第140話 司書の夢想
ジェバラード大法院付属図書館。
ブルーノはそこの司書だったんだ。
担当は古代文明の遺産である魔法科学の
書籍を収蔵している部屋。
たまに学者の先生が訪ねて来る程度でさ。
基本的にはヒマなのよ。
でもいつ来るか分かんないから、サボる事は
出来ないの。
だから暇潰しに棚の端から順番に読んでたの。
ざっくりと流し見する程度だったけどね。
それでも色んな知識に触れて楽しかった。
「へぇ~魔法が使えたら、こんな事も出来る
のかぁ~すごいなぁ~」
魔法への憧れが、まるでハチミツのように
甘く心を蕩けさせていたんだ。
まさか本当に復活するとは!
迷うことなく宗旨替えした。
契約精霊はネズミ。
まぁまぁ上位クラスの精霊だね!
貴重な人材だよ。
もうウキウキ!
試してみたい事が沢山あり過ぎて、どれから
やろうか迷っちゃう!
胸の鼓動はドキドキ♪
目先はキャバクラ♪
ハゲそぉっ♪
ハゲそぉう♪
ところが!
これまでのキャリアは白紙にされてね。
一般修道士として雑用ばかりの毎日。
転びジャバスチャンと蔑まれてさぁ。
生活魔法以上の習得は許されなかったんだ。
一定以上のポストは他所から来た精霊師たち。
元ジェバー教神官に出世の道は無かったんだ。
精霊教会の序列は一番上が聖女様で~
次が大司教で~
そこからは、司教、司祭、宣教師、修道士。
宣教師になるには魔法師の資格。
司祭以上は精霊師の資格が必要なんだ。
大司教は聖人にならないと駄目なの。
つまり人型精霊と契約が出来ないとね。
だから今は空席だよ。
可哀そうなブルーノちゃん。
失意のズンドコベロリンチョでさぁ~
でも根が素直だからさぁ、真面目に働いて
お勤めしてたのよね。
そしたらデカシーランド教区で神聖ジェバー
教団が出来てさぁ。
なんやかんやで和解したじゃん。
んで、元神官でも試験を受けてもい~よぉ~
って事になったのよ。
さっそく師範養成所に通って猛勉強したの。
頑張ったよぉ~
願掛けで大好きなハチミツも寝る前だけに
したんだ。
え?
合格するまで我慢?
な、なんて事を・・・
よくそんな冷酷な発想が出来るな・・・
それはサーシアにパンツを履くなと言うのと
おんなじだよぉ~
鬼畜だぁ~
試験は一発合格したよ!
魔法師の資格を取って宣教師になったんだ。
赴任先はムーランティスのデーデルン教区。
そこで3年間の実績を積んで精霊師昇格試験
を受けるんだ。
そんな最中に大干ばつに見舞われたわけよ。
***
「深層地下水ですか?」
「はい!そうでございます!夢の聖女様!」
あぁ~なるほどね~
岩盤層より深い所の地下水を汲み上げて、
農業用水にするって考えね。
浅い井戸は枯れてるけど、ずぅ~~~っと
深くまで掘れば水源があるだろうって事ね。
「古文書の中にそう言う記述があるのです。
雨の少ない地域でも深井戸で水を得たと」
「どのくらい掘るのですか?」
「古代の単位ですので詳細は分かりませんが
”一千米”と書かれてありました」
1000メートルだね。
かなり深いよぉ~
でも取りあえずの水源にはなるかな?
地下水脈と地表とをゲートで繋いだら、
安定して水を供給できるもんねぇ。
数万年、或いは数億年に渡って貯水された
深層地下水。
ちょっとやそっとで枯れる心配は無いね。
「悪くは無いですね。枯れた湖の底と地下とを
繋いでみましょう」
「お聞き届け頂けるのですか!夢の聖女様!」
「いちいち称号で呼ばなくても宜しくてよ?
アリーゼで良いですわ」
「そ、そんな!畏れ多い事は・・・」
「その代わり、その知識を貸して下さいね」
「も!もちろんでございます!えっと・・・
その・・・ア、アリーゼ様・・・」
んにゃぁ?
そのやりとり、ちょっと前にもあったぞぉ?
春か?
春が来たのか?
スプリングの端を噛むのか?
ビヨォ~~~ンってなるのか?
でもさぁ、非常時の緊急対応だから、今は
それで良いけどね。
この先ずっと干ばつが続くなら常設って事
でしょう?
水位管理とかどうするの?
ゲートの開閉は聖女じゃなきゃ出来ないよ?
現地の住人で管理が出来るようにならないと
解決した事にはならないよ?
本格的に深井戸を掘って取水しないとね。
単純に掘るだけじゃ駄目だよ?
パイプを埋め込まないと崩れちゃうもの。
それにさぁ~
一番の問題はどーやって汲み上げるの?
そんな深い所から。
昔は上級の精霊師が沢山いたからね。
強力なポンプが無くても魔法で汲み上げる
事が出来たけど、今は無理だよ?
下級の精霊師でさえ足りないんだから。
まぁ聖女の法力なら可能だけどさ~
それじゃぁ~意味が無いでしょう?
地下1000メートルを掘削して、パイプを
埋め込んで、水を組み上げる強力なポンプを
設置するなんて近代的な技術は、この世界に
・・・・・・
あるじゃん!




