第127話 ポーラ・タエタト・デアル
イ・デアル・アー。
古代ジンムーラ語で空・大地・海を意味する。
太古の人々はこの世界を、そう呼んでいた。
大陸と言える陸地は四つある。
北極圏に位置するエギ・キキル・デアル。
モルゴンやルーシャがキキル連合を形成して
いる地域だ。
最も大きい面積を有する。
南北に長く、湾曲したファ・ジンムーラ・デアル。
ダモンの支配する北方の大山脈。
広大な平野部を治めるオバルト王国。
無数の河川と湿地帯の広がるハイラム聖教国。
南部にはジェバー教自治区が在る。
ひょうたんを横にした形のムーランティス。
中央に聖地モスクピルナス台地が鎮座する。
サーシアの活動拠点だ。
さて。
残る大陸はポーラ・タエタト・デアル。
元々砂漠の大陸だったのが、大災厄後の
気候変動で更に高温になり、人の住める様な
環境では無くなっていた。
日中の焼けた砂の表面温度は百度を超える。
オアシスはとうに枯れ果てた。
海辺の砂浜に身を寄せ合う黄色い花の草が、
唯一と言っても良い適応植物だ。
そこに小さな虫と、時折に渡り鳥が来るだけ。
***
『そんな所にわざわざ行かなくても良い
でしょう?』
「駄目ですよ、システムの指示なんですから」
『面倒くさいですわぁ~』
なんの話かってゆーとね。
誰も居ない筈の大陸に在る祭壇が勝手に起動
したんだってさ。
ありえないよね~
人型精霊か聖女が触れないと駄目なんだから。
さらに不可解なのは起動した直後に消えたの。
存在を認識できなくなっちゃったのよ。
停止状態でもちゃんと管理下にあるのよね、
普通は。
それが切れちゃったの。
もう何年も前からそーなんだけどね。
国造りとか色々と忙しかったからねぇ。
ムーランティス帝国も出来た事だし、
そー言えばシステムから指示が出てたなぁ~
的な?
そろそろ調査に取り掛かろうかな~
みたいな?
考えられる原因は二つ。
完全に壊れたか、誰かが制御を奪ったかだ。
どちらの可能性も極めて低い。
一ヶ所だけならともかく、五か所が同時に
総て消失するなんてねぇ。
でもそれが起こったとしか思えない。
そこでサーシアとルルナに調査命令が出たの。
何があるか分からないから、最強コンビの
出動ってわけね。
「イワンは連れて行けませんよ」
『仕方がありませんわねぇ。
モモ、ミサ、ルルベロ、お願いしますわね』
「あぁ、任せとけよ」
「ちゃんとお守するでござる」
「だいじょうぶ~」
サポート役の精霊としてサリーちゃんが一緒に
ついて行く事になった。
久し振りの登場だね~
魔術使いサリーをモデルに生成されたんだ。
愛野サリーって言うんだよ。
コシフ~リ♪ マタ~スリ♪
ナンボヤネンネンネン♪
コシフ~リ♪ マタ~スリ♪
ナンボヤネンネンネン♪
おとぎ~の♪国~から♪
やって来た♪
ちょぉっと~♪お高ぁ~い♪
おん~なの子♪
サリィ~~~♪
サリィ~~~♪
ゴシメ~イ♪アリガト♪シャチョ~サン♪
エルメ~スノ♪バッグガ♪ホシイノヨン♪
サリィ~~~♪
サリィ~~~♪
魔術使い~~~♪
サリィ~~~~~~♪
サリィ~!サリィ~!
サリィ~ちゃぁ~~~ん!
御指名でぇ~~~す!
***
『人が居ますわね』
「驚きましたね」
用心の為に祭壇から少し離れた場所にゲートを
開いて、そこから飛行魔法で飛んで来たんだ。
そしたらさぁ、在る筈の祭壇が無いのよ!
精霊殿は廃墟と化している。
防衛機能が有った筈なのに、一体どうやって
破壊したんだ?
その代わりに人がこっちを見て立っている。
ふわりと地表に降りて、つかつかと近づく。
『ここに祭壇が在りましたでしょう?
知りませんこと?』
「ここに在った建物を知りませんか?」
ぱっと見は十七・八くらいだろうか?
作務衣の様な服を着た女性だ。
「精霊王ルルナ様、大聖女エルサーシア様。
我が主がお待ちしております。
どうぞこちらへ」
「私達を知っているのですか?」
「私は存じ上げません、主からお迎えせよと
申し付かって参りました」
ほう!
集落が在るのか?
でも見える範囲にはそんなもん無いぞ?
『嫌ですわ、面倒くさい。会いたいなら
そちらからお出でなさいな』
「そちらから出向いて来なさい」
いやいや、せっかく招待してくれてるんだから
行けばい~じゃん!
こんな砂漠のド真ん中で待つよりさぁ~
「申し訳ありませんが、我が主は屋敷から
外へ出る事が出来ないのです。
何卒ご配慮頂けますよう、お願い申し上げ
ます」
『そうですの、仕方がありませんわね』
「分かりました、では参りましょう」
「畏れ入ります、ではご案内致します」
そう言うと彼女は左手の腕輪に触れた。
すると祭壇が在った場所の床がせり上がり、
人が数人乗れる広さの昇降機が現れたんだ。
『エベレーターですわね』
「エレベーターですよ、サーシア」
『それ言いにくいのよ、ルルナ』
「大して変わりませんよ」
さっさと乗れよぉ!




