第138話 穏便に?
三年連続で大型の嵐が上陸したハイラム。
かなりの被害が出ている。
元々が河川の多い地域だからねぇ。
あっと言う間に洪水になっちゃうんだよ。
教会からの支援もあるし、この国は行政が
しっかりしてるから、どうにか持ち堪えて
いるんだ。
ジェバー教時代の官僚機構をそのまま温存
させたからね。
でも財政は逼迫している。
災害で家や農地を失った民衆が、難民となって
首都ルルサーシアに流れ込んでいるんだ。
あちらこちらに急ごしらえのバラック小屋が
ひしめき合ってスラム化しちゃってる。
治安も悪くなってるし衛生面も問題だぁ。
そこでバズロー王は、被害の少なかった地域の
領主に上納金の増額と難民の受け入れを要請
したんだ。
うん。
真っ当な政策だな。
非常事態だもんね。
バビルだって進んで協力したよ。
じゃぁなんで揉めるの?
って話だよねぇ。
それがさぁ、どーもバビルのとこにだけ
他所より負担が大きいみたいなんだよねぇ。
いや、それ自体は仕方が無いと思ってるよ?
公爵家だし王家の血筋だしね。
「聖女にケンカ売るて、バズやんもええ度胸
してまんがな」
「そんな・・・ケンカってわけじゃ・・・」
「エイガノッコスの販売権を寄越せゆーて
まんねやろ?」
「う・・・うん」
「思いっきし売ってまっせ、そりゃぁ」
バビルとエミール。
つまりチャーフ公爵家の治めるレーバン領は
山岳地帯の貧しい地域だった。
狭い段々畑の耕作地で自給自足程度の農業と
山で採れた蟲や爬虫類の肉を干した保存食を
売ったりして生計を立てている者が殆どだ。
街道沿いの宿場町が多少の賑わいを見せる
くらいだね。
頑張ったよぉ~
二人が興したチャーフ商会。
目玉商品のエイガノッコスを売る際に、
ハイラムの特産品も合わせて売り込んだんだ。
そりゃぁ~もう飛ぶように売れた~
ハイラムの湿地帯に生息する巨大な両生類
デコンジョウガエル。
その皮は防水性に優れ、薄くて軽い雨具として
大人気商品になったんだ。
領民が内職でコートやブーツを作ってる。
結構な収入源になってるんだよ。
実は仕掛けがあってね。
一定額以上の契約を結んでくれた商会や王侯
貴族には、エミール直筆のお礼状とハンカチが
届くんだ。
ただのハンカチじゃぁ無いよ!
青い逆三角形に翼のマークが入った紋章が
刺繍されているんだ。
それは希望の聖女ラナエミールの紋章。
もうお宝だね!
立派な額装をされて飾られているよん!
でもまぁ、何と言っても一番の売り上げは
エイガノッコスだけどね。
その販売権を要求してきたんだよ。
怖いもの知らずだね~
それはサーシアからエミールに譲られたもの。
手を出して良い代物じゃぁ無いよ。
エイガノッコスは聖女にしか作れない。
聖女が呪文を唱え、人型精霊が精霊文字を
魔法紙に刻印するんだ。
エミールに下請けの作業員に成れって言うの?
馬鹿じゃないの?
「サーシア様は知ってますのん?」
「こ・・・こんな事・・・お母様には
言えない・・・」
「なんでですのん?サーシア様やったら
一発で解決しまんがな」
「ち・・・血の雨が降るわよ・・・」
「あぁ~それもそーでんなぁ~」
だよね~
身内に手を出されたサーシアが穏便に
話し合いなんかするわけ無いよな。
死ぬな・・・バズやん。
「でも・・・いつかはお母様の耳にも入る
から・・・その前になんとか・・・」
「王家を説得でっか?」
「う・・・うん・・・面会を申し込んで
いるんだけど会ってくれないの・・・」
サーシアは今、オバルトに居るんだ。
ジャニスが二人目を妊娠中でね。
上の子の面倒を見に行ってるんだよ。
ルルナの孫も自分の孫も同じだよ。
今年で3歳になる。
もうどろどろに可愛がっているね。
隠しておけるのも今の内だけだ。
「寄越せ寄越せの一点張りでっか?」
「そ・・・そうなの・・・」
「舐められてまんな」
「うぅ・・・」
あっちはどー思ってるか知らないけど、
バビルはバズやんを兄として尊敬してるのね。
自分が投げだした王位を引き受けて、立派に
勤めているんだって。
バルサムの死も心の傷として深く残っている。
もうこれ以上は・・・
「エミール様は優しゅうおますなぁ」
「そ・・・そーかな・・・」
「まぁ~そこがえぇとこでんな」
「あ・・・ありがとう・・・」
レイサン家唯一の常識人と言われている
アリーゼにしたって、それはレイサン家の
中ではって事だもんね。
普通の人と比べたらやっぱりどこかズレてる。
その点、エミールは目立たないだけで実は
一番マトモな感覚を持ってるんじゃないかな?
「よっしゃ!ウチに任せとくんなはれ!」
「お・・・お願いね・・・」
「そやけど、多少は荒事になりまっせ?
こーゆーのんは、がぁ~んと強気で行かな、
あきまへんさかいな」
「え?・・・で、でも・・・」
「ウチが引き受けたからには、バチコ~ンと
解決しまっさ!
大船に乗ったつもりで、の~んびり茶~でも
飲みながら待っとっておくんなはれ!」
「て・・・手荒なマネは・・・」
「なるたけ殺さんよーにしまっさかいに」
「い、いや・・・穏便に・・・」
「わかってまんがな!ほな行ってきまっさ!」
「ちょ、ちょっと・・・サナ・・・」
北辰一刀流免許皆伝。
根っからの武闘派サナ!
相棒のトモエは伝説の女武者!
穏便って言葉の意味
知ってる?




