第47話 命定め
咳や鼻水が止まらない。
高熱も出ている。
顔や首筋に赤い発疹が現れて、
やがて全身に広がる。
あぁ~これはあれだ~
麻疹だぁ~
そー言えば数日前も熱っぽい顔してたな。
直ぐに回復したから軽い風邪かな?
なんて思ってたんだけどね。
潜伏期間を考えると最後に立ち寄った集落で
感染したんだろうね。
広場で旅芸人の人間ポンプ見てたから、
あの時じゃないかなぁ?
と言う事は~
当然ながらサーシアもだよね!
「すみません・・・私のせいで・・・」
『はぁ~はぁ~・・・どっちが先か・・・
なんて・・・分かりませんわ・・・よ。
はぁ~・・・はぁ~・・・』
「私が・・・もっとしっかり・・・して
・・・サーシアをこんな目には・・・」
『もう良いから・・・はぁ~はぁ~・・・
お眠りなさいな・・・はぁ~・・・』
他の者はみんな免疫を持っているから、
罹患する心配は無いよ。
アベラとリリカが付きっきりで看病してる。
実は麻疹には治療法が無いんだ。
現代の地球でも予防接種するくらいで、
発病したら自然治癒に任せるだけ。
体力勝負だね。
子供の時に発症する事が多いから、
昔は死亡率が高くてね。
体力の無い子は死んでしまう。
「命定め」って言われたんだ。
選別の秤に掛けられているって感覚だね。
「大丈夫かな・・・ユーリ・・・死んだり
しないよな?」
「大丈夫だと思うよ。」
「思うよってなんだよ!絶対大丈夫だっ!」
かなりうろ来てるなトールは。
弱気なのか?強気なのか?
弱気だなこりゃ。
イワンとトールが洗濯しながら話している。
二人が洗っているのはサーシアとルルナの
肌着だ。
とにかく清潔にしなきゃって事で、
何回も着替えるからね。
替えのストックは充分にあるけど、
汚れたままにして置くのをサーシアが
許さなかったんだよ。
かと言って女性陣は看病で手が離せないから
イワンとトールが手伝ってるわけよ。
あぁ、パンツはルルベロが洗ってるよ。
丁寧な仕事には定評があるんだ。
ハニーとかモモなんか雑だからねぇ。
大切なパンツは任せられないよ。
サーシアはイワンに洗わせようとしたけど、
ルルナが「絶対・・・駄目・・・ですぅ~」
って朦朧としながらも反対したんだ。
『ほ・・・他の・・・はぁ~はぁ~・・・
人に・・・はぁ~・・・私の・・・
はぁ~はぁ~・・・パンツを・・・はぁ~
触らせるなんて・・・はぁ~はぁ~・・・
耐えられませんわ・・・よ・・・はぁ~』
「だ・・・だ・・・だからって・・・イワン
・・・に・・・あ・・・あ・・・洗わせる
・・・なんて・・・許せるわけ・・・
ないですよぉ・・・」
互いに一歩も譲らない攻防が続いてね。
このままじゃ病状が悪化しかねないぞっ!
って事で、ルルベロが手を挙げたんだよ。
「もう、しょーがないなぁ。私が洗うよぉ。」
精霊なら、まぁ~良いか~
ルルベロなら安心出来るし~
サーシアも熱でフラフラだから譲歩したんだ。
普段なら言い出したら絶対に譲らないよ。
いそいそとパンツを手で揉み洗いする精霊。
前代未聞だね!
発病から10日くらいして、ようやく熱が
下がった。
でも体力が回復するまでは出発は見送りだね。
あと5日は、ここで足止め。
『えらい目に遭いましたわね。』
「麻疹は初めてですね、サーシア。」
『えぇ、おたふく風邪はありますけれどね。』
「11歳の時でしたね、顔がパンパンで。」
あ~そー言えばあったなぁ。
精霊院の入学直前だったねぇ~
カルアンが部屋の前をウロウロしてたよね。
侍女のマルガリテに邪魔だって怒られてたよ。
久し振りに車の外へ出て、風に髪を
そよがせている。
麗しき双子が肩を寄せ合って語り合う姿は
実に愛おしい。
双子と言ってもぜんぜん似ていない。
人格を転写する時に遺伝子情報も改変した。
出来るだけ前世に近い形質を再現したんだ。
再現率は70%くらいかなぁ?
物質世界では計算通りに行かないからね。
難しかったのはルルナの方だね。
なんせ前は精霊だったから遺伝子情報なんて
存在しないわけよ。
でもかなり再現出来ているよ!
ちゃんとルルナの顔をしてる。
だからイリュパーにもカイザにも似ていない。
カイザが二人に愛情を感じなかったのは、
もしかしたら、それが原因かも知れないね。
『あなたケラケラ笑っていましたわねぇ。』
「モフモフ喋るから、可愛くって~」
『頬が腫れたのだからそうなりますわよ。』
「ユ、ユーリ、具合はどうだ?」
よく割り込めたな!
勇気があるのか?空気が読めないのか?
「えぇ、もう大丈夫です。」
「そうか!良かった!心配したぞ、ユーリ。」
『まぁ!分かり易いですわねぇ。
私はお邪魔かしら?』
「邪魔なわけ無いですよ!サーシア。」
「あ~アジャ、イワンが退屈そうだったぞ。」
『はいはい。
後は若いお二人でどうぞ~ですわ。』
「ちょっと、サーシア・・・」
お前は妹だぞ、サーシア。




