第52話 ジェバーの光
特に人は抗う生き物だね。
運命に抗い、死に抗う。
どうすれば抗えるのかを考える。
そして何かに縋る。
素手で敵わない時は道具に縋る。
独りで為せないのなら集団に縋る。
でもどうしても死には抗えない。
そこで人は神様を信じる事にしたんだ。
死の向こう側にも世界が在るってね。
神様に気に入って貰えたら行けるって。
それって異世界転生だよね?
でも天国とかの理想郷ってさぁ、
何を目的にすれば良いのかなぁ?
すべてが満たされているんでしょう?
なんにもする事が無いじゃん。
退屈で死んじゃうよぉ~
エッチな本は持って行けるのかな?
***
神敵アズラの使徒襲来!
衝撃の報せが駆け巡った。
デンデスを越えた旧ハイラムの地域は
ジェバー教の最大版図になっている。
六柱の精霊と二人の聖女。
いや、彼らの呼称では悪魔と魔女だな。
五人の従属と一体の魔人。
狂暴な魔獣達を従えて南下してくるってさ。
え?一柱足りない?
あぁ、サリーちゃんね!
あの子はダモンでお留守番だよ。
イリュパーの後ろ盾としてね。
それはそうと魔人ってオランの事だよね?
不憫な子だよぉ~
もうね、最初の集落から敵意むき出しだよ。
「邪悪なるアズラの使徒よ!此の地は
太陽神ジェバーの守護したもう所なり!
今直ぐ立ち去り、常闇に戻るが良いっ!」
「入って良いか聞いてくるよ。」
今の聞いてたか?イワン。
どう考えても駄目って言うに決まってるだろ!
『危ないから駄目よイワン。
ミコ、ちょっと行って来てちょうだいな。』
「は~い、まかせてね~」
そうそう、こーゆー時はミコの出番だよね。
言葉の魔術師ミコ。
音声に特殊な波長を乗せて思考力を奪うんだ。
話しの内容なんて何でも良いんだよ。
ただ声を聴かせるだけで相手は納得する。
「やぁ!初めましてみなさん。
私は精霊のミコ。宜しくね!」
「こっ!このっ!悪魔め・・・その・・・
あの・・・なんだ・・・え~っと・・・」
接続完了!
「私達ね、長旅でとっても疲れているの。
だからね、宿屋さんにお泊りして~
美味しいお料理を食べて~
の~んびりしたいなぁ~って思ってるの。」
コマンドリクエスト送信!
「あ・・・あぁ・・・そうか・・・」
「お勧めのお店を教えて欲しいな~」
命令文実行!
「それならタターリの店が良いな・・・
案内するよ・・・」
ねっ!
交渉事はミコにお任せっ!
実際はハッキングだけどね~
ハニーの洗脳と違って一時的な操作なんだ。
数日で術が解ける。
利点は手間が掛からず一瞬で効果が出る所。
洗脳は一定の調教時間が必要だからねぇ。
『ご苦労様でしたわね、ミコ。』
「楽勝だよぉ。」
集落一番の宿屋に案内された。
ちゃんと料金は払うよ!
我儘だけど悪どいわけじゃ無いからね!
どちらかと言うと気前の良い方だよ、
サーシアは。
『何のお肉か聞いては駄目ですわよルルナ。』
「えぇ、分かってますよサーシア。」
「当店自慢のドグマの丸焼きで御座います!」
大ムカデ~~~!
「おぉぉぉえぇぇぇ~!」
***
「カルヤの集落が?」
「はい、奴らに操られてしまった様です!」
「なんと邪悪な!手をこまねいては居れぬ
戦士を集めよ!ジェバードじゃ!」
「はっ!」
「今に見て居れ悪魔めっ!ジェバーの光で
消し去ってくれるわっ!」
そう言えば、”ジェバー”ってどっかで聞いた
ような気がするなぁ~?
いや、ジェバー教じゃなしに別の何かね。
なんだっけかなぁ~?




