*第21話 鹿じゃねぇ~かよっ!
モルゴン国南部地域ゴタゴタ。
ここの砦に来てから20日余りが過ぎた。
至れり尽くせりの扱いで、すっかり寛いでいる。
南部太守を務めるテレテンサは、
蘇った伝説の存在である精霊モモにメロメロのデレデレになっていた。
部下が無礼を働いた償いにと、
自室を明け渡して持て成すに留まらず、
臣下の礼を取り忠誠を誓った。
忠臣は二君に仕えず。
アゴネスは大首領だが、リーダーであっても主君では無い。
これでもゴタゴタ族の族長だ!
モモに忠誠を捧げたからには彼女が主だ。
場合によってはモルゴンを離脱する事になるやも知れぬが、
それもままよと別れの予感に背を向け時の流れに身を任せ、
テレテンサは今、満ち足りていた。
「モモ様!今日は野生の馬を狩りに行きませんか?」
「馬?牧場があったろ?」
「いやぁ~、やっぱり野生馬には劣りますよ。
捕まえて手懐けるのが一番です!」
時々に野生馬を捕獲して種馬にするのだとか。
気は荒いが速さと丈夫さが違うらしい。
実は前々から目を付けているやつがいると言う。
「それがめっぽう手強くて・・・
今日こそは捕まえてやりますよ!」
そいつを献上するので愛馬にしてくれとか。
精霊に馬は必要ないのだけれど、
まぁ、イワンが乗れば良いかな?
イクアナを置いて来たから、その代わりに。
***
いやぁ~大規模だ~
勢子が千人係りで追い立てる!
丘陵の窪地で待ち構えている。
上手く行くだろうか?
「おいイワン!そんなに鼻ほじったら血が出るぞっ!」
「はぁ~すんませ~ん」
「そんなに退屈ならお前も勢子やれば良かったな。」
それは無理だよぉ~
かえって邪魔になるだけだから
鼻でもなんでも、ほじらせときなよ~
「まだしばらくは掛かりますよ。」
テレテンサが言うには、逃げ道を塞ぎながらじわじわと追い込むので、
早くても午後からになるそうだ。
「だってよ。」
「そうですか~、じゃぁちょっと散歩でもして来ますね。」
「そうか、ルルベロあんた付いて行ってよ。」
「うん分かったぁ。一人じゃ心配だもんねぇ。」
すっかり保護者気分だな~
精霊に好かれる何かがあるんだろうな。
相変わらず綿精霊が寄って来るし。
確か15歳だったかな?
本当なら結婚して子供の一人くらい居ても良い年齢だ。
働き者だし、おとなしくて病気もしない。
ただなぁ~
顔がなぁ~
貧相なんだよなぁ~
村長もあちこちに声かけして呉れたんだけど
ことごとく断られたらしい。
身寄りの無い孤児で、財産もイクアナ一匹。
そりゃ断るわな。
「林の向こうに川が在ったでしょう?魚釣りでもしたらぁ?」
「そうですね~。」
釣り針と糸は常に携帯している。
長旅では必需品だからね。
その辺の枯れ枝でも拾って棹にすれば良い。
***
大物だ!
枝が折れた~!
「うわぁ~~~!」
「手を放しなさいっ!落ちるわよっ!」
バッシャァ~~~ン!
落ちた~~~!
グイグイ引っ張られる!
「ほらぁ~言わんこっちゃない~」
「た、助けて~ルルベロ様~~~」
「しょうがないわねぇ。」
ピュ~っと飛んで、ヒョイッと掴み上げて
ポイッと岸に放り出す。
ついでに獲物も釣り上げた。
それにしてもでかいなぁ~
イワンよりも大きいんじゃないのか?
「うわぁ~こんな大きい魚、初めて見た!」
「良かったわねぇ。」
「はい~!」
嬉しそうだなぁ~
笑顔が貧相だ~
「いやぁ~くすぐったいですよ~やめてくださいよ~」
「私じゃぁないわよぉ。」
「え?」
首筋をハムハムされている・・・
振り向くとそこに居た!
巨大な長~~~い顔に、屏風の様な平べったい角。
「うわぁ~お前も大きいなぁ~!
それに立派な角だぁ~!凄いなぁ~!」
怖くないの?
無邪気だねぇ~
「なんか懐かれてるわねぇ。」
ハムハムされて、ベロベロされて、
スリスリされてる~~~
「うひゃひゃ!やめて~!くすぐったい~!」
一向に離れる様子が無いので連れて来てしまった・・・
「ただいま~モモ様ぁ~!ほら~でっかい馬でしょ~!」
「鹿じゃねぇ~かよっ!」




