第56話 其源可以濫觴
「其の源や以て觴の濫る可し」
~孔子家語
滔々と流れる大河も、その始まりは盃から
溢れる程度の小さな流れが源である。
更に、こう続く
”非惟下流水多邪”
「下り流るを惟えば水多きに非ず邪」
下に向かって流れるからこそ、
大河となるのだと。
つまり、人の上に立つ者は常に民衆の心に
気を配りなさいと言う事だってさ~
それならそー言えよ~
遠まわし過ぎて、わかんねぇ~よ~
***
『あぁぁぁぁ気持ちがぁぁぁぁ
良いですぅぅぅぅわぁぁぁぁぁぁ』
細い糸の様な小さな滝だ。
滝か?
単に湧水が岩から落ちてるだけじゃん。
それでも滝って言うのかな?
ビシャビシャと脳天で受けているサーシア。
胡坐をかいて仏像みたいに禅定印を結ぶ。
いや、ただの雰囲気でやってるだけね。
修行とか瞑想とか関係ないから~
なんだかんだで半年ほどハイラムで過ごした。
新体制になった教団の運営も廻り始めた。
そろそろ行かないと~って事でね。
そして旅は再開したんだ。
寄り道ばっかりして1年が過ぎちゃったよ。
まだまだ先は長いよ?
再びのデンデス越え。
今度はバルドー側に抜けるルートだよ。
今サーシア達は小さな泉で水浴びの最中。
大河シアラムの源流のひとつなんだ。
「あんまり長くしてるとハゲますよ~」
『え?ウソでしょう?』
「『涓滴岩を穿つ』って言いますからね。」
『英語は苦手ですわ。』
”Kentucky Wow! God!!”って聞こえた~
意味わかんねぇ~
「日本語ですよっ!」
『あら?そうですの?どう言う意味かしら?』
「小さな水滴でも一か所に集中すれば、
硬い岩にも穴が開くって意味ですよ。」
『まぁ!怖いですわね!』
このさい穴を開けて脳みそ洗った方が
良いんじゃねぇ~か?お前は。
「さぁ、こっちへ来て下さいサーシア。
髪を乾かしましょう。
ルルベロ、お願いしますね。」
「は~い。」
ルルベロが風を送って、ルルナが髪を梳く。
乾いた所で丁寧に結って行く。
我が子を慈しむ様な微笑みのルルナ。
薄い肌着に成長期の曲線が透けて浮び上る。
あぁ~麗しい。
その光景を木陰からそっと覗き見る男。
思春期トールちゃん。
わかるよぉ~
「ユーリ・・・ユーリ・・・」
愛しい人の名を呟くと胸が内側に潰れそうに
傷むんだよね。
それは片思いだからなんだよトールちゃん。
叶いそうにも無い恋心が膝を抱えて震える。
見る度に辛くなる、でも視線は追わずに
居られないんだよねトールちゃん。
分かってはいたんだ、彼女は手に入らない。
それでも良いと思ってたんだ。
側に居られるだけで良いと。
そうだよねトールちゃん。
でも、あいつが現れた!
何故だっ!
何故オランには微笑む?
アジャにだけだから納得が出来たのに!
オランとも笑顔で話すのか!
なのに何故、俺には冷たい!
どうして・・・
だよねぇ~トールちゃん。
そー思うよねぇ~トールちゃん。
それはねトールちゃん。
もうわかってるよね?トールちゃん。
ルルナ、いやユーリの心にはアジャしか
居ないんだよ。
アジャがオランを気に入っているから、
ユーリもオランに微笑むんだ。
嫌われているのでは無いよ。
無関心なんだ。
アジャ以外の人間に関心が無い。
実はね、勝手ながら期待してたんだよ。
トールちゃんだったら上手く行くかなってさ。
せっかく人間に生まれたんだから、
恋のひとつくらい経験させてやりたいじゃん。
でも駄目みたいだね。
御免よトールちゃん。
体は人間でも心は精霊の時のままなんだね、
ユーリは。
あぁ、トールちゃん。
君は悪くないよ、何も悪くない。
人を好きになる事が悪い筈なんて無い。
だからねトールちゃん。
そんな暗い目をしないでおくれよ。
いつか君を癒してくれる人が現れるよ。
ちゃんと探してごらん、きっと見つかるから。
ユーリしか見ていないと逃げちゃうよ?
そーゆーもんなんだ縁と言うのはね。
***
そんなトールを興味深げに見つめる者が居る。
「猊下、何時でも撃てます。」
「いや、今日はやめて置こう。」
「何か不都合でも御座いましたか?」
「面白いものを見つけた。」
「あの少年ですか?」
「あぁ、使えるやも知れぬ。」
行方を眩ましていた教皇ピヨラール三世。
サーシアの跡を付けて来たのか?
何をするつもりだったんだ?
隣の男が持ってるのは・・・確か・・・
銃だ!
カートリッヂ式魔法銃ジェバー!
思い出したよ!
大災厄の直後に開発された武器だ。
大災厄と言ってもね、いきなり天変地異が
襲って来たわけでは無いんだ。
最初はやたらと熱い日が続くなぁって感じ?
それから年を追うごとに気象が激しくなって
徐々に生活が脅かされて行ったんだよ。
それと並行して精霊を失う人が、だんだんと
増えて行ったでしょう?
その中には当然、軍人や憲兵も居るのね。
深刻な人手不足に陥ってしまってさ、
どうにかして治安を維持しないとマズい!
って事で開発されたのがカートリッヂ式魔法。
一時停止状態にした魔法をカートリッヂに
封印してね、魔法陣を刻んだトリガーで
打撃すると、誰でも魔法を発動する事が
出来るの。
何を隠そう!
開発者は魔法具職人ルルベロ~!
その時の契約者が、聖女スザンナ・ジェバー!
いやぁ~思い出せて良かったぁ~
ずぅ~っとモヤモヤしてたんだよねぇ~
なんだっけかなぁ~って。
あれ気持ち悪いよねぇ~
そうか~
大事に持ってたのか~
ジェバーの光って、それの事だったのね。
「あの目、暗く澱んだ良い目をしておる。
裏切り者の目じゃ。」
なんだぁ?
トールちゃんに手を出す気かぁ?
トールちゃぁ~~~ん!
後ろ~後ろ~~~!




