第35話 ミドルネーム
『ねぇ、ルルナ。聞いてる?』
『えぇ、聞いてますよ。サーシア』
ルルナとサーシアは言葉を発しなくても
会話が出来るんだ。
でもテレパシーじゃないよ。
サーシアもルルナもシステムとリンクして
いるから、ネットワーク経由でコネクトが
可能なんだよ。
Wi-Fi接続みたいなもんだね。
もしかしたらテレパシーってこれの事
なのかな?
結果は同じだもんね。
『死にかけたわよ。』
『危なかったですね。』
『あの産婆さん、諦めたわよね。』
『死産だと思ったのでしょう。
心臓も止まってた様ですし、
ハニーが居なかったら駄目でしたね。』
『確かにそうだけど、あの子
人工呼吸で舌を入れて来たのよ!
電気ショックも乳首から流したの!
感じちゃったわよ!』
『あれ、サーシアが教えたんですよ。』
『そうだったかしら?』
『えぇ、防災訓練の時に。』
『よく覚えてたわね。』
『精霊ですからね。忘れませんよ。』
正しい方法を調べたりはしないんだね。
サーシアの言う事を真に受けちゃ駄目!
思い付きで適当な事を言うんだから。
『ところでサーシア。』
『なぁに?ルルナ。』
『赤ちゃんなんだから泣かないと。』
『え?』
そう言えば泣かないね、サーシアは。
ルルナは盛大に泣いてるのにね。
いつでもムスっとしてる。
『あら?泣いてるわよ?』
『え?泣いてませんよ?』
おや?
『じゃぁちょっと泣いてみて下さい。』
『今?まぁ良いけれど・・・あれ?』
『ぜんぜん泣いてませんよ?』
『おかしいわね・・・泣けないわ・・・』
あちゃ~これは仮死状態で生まれた事の
後遺症かな?
へその緒が首に絡んで酸欠になったからね。
短時間だったけれど脳損傷したかも・・・
***
どうやらサーシアは発声に関わる運動野に
ダメージを受けたみたいなんだ。
アーともウーとも言わない。
口はパクパク動くんだけど声にならない。
まぁサーシアもルルナも半分精霊みたいな
存在だからねぇ。
精霊契約をしなくても魔法が使えるし、
わざわざ呪文を唱える必要も無いから、
発声が出来なくても使命達成に支障は無い。
え?
日常のコミュニケーションが不便だって?
あははは!
元々サーシアは他人の都合なんか気にしない
人格破綻者だからねぇ。
どうせ話が通じないんだから一緒だよん。
ルルナが側に付いてるから大丈夫だよ。
細かい事は彼女が片づけるから。
前もそうだったしね。
サーシアは圧倒的な破壊力で総てを
捻じ伏せる。
問答無用で突き進む。
人の姿をした天変地異。
それがサーシアなんだよ。
***
「じゃぁ、それをミドルネームにすれば
良いんじゃないかな~」
「ミドルネーム?ですか?」
何の話かと言うと~
イリュパーの出身ギヤマン族では
家ごとに付ける名前が決まっていて
代々同じ名前を使いまわしするんだ。
男子は父方の、女子は母方の先祖の名前を
順番に受け継ぐんだよ。
イリュパーは幼くして母親と死に別れた
からね、
母への思いを我が子の名前に記したいの
だろうね。
「ルルナ、あなたには私の母の名を。
ユーリパーと言うのよ。
美しい名前でしょう?」
『なかなか良い響きですわね。』
『えぇ、良いと思います。』
『さぁ!お母様!私にも良い名を付けて
下さいましな!』
「サーシア、あなたには古の良き名を。」
『ほう!伝統と格式ですわね!』
『どんな名前でしょうね~』
「あなたはアジャパーよ。」
『伴 淳三郎かっ!』
『誰?』
ルルナ・ユーリパー・ダモン
うん良い名だね~
エルサーシア・アジャパー・ダモン
・・・いや、笑ってないよ~
プフッ・・・




