第118話 ドーモンの未来
「気が変わったのですか?サーシア。」
『えぇ、この方が面白そうですもの。
それに、せっかく虎の穴で修行したのだから
一度も対戦しないのはもったいないですわ。』
それもそ~だね~
ジェーンは他のメンバーとは別に、
特別メニューで訓練したからね。
サナを専属で付けたんだ。
その成果も見たいっちゃ見たいよね。
それにさ、部族としてはゴパッチが最大勢力
だからね。
王国の樹立後もそれは変わらない。
仮にジェーンが勝って女王になったとしても、
ゴパッチの協力無しに王政を維持するのは
無理だろうね。
幸いにゴパッチ族は筋肉自慢の単純馬鹿だ。
一騎打ちの決闘で負けたなら従うと思うよ。
不戦勝では遺恨が残るもんね。
後顧の憂いを絶つには、この方が良いかも?
「これより大将戦を始める。位置に付け。」
双方とも中央の円の中に入り構える。
気合十分!
「始め!」
「うおりゃー!」
最初に仕掛けたのはゲロニモ。
両刃で長柄の戦斧だ!
一撃必殺の武器だね~
ジャキィ~~~ン!
おぉ~!弾いたねぇ!
ジェーンの獲物は薙刀鉾。
日本の薙刀よりも肉厚でどっしりとしている。
むしろ古代中国の眉尖刀に近いかな?
ダモンの武器だね。
支点と力点を上手に使って無駄が無い。
そして速い!
サナのシゴキに耐えただけの事はあるね。
なんてったって北辰一刀流だもんね。
ゲロっちはなんてゆーか大振りで粗いんだ。
怪力で補ってる感じ?
破壊力はバツグンだけど、当たらなければ
意味がないよね。
(一撃・・・一撃で良いのだ・・・
なぜ当たらぬ?・・・なぜ弾かれる?・・・)
これまでの実践でも試合でも、躱された事は
あっても弾かれた事は無い。
刀で受けてもヘシ折って打撃を与えて来た。
なのに今回はまるで勝手が違う。
ジェーンの操る鉾が吸い付くように絡み、
軌道を変えられてしまう。
(噂は耳にしていたが、まさかこれ程とは。
所詮は女と甘く見ていた・・・
抜かったわい。)
以前のジェーンだったなら軽く勝てたろうよ。
思い切り振り下ろした斧が、頭をかち割って
それで終わり。
残念だったね、今のジェーンには勝てないよ。
うお~!とか、がぁ~!とか、おりゃ~!とか
やたらとうるさいゲロっちに対して、
終始無言で、ただ鋭い呼吸音のみのジェーン。
息も乱れて無いね。
ふとバランスを崩して足がもつれたゲロっち。
一瞬、視線が足元に落ちてしまった・・・
見逃さないよ!
ドゴッ!
首の付け根にめり込む薙刀鉾。
どすんっと両膝から崩れるゲロニモ。
白目を剥き、ベロがベロォ~ンって出てる。
死んだ?
死んだかな?
「勝負あり!それまで!」
うわぁ~~~!って大歓声が充満する。
自分の声さえも聞こえないよ~
しばらくは耳鳴りでボワンボワンするぞ。
「やりましたね彼女!」
『筋肉馬鹿のド素人が相手ですもの
当然ですわよ。』
なにを偉そうに!
武術の”ぶの字”も知らないクセしてよぉ!
間違ってはいないけどね。
ドーモン武闘会はカラマティの優勝で
幕を閉じた。
優勝 カラマティ
準優勝 ゴパッチ
三位 キャシデ
四位 テケノコ
五位 バフェロ
六位 チョロキ
七位 ニバホ
八位 キノッピ
***
カイエント城謁見の間。
臣従儀礼。
平たく言うと騎士の礼だね。
ジェーンが聖騎士の叙任を受けるんだ。
「そなたを私の聖騎士とする事を、ここに
宣します。」
飾り気の全くない武骨な薙刀鉾で行われる、
ダモン式の儀礼。
それはジェーンがダモンの戦士として
認められた証なんだ。
建国の準備を進めながら、引き続き虎の穴で
修行を続けるよ。
攻撃魔法も使えるようにならないとね。
今の所、攻撃魔法の習得を許可しているのは
ダモンの戦士と聖騎士だけなんだ。
世界の統治機構がちゃんと整うまでは駄目。
まだまだ先の話しだね。
聖騎士ジェーン・カラマティ。
三年後、ドーモン王国の初代女王になる。
***
「具合はどうだい。」
「あぁ、だいぶ良くなったぞ。」
生きてたのか!ゲロっち~
頑丈だねぇ。
さすが筋肉馬鹿!
「アンタにゃ宰相になって貰うつもりだよ。
早いとこ復帰して貰わないとねぇ。」
「政は好かん。」
「なぁに、実務は部下にやらせれば良いさね。
怖い顔で睨みを効かせてりゃ良いんだよ。」
あれから一年が過ぎた。
教会を特別顧問として貴族会議が招集され、
建国の準備が進められている。
決め事が沢山あってね色々と大変なのよ。
ゲロニモは教会の施設でリハビリ中だよ。
頸椎を痛めたからねぇ。
右の半身にマヒが残ってるんだ。
これでもかなり回復したんだよ。
杖をつきながら、なんとか歩ける。
「ドーモン王国か・・・」
「アンタは公爵様だよ、似合わないねぇ~」
「お前ぇだって女王様じゃねぇか!
クソ似合わねぇよ!」
「あぁ?女王に向かってなんて言い草だぃ?
口の利き方に気を付けな!」
「それが女王のセリフか!お里が知れるわ!」
「アンタもなぁ!」
「がははははははは!」
「わははははははは!」
うん!
順調、順調!




