第120話 困った時のルルナ頼み
「いと白々しかりけり」
「何がやのん?」
「あれ偽りの涙ぞかし」
「だから何ですのん?」
「かたはらいたし」
屋敷に帰る道すがら、あきれ顔の香子だ。
カイザルを大いに狼狽えさせた涙は、
まったくのウソ泣きでした~
さすが元芸妓はんどすなぁ。
世間知らずの青二才なんか、チョロイもん
ですわ。
んでね。
カイザルから打ち明けられましてん。
ダモンを変えたいって話。
「そやけど難儀な事どすなぁ」
「冠者の慮り浅浅し」
若者特有の情熱優先で諸々の事情には考えが
及ばない。
でも仕方が無いよ。
現場で経験を積まないと分からないもんだよ。
まだまだこれからさ。
「あんさんその言い方、いい加減にやめよし。
古めかしゅうて辛気くそおすえ」
なんてったって紫の式部でっさかいな。
高貴な出自をアピールしてるのよ。
ぜんぜん普通に話せるんだけどね。
「あんただって京ことば使ってるじゃん」
「あてはかましまへんのんえ」
「なんでや!」
お淑やかな京おんなアピールでんがなぁ~
方言を話す女子ってカワイイでしょ!
個人的には広島弁とか博多弁が最高っ!
「うち、あんたんこつ好いとーと」
なぁ~~~んて言われたらもう~
カード破産しても良いよね!
広島弁の男の娘なんて殺人技だよぉ。
「ボク・・・お兄ちゃんのこと好きじゃけぇ」
あぁ・・・あぁ・・・あぁ・・・
ど、ど、動~悸が♪ど~きどき~♪
おじさん死んじゃぅ~~~
タヒぬるぅ~~~
おフザケはこれくらいにしてだね。
サーシアとルルナがやろうとしている、
精霊教を主軸とした国際連合による世界統一。
便利な魔法が飴なら、ダモンは鞭。
今は必要なんだよ、どうしてもね。
普通は何千年も掛かって国家が生まれてさ、
法律だとか治安維持の為の仕組みとかが
少しずつ出来上がって行くわけじゃん?
それを僅か数十年でやろうとしてるんだから、
かなり無理してるのよね。
一番の要は国際的な秩序を守らせる事。
「悪い子は居ねがぁ~!」
って目を光らせる、怖ぁ~い存在。
それがダモンなんだ。
さぁ~困ったぞっ!
こんな話をサーシアには出来ないよぉ~
怒るに決まってるよぉ~
でも好いた人の願いを叶えてあげたいし。
「どないしまひょ?」
「先ずはサナ殿に相談したら?」
「そうどすなぁ」
***
「ほぉ!兄やんがそないな事をなぁ」
「へぇ、そらもうエラい御執心どすえ」
「難儀やのぅ」
「そうどっしゃろ?」
出張から戻ると、さっそくジャニスに捕まった。
「うちには荷が重いで、まだ死にとうないわ」
「そんなたいそな」
「いやいやダモンにケチなんぞよー付けんわ」
「ケチ付けるわけやおへん、在り様を変えるて
言うとりますのや」
「それがケチ付けとるっちゅうねん。
無敵の戦闘民族ダモンは、サーシア様の
理想なんや。
それを変えるなんてゆーたら、どやされるで」
「そうどすなぁ・・・」
「アリーゼ様に頼もけ?」
「アリーゼ様に?」
「それが一番無難やで」
「そうどすなぁ・・・」
***
ここはムーランティス大陸の中央部。
聖地モスクピルナスの在る巨大台地の麓。
復建された精霊教総本山大聖堂だよん!
ここの主はリコアリーゼ。
大聖女代理として赴任しているんだ。
「アリーゼ~、サナちゃんからお手紙だよ~」
すっかり秘書っぽい仕事が気に入ったハニー。
やれば出来る子アピールだね!
でも雑なんだよねぇこの子は。
あんまり大事な仕事はさせられない。
こら!そんなにピラピラしたら皺になるよ!
「あら珍しいわね、わざわざ手紙なんて」
だよね、ゲートを使えばすぐ来れるのにね。
やっぱり言いづらいのかな?
とりあえずお手紙で~ってか?
「ねぇ、何て書いてあるのぉ~?」
読み進めるごとに困ったなぁ~って顔になる。
サーシアを説得するのが難しいから?
それともサナ達を諦めさせるのが心苦しいか?
「ダモンを普通の国にしたいのですって」
「普通の国って?どんな?」
「さぁ?具体的にどうしたいのかまではねぇ」
「何でアリーゼに?ダモンの事ならサーシアに
言えば良いじゃん」
「私にお母様を説得して欲しいのでしょうね」
「何で?そんな必要ないのに」
「でしょう?」
「うん」
そーなんだよねぇ。
サーシアが娘のお願いを断るわけ無いんだよ。
それはルルナの娘でも同じだよ。
それにカイザルは可愛い可愛い弟だからね。
あっさりOKするに決まってる!
だから困るんだよ~
どーやって世界の秩序を維持するんだ?
飴だけで大丈夫?
バランス悪くない?
「はぁ~私には荷が重いわね。」
「ルルナに相談する?」
「そうね、その方が良いわね」
ざっ!タライまわし~




