第45話 追憶
「だ・・・駄目か・・・」
「一瞬でした・・・」
「そんなに強いのか?」
「人間業じゃありませんよ。」
そりゃそうだよ~
精霊だもの。
報告を聞いた王都遺跡の首領は、
残りの兵を集めて内郭に立て籠もった。
徹底抗戦の構えだ。
そもそも、なんでそんなに敵対するの?
聖女と精霊だって事は知ってるんだから
普通は歓迎するでしょう?
なんで?
「我らには太陽神ジェバー様が付いておる!
必ずやお守りくださる!
神敵アズラの使徒聖女、いや魔女に屈しては
ならぬ!」
「おぉ~~~!」
あぁ!こいつらジェバー教の信者か!
なるほど!
ここにも布教してたのか~
本場は南東の旧ハイラム国なんだけどね。
現状、この世界の宗教観は大きく分けて
二つの流れがあってね。
ひとつは精霊信仰の流れを汲むもの、
もうひとつは精霊を悪しき者とする考え。
ジェバー教は後者だね。
教義としては太陽神ジェバーが本尊でね。
人々が精霊に唆されて信仰が歪み
世界中が汚染されたから神罰が降り滅びた。
って説いているんだよ。
大災厄によって精霊の民は滅び、
正しい信仰を守っていたアモンの民だけが
生き延びる事を許された。
今の人類はアモンの民の子孫であると言う。
しかし邪悪な精霊は再び人々の心に忍び込み
勢力を広げている。
いよいよ本格的に世界を支配するために、
精霊は姿を現し、聖女が誕生したのだと
主張しているんだよ。
まぁ、見方を変えればそうとも言えるね~
大小様々な宗教が各地に在るよ。
中でもジェバー教はかなり信者が多いんだ。
実は、かつての時代にも居たんだ。
反精霊を掲げる連中はね。
少数民族レベルだったけどね。
精霊契約を拒んで閉鎖的なコミュニティを
作っていたよ。
精霊教会は信仰を強制しないから、
「どうぞご勝手に。」
って対応だったんだよ。
さて、外郭を突破したサーシア達は
車を降りて街を闊歩していた。
大きな通りは昔のまま再利用されている。
屋敷のあったミーチェー通りも残っている。
『誰も居ませんわね。』
「家の中に隠れてるんじゃないですか?」
『あら?どうして?』
お前が怖いからだよっ!
ついさっき千人からの兵士をぶっ飛ばしたの
忘れたんかっ!
「大きな街だねぇ。家も立派だぁ。」
『こんなの物置小屋ですわ。
昔は貴族のお屋敷が並ぶ一等地でしたのよ。』
「すごいねぇ~」
相変わらずサイコパスだなぁ。
人が住んでるんだよ?そこに・・・
言いたか無いけどサーシアに限っては、
喋れないのが良かったのかも知れないね。
「確かこの辺りでしたね。」
『どうかしら?良く判りませんわ。』
「あの池じゃないですか?」
『あぁ!そうですわね!あれですわ!』
レイサン家の裏庭に在った大きな池。
今もそこに在った。
そうか~
あれを見たかったのか~
「池を見たかったの?」
『ふっふっふ。
ただの池ではありませんわよ。
ハニー、マジンゴーして頂戴!』
「はぁ~い!マジ~ン!ゴ~~~!」
ハニーが呪文を唱えると、地響きと共に
中央から池が真っ二つに割れて、
中から黒鉄の城風の物置小屋が出て来た。
周りの建物の三倍はあるな。
「うわぁ~!凄いなぁ~!」
『素敵でしょう?秘密基地なのよ!』
随分と目立つ秘密基地だな!
『さぁ!どうぞ!お入りあそばせ!』
「おじゃましまぁ~す!」
ここは前世のサーシアの思い出が詰まった
記念館の様なものなんだよ。
家族の等身大フィギュアとか、肖像画とか
記録映像とかもあるよ!
『これがカルアンよ!ほら見て御覧なさいな
あなたにそっくりでしょう?』
「あれ?この人サーシアに似てるね!」
『そう!私ですわ!隣がルルナよ!
もう少し大人になった私とルルナですわ。』
「なんだか恥ずかしいですね・・・」
奥の部屋は衣裳部屋になって居る。
大貴族だった頃の豪華なドレスがぎっしり!
でもそれには目も呉れず素通りして、
さらに奥の小部屋へまっしぐら!
その小部屋の中に在るのは・・・パンツだ!
サーシア自慢のパンツコレクション!
数万枚の高級オーダーメイドのパンツ!
子供時代からのも捨てずに取ってあるんだ。
破れたり穴が開いたりしても捨てられない。
サーシアにとってパンツは宝石よりも価値の
高いものなんだよ。
『さぁ、全部積み込んで頂戴な。』
これか~
これを積む為に空の台車を用意したのか~
でも全部は無理だよ?
量が多すぎるよ~
泣く泣くサイズの合わないものや、破れたり
穴あきものは残していく事になった。
『必ず迎えに来るからね!待っててね!』
ハニーが呪文を唱えると秘密基地は引っ込み
池は元通りになった。
一体どんな仕組みだ?
「良かったですねサーシア。」
『えぇ、これで長旅も平気ですわ!』
「では、旅を再開しましょう。」
そうしてサーシア達は街を去って行った。
***
「なに?出て行った?」
「はい。」
「攻めて来ないのか?」
「はい、もう居ません。」
「何しに来たんだ?」
「さぁ?」
パンツを取りに来たんだよん!




