第122話 理想主義者の挫折
「して猊下、奴らは何と?」
ダモンの指揮官カイザルから書状が届いた。
捕虜の解放と共存の道筋について、
会談の場を設けたいとの事だ。
「そなたはどう思う?」
「信用できませんな、罠ではないかと」
「ふむ、用心はせねばのぅ」
「お会いなさるので?」
「余に策がある」
神聖ジェバー教団が支配する地域は慢性的に
穀物不足なんだ。
急に人口が増えたから開墾が間に合わないの。
そもそも漁師町が殆どだから農業は不慣れだ。
以前は海産物の取引で収入と穀物を得てたの
だけどね。
今はそれが無いでしょう?
だから略奪行為に走るわけね。
普通に商売すれば良いのにさぁ、異教徒とは
取引しないとかなんとか言っちゃってさ。
聖教を捨て邪教に転んだ者どもに天罰を!
聖なる神の栄光と威厳に殉教を志す決死隊。
名付けて聖光威志隊!
千人ほどの隊士が居てね、百人単位の部隊で
活動してたのよ。
でも最近は、あまり成果が芳しくなくてね。
そりゃぁ相手も防衛するわなぁ。
集落を防壁で囲ったり、堀を作ったりしてさ。
魔法が使えるからあっと言う間に立派な物が
出来ちゃう。
だもんでこの頃は集落じゃなくて畑を荒らす
ようになったのよね。
そこまでは手が回らないよぉ~
害獣みたいなもんよ。
収穫前の作物を根こそぎ盗ってくの。
まぁ~タチが悪い!
そいつらがダモンに捕まったの。
さすがダモン兵だねぇ。
あっとゆー間に制圧して作戦終了!
そして、お手紙を出したのよ。
「わたしカイちゃん!お話ししましょうね!」
ってさ。
いやぁ~それはちょっとなぁ~
相手から返してって言われてからね、
それじゃぁって応じるのが定石だよぉ。
足元を見られちゃうよ?
カイちゃん。
***
「余に話とは何であるかな?」
「精霊教は信仰を強制はしない。
共存の道を探すべきでは無いか?」
「白々しい事を言うものだな。
我らの祖国を乗っ取って置いて」
確かに~
「腐敗した国が内部から崩れたのだ。
そして彼らが精霊教を選び、再出発したのだ。
乗っ取ったのでは無い」
「ふんっ!略奪者の勝手な言い草じゃ!」
ごもっとも~
「あなた方のしている事は山賊と変わらない。
いずれ立ち行かなくなるのは明白だ。
互いに容認し合って貿易をすれば良いでは
ないか」
「異教徒と取引はせぬ」
ほらね!
上手く行かないでしょう?
強気の相手とは交渉しちゃ駄目なのよ~
奥の手が有れば別だけどね。
無いでしょう?
同じようなやり取りが繰り返されるばかりで
一向に埒が明かない。
そして、この日の会談は物別れに終わった。
***
「猊下、首尾は上々に御座います」
「うむ、司祭は捕らえたのであろうな?」
「抜かりなく」
「これもジェバー神の御加護であろう」
「ダモンの出陣と聞いて胆が冷えましたが、
存外に間抜けでありましたな」
「あれが次の統領だそうだ。
魔法を手にした暁には祖国を取り戻し、
精霊教を根絶やしにしてくれるわ!」
「その日が待ち遠しゅうございます!」
何の事かと言うとね。
会談の条件としてダモン兵を隔離させたんだ。
もちろん武装解除させてね。
まぁ攻撃魔法が使えるから意味は無いけどね。
そんな事は充分わかってる。
狙いはタルパ村から遠ざける事。
そして聖光威志隊で総攻撃を仕掛けたんだ。
数名の村人とキャルラン司祭を拉致したの。
村人を盾にされてしまってね。
キャルランは逆らえなかったんだよ。
村に戻ったカイザルは、もうびっくり仰天!
ようやく自分の甘さに気が付いたのね。
そしてすっかり怖気づいてしまったの。
自分の迂闊さのせいで村人やキャルランの命を
危険に晒してしまった。
直ぐ様、ニソシール教皇に会談を申し込んだ。
でも何の返事も帰って来ない。
完全に無視~
んでね。
カイちゃん思考停止しちゃった・・・
「後は私にお任せ下さい。
若様は少し休養なされた方が宜しいかと」
見かねたトリオルが進言したんだ。
モタモタしてる余裕は無いからね。
一刻も早く救出しないとね。
「わ、私は・・・私は・・・」
「若様、ここからは荒事になります」
「あ、姉上に顔向けが出来ぬ」
「今は人質の救出が優先で御座います」
「そ、そうだな・・・そなたに任せる」
「承知」
***
報せを受けたルルナは、直ぐ様にオランを
救出部隊の隊長に任命した。
本気だ!
オランが出動するって事は、救出だけで終わる
わけが無いよね。




