*第4話 精霊と青い山脈
鬱蒼としたシダ類の大木が生い茂る
広大な裾野を従える巨大な山脈。
かつて民族の分水嶺として白銀に輝き、
雪と氷に閉ざされた峰々は今、青い山脈となっていた。
「なぁ~誰も居ねぇ~ぞぉ~?」
「おかしいなぁ~?この間までこの辺に居たんだけどぉ?」
「この間っていつだ?」
「ついこの間~千年くらい前かなぁ?」
「千年かぁ~人間にとっては結構な時間だぜ?
何かあったんじゃねぇ~の?」
「どうしよう?ハニーには大丈夫!って言っちゃったよ~」
「探すしかねぇだろうよ~」
「だよねぇ~」
なんだか頼りない会話をしているのは人型精霊のモモとルルベロ。
ヤンキーみたいな方がモモ。
ちょっと抜けてるのがルルベロだ。
サーシア復活に備えてダモン側の受け入れ態勢を整える為にやって来たのだが
肝心のダモン族が見当たらない・・・
千年前には人が居たと言うダモンの遺跡は人っ子ひとり居ない。
もぬけの殻だ。
まさか絶滅?
もしそうなら大変だ!とにかく探せ~!
「来る途中に集落があったじゃん、そこで聞いてみようよ。」
「そうだねぇ。」
***
平野部では農作が行われるようになって、
遺跡に頼らない定住生活が広まりつつあった。
小さな小さな国家の種が目を出していた。
この世界にはまだ統一された単位が無い。
部族ごとにバラバラの尺度で物を計っている。
もう面倒くさいからメートル法で表現するぞ!
だいたい4メートルくらいだ!
鼻の頭から尻尾の先まで、それくらい!
ずんぐりとした体形から予想する体重は2トンはあるだろう。
がに股の四つ足。
固そうな鱗に覆われた体。
背中のトゲトゲ。
でぇ~~~っかいトカゲ!
見た目は怖いが草食性の大人しい奴だ。
イクアナと呼ばれる大型の爬虫類で、人にも良く馴れて扱いやすい。
陸に棲む種類をスグイクアナ。
海辺に棲む種類をヨクイクアナと言う。
家畜として、また移動用の乗り物として一般に普及している。
放射線の影響で遺伝子変異が起こり、爬虫類や昆虫類が大型化している。
鳥類もそうだ。
逆に哺乳類は数が激減した。
生存競争に負けてしまったのだ。
「ほぉ~い!ほいっ!」
掛け声と手綱さばきでイクアナを操り、
鋤を引かせて畑を耕している若者が居る。
働き者だが、ちょっと頭の足りない
イワンと言う名の男だ。
「お~い!イワン~!そこが終わったら水車小屋へ行けって村長が言ってるぞ~!
歯車の調子が悪いんだとよぉ~!」
「あ~~~い!分かったぁ~~~!」
「忘れるんじゃねぇ~ぞぉ~!ちゃんと言ったからなぁ~~~!」
「あ~~~い!忘れねぇ~よぉ~!」
たぶん忘れるなぁ~こりゃぁ~
何時見ても、ぼぉ~っとしている。
時々、肩や頭を手で叩いている。
草むらや屋根の上をじぃ~~~っと見てる。
イワンには見えている。
白い綿の塊のようなものが、そこいら中にいる。
まとわりついて来る。
「今日はやけに多いなぁ。ほら邪魔だよお前達、踏んじまうよぉ。
危ないからあっち行ってろ~」
彼が見ているのは下級精霊だ。
他の者には見えない。
どうして彼には見える?
精霊遺伝子が活性化しているのは間違いない。
でもどうして?
「おい!お前!」
ふいに話しかけられた。
声の様子からすると少女のようだ。
「うんにゃ?誰?」
周りを見ても誰も居ない?
あれ?
空耳かな?
「お前だよ、お前!聞こえないのか?」
上だ!
少女が二人浮かんでいる!
何がとは言わないが丸見えだ!
「パンツ見えてるよぉ~」
お前が言うのかぁ~~~い!