*第30話 ひとつぶの涙
「へぇ~貝から採れるんだぁ~」
「そうさ!量が少ないから希少品だよ!」
「ふぅ~ん。」
「これだけ奇麗な紫色は他じゃ無いよ!」
賑やかな街だ。
東西南北から来る街道の交わる交通の要所に在るこの集落は、
旅人相手の商売が盛んだ。
宿屋も在るのが有り難いね。
イリュパーが興味津々で見ているのはお化粧用の顔料だ。
蜜蝋に色を付けて固めた物を二枚貝に入れて売っている。
これまでお化粧なんてしたことは無い。
ジャバジャバと顔を洗って終わりだ。
義理の母や姉達を横目で見ながら、あんな面倒くさい事するなんてと
鼻で笑っていたのにねぇ~
「お嬢ちゃんは元が良いからねぇ!化粧映えするよ!男もイチコロだよ!」
「えぇ~そ~かなぁ~えへへへへ~」
イチコロは君だよ、イリュパー。
巾着の紐を緩めちゃってるじゃん。
買う気まんまんじゃ~ん。
確かに鮮やかな発色だ。
貝紫ってやつだな。
真珠の粉も入っているのかな?
キラキラと光っている。
でもお高いんでしょう?
「でもお高いんでしょう?」
「まぁ安かないさね。中銀貨なら5枚。」
「うわっ!高っ!」
「それだけの値打ちはあるよ!使えば納得の品質だよ!」
「ルビーでも良い?」
「ルビーかい?物によるねぇ。」
「これでどう?」
「どれどれ・・・」
大抵の商人は目利きだ。
旅人は重たい古銭よりも宝石を持つのが一般的だからである。
ただ古銭に比べて交換比率が曖昧で、その都度の交渉になるのが面倒だ。
いずれは両替商なんかも出て来るだろう。
「同じ色なら、もう少し大きいのじゃないと駄目だねぇ。
大きさが同じなら、もう少し濃い色だね。」
「う~~~ん。じゃぁこれは~?」
あ~イリュパー!素直過ぎるよぉ~
そこは駆け引きしなきゃ!
一旦やめるフリをするんだよぉ~
もう遅いけど・・・
「さっきのと大して変わらないねぇ。」
「そうかなぁ?じゃぁこれはぁ?」
「まだまだ~」
「えぇ~これも駄目ぇ~?」
うわぁ~完全にカモられてるよぉ~
ハニー!ハニーはどこ行った~?
目を離しちゃ駄目だって!
「まいどあり~」
結局は三割ほど高く吹っ掛けられた。
まぁそれで済んだのは幸いだね。
あんまりあくどい商売をすると、あとで逆恨みされるからね。
程々で手を打つのが真っ当な商人だ。
おまけで紅粉を付けて呉れた~
ウキウキで宿屋に戻る。
すっかり色気づいちゃったイリュパー。
でもねぇ~男ってその辺は鈍感だよ?
言わなくても気づいて!ってのはまずロクな事にならない。
心配だなぁ~
大丈夫かなぁ~
***
「どっ!どうしたんだっ!イリュパー!」
食料や装備品の買い出しから戻ったカイザは、
イリュパーの顔を見て超~びっくり!
瞼が紫色に変色していて顔全体が赤い。
「具合が悪いのか?それとも誰かに殴られたりしたのか?」
最悪~~~
乙女心が木端微塵~~~
高かったのにぃ~~~
無理して買ったのにぃ~~~
馴れない化粧を頑張ってしたのにぃ~~~
「そ・・・そんなに変かな・・・」
「え?・・・あっ・・・」
いまさらだよ・・・
「き!奇麗だ!イリュパー!」
「・・・」
イリュパーの頬を一粒の赤い涙がつぃ~~~っと流れかけて・・・
途中で固まった・・・




