって話じゃないんだ。
脳の発達に大きな要因が有るんだよ。
胎児が母体の中で進化の歴史過程を辿ると
ゆーのは良く知られているよね?
でも人間って他の動物に比べて未熟な状態で
産まれて来るものだから、
一通り完成するまでには、更に年月が
必要なのね。
脳がね、未完成なのよね。
脳内で信号を伝達しているのは灰白質と
呼ばれる”軸索”なんだけどね。
これをコーティングしているミエリンと言う
物質が有るんだ。
白質と呼ばれているよ。
このコーティングが有るのと無いのとでは
信号の伝達スピードが桁違いに変わるんだよ。
後頭部から前頭部へと進んでいってね、
前頭葉までコーティングが行き渡るのは、
青年期以降なんだよね。
思春期の若者が短絡的なのは、脳の生育が
不十分だからなんだ。
本能を司っている小脳の影響力が強いのね。
対して社会性を司る前頭葉は反応が遅い。
ふと夢から醒めるんだ。
世界から光が消えた様に思うんだよ。
そして埋没して行くんだ。
その代償として地位や名誉、富を求める。
もっともらしい言い訳をしながらね。
誰にでもキラキラと輝いていた時期が有る。
でもそれは振り返って見ると恥ずかしい
黒歴史に思えちゃうのね。
それを否定するように現実路線を取るのよ。
それが賢い選択だと考えるのね。
損得で道を選ぶのが正解だとね。
それが大人の責任だってね。
***
「そなたの揺ぎ無い信仰を神に捧げよ。」
「はい、猊下。仰せのままに。」
おやおや、まぁまぁ。
そんな幼気な少女に何をさせる気なんだい?
あんまりあくどいと許して貰えなくなるよ?
一線を越えた者に容赦はしないよ?
弁解も聞かないよ?
サーシアは。
少女の名はシャリィ。
郊外の農民の娘だ。
家族全員が敬虔なジェバスチャンでね。
ピヨラールを匿っているんだ。
教団の幹部連中は、ほとんど改宗したよ。
これまで通りの地位を保証してやるって
言ったらあっさりね。
信用は出来ないけれど、仕方が無いんだ。
クーデターってのは組織の乗っ取りだからね。
片っ端から粛清なんてしたら組織運営が
出来なくなるもんね。
でも末端の信者には、まだまだ堅い信仰を
守っている者も多く残っているんだ。
早いこと祭壇を再起動しないとねぇ。
精霊の加護がどーたらこーたら言ってもさ、
今は絵に描いたティラミスだもんね~
ただの茶色い四角形だよ。
「お願い!助けて!」
市場を歩いていたら、いきなり後ろから
抱き着かれた!
む、胸が!
ほんのりと柔らかい胸の感触が!
「うわっ!な!え?な、何?」
びっくり~
ほんのり~
どっきり~
おもわずもっこり~
思春期なんだからぁ~
トールちゃん!
「居たぞっ!捕まえろっ!」
「嫌ぁ~!」
「ちょっ!ちょっと待てっ!」
「なんだぁ~?お前は~?」
「おいニーチャン!怪我したく無かったら、
邪魔すんじゃねぇ!」
「この娘が何をしたって言うんだ!」
「私!何もしてない!」
「つべこべ言わずに来いっ!」
「やめろっ!」
「この野郎!ぶち殺すぞっ!」
「おいっ!待てっ!こいつは!」
「あ?何だ?」
「こいつ、聖女様の従者じゃねぇ~か?」
「そー言えば見た事あるぞ!」
「やべぇよ、おい。」
「くそっ!行くぞっ!」
「あぁ・・・」
トールちゃんの素性に気が付いた荒くれ達が
そそくさと退散した。
「あ!ありがとう!助けてくれて!」
そー言うと今度は正面から抱き着いて来た!
「お、おぅ・・・」
ま、前からもほんのり~
「私はシャリィって言うの!あなたは?」
「お、おれはトールだ。」
「トール・・・素敵な名前ねトール。」
「そ、そうか?」
「あの人達、急に絡んで来て一緒に来いって。
断ったのに無理やり連れて行こうとしたの。」
「それは災難だったな。」
「でもトールが助けてくれたから。」
「あ、あぁ。」
「でもまた来たらどうしよう・・・怖い。」
「お!俺が家まで送って行ってやるよ!」
「本当!嬉しい!」
なんだぁ~?この猿芝居はぁ~?




