第49話 野人オラン
子供の頃から同世代の子よりも頭二つ分
抜けていた。
15歳にもなると集落一の巨人になった。
腕も足も、それを駆使する体も鋼の様な
筋肉で覆われている。
バリバリと骨ごと食べる大きな歯と
受け口の頑丈な顎は、いかにも恐ろしげだ。
性癖が暴走しちゃうから細かい描写は
しないよ。
男の娘もラブリ~だけどマッチョも素敵っ!
あぁ~その腕で鯖折り固めされてみたい....
アブナイ、アブナイ・・・気を付けないとね。
最近ブレーキが甘くなってるんだよねぇ。
車だったら車検が通らないレベルだよ。
え~っと何の話だっけ?
そうそう!
僧帽筋に頬ずりする話~~~!
違がぁ~~~うっ!
***
その男の名はオラン。
リスやネズミなどの小動物をこよなく愛する
心優しき巨人。
でもその優しさを知っているのは家族だけ。
集落の他の者は近づこうとしないんだ。
やっぱり怖いみたい。
顔が!
息も荒いんだよね。
体が大きいからエネルギーの消費も多い。
象みたいにゆ~っくり動けば別だけど、
周りの人と同じペースで生活すると心拍数が
多くなって、何時でもフ~フ~してる。
その時に声帯が震えて低い唸り声が出るんだ。
グルルル~ガルルル~
って感じでね。
大きな体にコンプレックスが有るから、
少しでも小さく見せようとして背中を丸め
中腰の姿勢になってしまうんだよ。
バランスを取るために腕を体の前で構える。
でもねオラン。
その姿勢はストロングスタイルのレスラー
みたいで、余計に怖いんだよ?
そのギョロっとした目で見られたらビビって
漏れそうになっちゃう!
「なんだコノヤロー。」って言ってごらん。
そのまんまアントニオ・狸木だよぉ~
「そろそろ薪を準備しないとねぇ。
オラン、採って来ておくれ。」
「うん!わかったよっ!母さん!」
「大きな声をだすんじゃないよ!
いつも言ってるだろ!」
「ご、ごめんよ~母さん・・・」
いたって普通の御婦人だ。
良く産めたなぁ~
大変だったろうな、出産。
「まったく、なんでこんなにデカく
なっちまったかねぇ?」
「・・・」
「ほら、さっさと行っといで。」
「うん、行ってくるよ。」
荷車を曳いて家を出ようとする所を
姉に呼び止められた。
「オラン、山へ行くの?」
「うん。」
「きのう北の山でクワキラスを見たって
マーチンが言ってたの。
あっちは止めときなさい。」
「わかったよ姉さん。」
クワキラスって言うのはね、
前足が大きな鍬になってる蟲なんだ。
大型で肉食性の狂暴な奴でね、
時々、犠牲者が出る。
あっ!そうだ「虫」と「蟲」の使い分け
だけどね。
普通の虫が「虫」で~
巨大化したのが「蟲」だよん!
今、思いついた~
これからは、そーゆー事にするね。
修正するのが面倒くさいから、これまでの
やつは許してね~
それじゃぁ今日は西の山にしようかな?
薪ってさ、広葉樹の方が適してるって
一般には言われてるそうなんだ。
んで~調べてみたらね、乾燥した状態での
比重に依るらしいのね。
それと油分の含有量で着火性が良かったり
悪かったりするんだってさ。
乾燥が甘いと可燃性の煤が発生して、
火事の原因になったりするんだとか。
中には有毒性のガスが出る木も有るから
注意が必要なんだって。
薪にも専門知識が必要なんだねぇ~
燃えれば良いってもんでも無いんだね~
「この木にするかな?」
丁度良さそうな太さの樫の木を見つけた!
硬いんだよねぇ樫の木って。
でも怪力オランならヘッチャラ!
でっかい斧でガンガン打ち込んで行く。
あっと言う間に切り倒して、今度はブツ切り。
後は担いで荷車まで何回か往復するだけだ。
夕方までには家に帰れそうだね。
「ん?なんだぁ?」
ふと作業の手を止めて周囲を見廻す。
今、声が聞こえた様な・・・
もう一度、耳を澄ます・・・
「いやぁ~~~っ!助けてぇ~~~!」
女の人の悲鳴だ!
確かに聞こえた!
ちょっと遠いな!
急がないとヤバそうだ!
オランは声のした方に向かって駆けた。
しばらく走り続けると・・・見つけた!
クワキラスだっ!
女の人が襲われている!
「うがぁ~~~!」
「キィィィィッ!」
オラン対クワキラス 南国の決闘!
まぁ、勝負にならないね~
斧の一振りで真っ二つだよぉ。
「だっ!大丈夫?」
大丈夫なわけないじゃん~
ぐったりして動かないよぉ。
あぁ・・・この娘はマリアンだ・・・
同じ集落の子だ・・・
可哀そうに相当な深手だな。
「あ・・・オラン?・・・」
「うん。」
「ベスが・・・ベスが・・・」
もう一人居るのか!
どこだ?
あたりを見廻すと少し離れた所に倒れていた。
駄目だ・・・死んでる・・・
「ベスは?」
オランは首を振った。
「あぁ・・・ベス・・・」
だんだん息が弱くなって行く。
マリアンも既に手遅れだ。
「しっかり!連れて帰ってやるからな!」
「うん・・・オラン・・・」
「何?」
「優しいね・・・オラン・・・」
「あ、ありがとう・・・」
初めて他人から優しいと言われた。
でもその人はオランの腕の中で今、
たった今、死んでしまった。
***
「おぉ~~~い!マリア~~~ン!
ベスぅ~~~!どこだぁ~~~!」
朝早くからキノコを採りに出かけたまま
帰って来ない二人を探しに、
集落の男達が捜索している。
いくらなんでも遅すぎる!
何かあったに違いない!
「おい!あれオランじゃないか?」
「あぁ、何してんだ?あいつ。」
「あっ!人だっ!人を担いでるぞっ!」
「マリアンだっ!あの服はマリアンだっ!」
「ベスもだっ!」
「あの野郎!とうとうやりやがったっ!」
男達は怒りと憎しみに支配された。




