第135話 5番街のマリー
一時的なシステムダウンから復旧して、
地下世界の混乱は収束したよ。
さぁ~問題はここからだ。
原子力を手にしてしまった彼女達と、その
科学文明をどうするか?
「大丈夫よマリー、私が護ってあげる」
「ですがアルサラーラ様、システムが我らを
容認してくれるでしょうか?」
「お母様が私の悲しむような事を、お許しに
なる筈がないわ。
システムが何と言おうと、この地下都市は
私の管理下にあるのよ。
つまり、お母様の庇護の元にあるの」
サラーラの言う通り、システムからは
破壊命令が出されたんだけどね。
サーシアが撥ね付けたんだ。
『あそこはサラーラのお気に入りですの。
手出しは無用ですわよ』
もし干渉して核反応電池炉を止めたら、
自分への攻撃と受け止めるって脅したんだ。
もしそうなったら絶交だっ!ってね。
いやぁ~これにはシステムも困っちゃってね。
ルルナがサーシアの事を大好きなように、
システムもサーシアが大好きなんだ。
絶交されたら泣いちゃう~
人が精霊に影響されて進化が促進される様に、
システムもまた人に感化されるんだ。
相互作用ってやつね。
特にサーシアの影響力は強烈だからねぇ。
システムのサーシアに対する感情は、もう
それは恋と言えるのかも知れないね。
そこで妥協案が提示されたんだ。
当分の間、たぶん三万年くらいかな?
人類がもう少し進化して自滅癖が解消される
ようになるまでは、タエタト大陸を隔離して、
他所との交流はさせない。
タエタトの技術は門外不出とする。
但し、聖女と精霊教の司祭以上でシステムが
許可した者の出入りは自由にして良い。
祭壇のコントロールをシステムに返還し、
精霊教の管理下に置く。
精霊教を国教と定めて精霊契約を推進する。
魔法を使うかどうかは個人の自由として、
それを妨げない。
マリーはその条件を受け入れた。
でもね、それはマリーの消滅を意味するんだ。
五つの祭壇を繋げたネットワークが無ければ
マリーのプログラムを稼働出来ないんだよ。
それでも良いとマリーは思ったんだ。
「良いのね?マリー」
「はい、地下都市をシステムが認めました。
イレーヌとピエールの願いは、これからも
ずっと生き続けます。
もう私の役目は終わりました」
ところが、それを住民に告知したら大騒ぎに
なっちゃったんだよ。
行政区に住民が押し寄せて大規模なデモが
発生したんだ。
「マリー様を殺さないでぇ~」
「マリー様~」
数千年もの間、地下都市を守り導いて来た
マリー。
彼女達にとって無くてはならない心の支えと
なっていたんだ。
もしこのままマリーが消えてしまったら、
彼女達の精神は崩壊してしまうかも知れない。
しかし、これ以上の譲歩を引き出すのは無理
だろうね。
祭壇は返還しなければならないよ。
どーしたもんかねぇ。
「愛されてるわね、マリー」
「えぇ・・・こんな嬉しい事はありません」
「こーゆー時はね、お母様にお願いするのが
一番よっ!」
***
「とゆーわけだから、なんとかして頂戴な」
どーゆーわけだよっ!
本っ当に娘に甘いな~
システムも困り果ててるよ~
なんとかって言われても~
祭壇は返してもらわないと~
「サラーラが泣いていますのよ?」
それウソ泣きだってぇ~
あの子は役者だからぁ~
前世ではコブシ歌劇団のトップスターだった
じゃ~ん。
泣き芸なんて朝飯前だよ~
ゲロックのグラノーラだけどぉ。
えぇい!もうしょーがないなぁ~
妥協ついでだ!
精霊マリーを復活させるから、それで良い
でしょう?
もうこれ以上は勘弁してね!
とゆーわけでぇ~
AIマリーの記憶を引き継いだ精霊マリーが
再召喚されたんだよ。
もうみんな大喜びでさぁ。
復活祭なんかしちゃってね。
パレードでオープンカーに乗ったりなんか
しちゃってね。
テレビでしか見た事の無かったマリーが、
ニコニコ笑いながら手を振って、目の前を
通り過ぎて行くんだ。
行政区5番街に新しく総督府が作られた。
サラーラはそこに住む事にしたよ。
マリーも一緒だよ。
サラーラの契約精霊になったんだ。
みんな敬愛と親しみを込めて呼ぶんだ。
5番街のマリーと。




