第132話 不思議な絆
聖地モスクピルナス。
ムーランティス大陸の中央に聳え立つ
標高五千メートルの巨大台地。
その頂上は常春の楽園だ。
「もう十日になるわリコ姉様」
「えぇ、もちろん分かっているわアーミア」
「ヤツフサはなんと言ってるの?」
「それが何にも無いって」
「どう言う事?」
サーシアと連絡が取れなくなって、かれこれ
十日余り。
さすがに異変が起きていると気付いた娘達は、
ヤツフサに調査を命じたんだ。
でも何の収穫も無かった。
砂丘も、枯れたオアシスも、赤茶けた岩山も。
駆けずり回って調べたよ。
八犬士達も必死に痕跡を探したんだけどね。
なんにも見つからなかったんだ。
今日は今後の探索計画を立てる家族会議だ。
レイサン家の四つ子と、カーミヤマン家の
姉妹、イワンの馬鹿と怪物オランが集まった。
「あの子達が調べても分からないなんて」
「タエタトには居ないのかしら?」
「いやぁ、そら無い思いますわ」
「そうかしら?」
「サーシア様とお母はんだけやったら、
何の連絡もせんと、あっちゃこっちゃ行くかも
知れやんけど、サリーちゃんが一緒やさかい」
最古参の精霊サリーちゃん。
報・連・相がぐだぐだの精霊にあっても
珍しくキッチリしている。
信頼度はバツグン!
「それもそうね、あの子はしっかり者だから」
「そやけどお姉ちゃん、ほな何で見つから
しまへんのんえ?」
「それが分からんさけ困っとるんやないかい」
「お、お母様にもしもの事があったら・・・
わ、私・・・私・・・」
「大丈夫よエミール、たとえ太陽が落ちても
跳ね返してしまう人よ、お母様は」
「う、うん・・・」
手掛かりが無くては、次の行動が決まらない。
どうしたもんかねぇ~
「行ってみようよ」
それまでぼぉ~~~っと娘達の話を聞いてた
イワンがポツリと言った。
「ヤツフサが探しても見つから無いのに、
私達が行っても・・・」
だよねぇ~
「でも他に方策も思いつかないし」
「わ、私もそれが良いと思う・・・」
「賛~成~♪」
「そーでんなぁ~」
「みなで行きまひょ」
取り敢えず祭壇が在った所を中心に調査する
事にした。
それぞれ手分けして向かう。
アリーゼとエミールで北を。
アーミアとサナで南を。
サラーラとイワンは西を。
ジャニスとオランは東を。
残りの中央は最後の集合場所とした。
「じゃぁ明日から始めるわよ」
***
なぁ~~~んにも無かった~
足跡でもあればなぁ~
でも砂の上についた足跡なんて、すぐに風で
消えちゃう。
三日後、集合場所でそれぞれが溜息交じりで
報告をした。
「やっぱり駄目ね・・・」
「鉱山も見たんだけど中は崩れてたわ」
「こっちもあきまへんでしたわ」
「しんきくそおすえ」
「どうしたの?お父様?」
崩れた精霊殿、その床をじぃ~っと見つめている
イワン。
「ここに居たんだねサーシア」
「え?」
「この中に居るよ」
「ほんまでっか!」
「ボタンちゃん!ここを掘って!」
「ブヒ~~~!」
十二支精霊 亥のボタンちゃん。
地面を掘らせたら右に出る者は居ないよん!
ガガガガガガガガガ~~~~!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ~~~~!
ドドドドドドドドド~~~~!
なぁ~~~~~~~んにも無い~~~~~~
「居ませんわよ!」
「ボケたんちゃうけ?」
「すかたんどすえ」
「ショックでおかしくなってしまったのね」
「お、お父様・・・しっかりして・・・」
「お家に帰りましょうね、お父様」
すっかりカワイソウな人扱いされたイワン。
でも正解!
なんで分かるの?
システムでさえ検知出来ないのに。
「違うよ~ここだよここ。この中に居るの」
そう!その結界の中にサーシアとルルナは
囚われている。
でもそれを説明する事がイワンには出来ない。
馬鹿だから~
「帰ったらお医者様に診て貰いましょうね」
「治りまっかぁ?」
「お、お父様のお世話は私がするわ・・・
私が一番ひまだから・・・」
「そう?じゃぁお願いするわね、エミール」
「うん・・・」
他の姉妹は聖女関係の仕事が忙しいからね。
エミールは、まだ自分が聖女だと言う実感が
持てずにいるんだ。
人前に出るとオドオドしてしまう。
「自信を持ちなさい」っていつも言われて
いるんだけどね。
どーにも駄目なんだ。
アーミアも人見知りだけど、意思疎通が
苦手なだけで、神経はズ太いからねぇ。
不機嫌そうな顔をしながらでも仕事は
ちゃんとこなすもんね。
こーゆーのは性格の問題だからねぇ。
だから時々お手伝いするくらいなんだよ。
日頃から申し訳なく思ってたから、ボケて
しまった父親の世話を買って出たんだ。
違ぁ~~~う!
ボケて無ぁ~い!
イワンが正しいのっ!
そこに居るのっ!
「他の大陸も探してみましょう」
「各国の王に協力を要請しまひょか?」
「そーねぇ、細かい事は帰ってからね」
「だから~ここに居るってば~」
「はいはい、お家にかえりましょうね」
「家じゃ無いよ~ここだよ~」
「お、お昼ごはんはオムライスよ、お父様」
「良かったわね!お父様!エミールの作る
オムライスは最高ですものね!」
「あぁ~もう~、ミサ、ここを斬って」
「へ?」
ボタンちゃんが掘って穴の開いた空間を指さし
そこを斬れとイワンは言う。
「何を斬れと?」
「そこだよ~早く斬って」
「???」
「斬ってあげなさいなミサ。お父様の気の済む
ようにして差し上げて」
「左様でござるか・・・では」
紺のブレザーにチェックのミニスカート
茶髪のポニーテールが可愛いギャル校生。
それが今のミサ。
随分とイメージが変わったな~
なのにギョエモン口調。
意外と萌える・・・
「ヘコ・ヘコ・アザラシ
ヘコ・ヘコ・ノザラシ
スコ・スコ・スルノデス
ヒコ・ヒコ・アライヤダ
エロヒム・エイサイム
我は求め訴えたり
我に仇あだなす者を滅し給え!
出でよ斬鉄剣!」
ミサの手に妖しく光る長ドスが現れた。
反りの無い直刀に見えるが、その刀身は
高周波プラズマブレードだ。
なんでも斬れるよん!
「いざ!参る!ちぇすとぉ~~~!」
ズドンッ!と一閃、穴に一筋の割れ目が入る。
とても危ない形になった・・・
「またつまらぬ物を斬って・・・ん?」
決め台詞が途中で止まったね。
斬鉄剣と割れ目を交互に見て首をかしげる。
「どうしたの?ミサ」
「今、何かを斬ったような・・・」
「地面を斬ったじゃないの」
「いや、それとは別の・・・」
「お姉様!見て!」
サラーラが何かに気が付いた!
穴と割れ目のある空間が揺らいでいる。
何かがそこに在る!
「なんでっしゃろ?」
「これは結界かもぉ~」
「結界?」
魔道具職人ルルベロには心当たりがあった。
物体を具象化する時には、周りに悪影響を
与えない様に固定化が終わるまでの間、
結界の中で錬成させるんだ。
規模はぜんぜん違うけどね。
「じゃぁ、ここに結界が在るって事?」
「うん、たぶんそーだよぉ」
「まぁ!大変!」
「本当だったのね!お父様!」
やったねっ!イワン!




