*第20話 蒼き狼
北の大地に誕生した原始国家モルゴン。
部族を統一し大首領となったアゴネスが、
モルゴン国の樹立を宣言したのだ。
「国家」とは何か?
・主権 (領域支配)
・生産力 (国民)
・統治機構(法)
この三要件を備えていれば、とりあえずの体裁は整う。
この大陸でいち早く国家が誕生したのにはそれなりの理由がある。
穏やかな気候であり、狂暴な生物が少ない。
そして何よりも人口が多い。
他の大陸が厳し過ぎるのだけどね。
面積も一番に広い。
古代遺跡が無いのも後押しをしている。
遺跡を拠点にしている部族は当然ながら排他的になる。
有限である財宝を独占する為だ。
他の集落と同盟を結び安全を保障し合うと言う発想は生まれない。
しかしこの地では横の繋がりを重視する。
農地や労働力を巡って争いが絶えない。
単独での防衛は難しい。
いわゆる集団的自衛で侵略に備えるのだ。
アゴネスは武勇に優れ知略にも長けていた。
若くして頭角を現し、連戦連勝!
劣勢だったモロティン族を盛り返した。
やがて各集落の長老たちから乞われて大首領の地位に付いたのだ。
***
「チャーン様、南部の砦から早馬が来ております。至急お目通り願いたいと。」
「何事だ?こんな夜半に。」
夜半とは言っても外は薄っすらと明るい。
白夜である。
地軸の傾きによって起こるもので、夏場に太陽が沈み切らないのだ。
逆に冬場では極夜と言って日中でも陽が昇らない日がある。
南北の極地付近で見られる現象だ。
オーロラもあるよん!
スンゲ~のが!
だいぶ落ち着いたとは言え、まだまだ太陽の活動が活発だからねぇ。
「それが、一大事ゆえにチャーン様に直々にお伝えしたいと。」
「ふむ・・・余程の事であろう。
あい分かった!
すぐに参るゆえ、広間に通して置け。」
ほう!
さすがに度量の大きい男だな!
叩き起こされても怒りはしない。
大正解だよ~その判断。
広間には十日間を走り通して、両脇を抱えられなければ拝跪の姿勢すら
保つことの出来ない若い伝令兵が居た。
馬は中継点ごとに替わるが人は代われない。
アゴネスの顔を虚ろな目で見上げると、
ブルブルと震える手で懐から書状を取り出しかすれた声で言った。
「た・・・太守様よりの・・・
ご・・・ご報告に御座います・・・」
言い終えると気を失ってしまった。
いやぁ~頑張ったねぇ~
えらいぞっ!若者よ!
「充分に介抱して労ってやるが良い。
褒美を取らすゆえ留め置くように。」
おやぁ?
そのまま帰すなと?
視線が熱いぞ!
タイプなの?
それはさておき。
南部太守からの書状に目を通したアゴネスはさすがに驚いた。
「なんと!精霊が・・・
真であれば確かに一大事である。
直ちに閣僚を招集せよ!」
南部の砦に人の姿をした精霊が現れ、
チャーンに対して会いに来いと言っているらしい。
「にわかには信じられませんな。」
「チャーンに向かって会いに来いとは!」
「だが本当に精霊ならば行かずばなるまいて。」
「報告では宙に浮いておるそうな。」
「パンツ丸見えだとか。」
「ならば間違いあるまい。」
どんな言い伝え?
「余は行こうと思う。」
はてさてどうしたものか?と閣僚たちが考え込んでしまった所を見計らって、
アゴネスが口を開いた。
「我らの統べる国に精霊が現れた。
我が祖先、蒼き狼の導きであろう。
こちらから出向き礼を尽くしてお迎え致そうぞ。」
その蒼きなんちゃらがマズイのよねぇ~




