第110話 ドーモンの八部族
ムーランティス大陸は五つの地域に
分かれている。
東のカラタック、西のドーモン、
北のデーデルン、南のカイエント。
そして内陸中央の聖域モスクピルナス。
精霊王ルルナ直轄のモスクピルナスを除き、
王位が定まっていないのは、西のドーモン。
大小八つの部族が互いに牽制し合い、
一向にまとまる様子が無いんだよ。
「困りましたねぇ、あからさまな介入は
したくないのですが・・・」
「私が行きましょうか?ルルナ。」
「そうですねぇ、アリーゼの選んだ者なら
間違いは無いでしょう。お願いしますね。」
「えぇ、任せて頂戴!」
実際はどうあれ表向きは自主的に統領を選び、
精霊教会に認定される体裁が必要なんだ。
自らこの道を選んだと言う意識がね。
そうじゃないと国民が劣等感を持ってしまう。
一度それが根付いてしまうと、と~てっも厄介
なんだよ。
面従腹背ってやつね。
常に猜疑心が先行しちゃってね。
力ずくで抑え込む以外に統治する事が出来なく
なっちゃうのよ。
互いに不幸な事なのよね。
強制されてないもんっ!
政治判断で得策を選択したんだもんっ!
っちゅうメンツが大事なの。
自尊心はとっても重要!
ドーモンがまとまれば、三ヶ国の同意と
モスピの推薦でカイエントを盟主とした
帝国が樹立されるんだ。
戦争無き大陸の統一だよ。
まとまって呉れないと困る~
だってドーモンは規模が小さいのよ。
まとまる事でようやく国のレベルなんだよ。
バラバラでは他国とのバランスが取れない。
経済的にも政治的にもね。
まともな外交なんて無理だよ。
「潜入調査ですわね!」
「潜入~?」
「えぇ、そうですわよハニー。」
「どうするの~?」
「旅芸人に扮して各地を回りますわ!」
「芸なんて出来るのぉ?」
「出来ませんわよ。」
「じゃぁ駄目じゃん~」
「何を言ってるの?あなたがやるのよ。」
「え?私が?」
「そうですわよ。」
「えぇ~~~!」
まぁ確かに芸達者だわな!
クルクルと変身するし、ムチの腕前は
天下一品だしね!
ナイフ投げも百発百中!
人間ポンプだって出来るんじゃないかな?
精霊だけど・・・
あと、イリュージョンなんかも出来るよね。
胴体切断とかさ。
ほんとに切っちゃっても平気だしね~
なんせ精霊ですから~
「ハニーだけってのも寂しいですわね。」
「イワンも連れて行こうよぉ。」
「お父様を?役に立つかしら?」
随分な言われ様だなぁ、チケットのモギリ
くらい出来るだろうよ。
ナイフ投げの的とかピッタリじゃん!
それか小さな檻の中に入れてさ。
さぁさぁ!寄ってらっしゃい!
見てらっしゃい!
世にも珍しいネズミ人間だよぉ~!
親ぁのぉ~♪因~果ぁ~がぁ~♪
子にぃ報いぃ~~~♪
生まれ~♪出でたる~♪
この姿ぁ~~~♪
あな痛ましやぁ~♪痛ましやぁ~♪
さすがにカワイソウだな・・・それは・・・
「モモとミサでチャンバラ劇とかさ~
面白そうじゃん~
ルルベロは舞台装置とか作るの上手だしぃ~」
「まぁ!それは良いわね!」
「でしょぉ~?」
「採用するわ!」
なんだ~イワンはオマケかぁ~
三柱はイワンの契約精霊だからな。
一緒じゃないと来ないもんね。
サーシアも行くと言ってゴネてたけど、
ルルナに駄目って言われてスネてる。
だって嫌な予感しかしないんだもの。
無茶苦茶になるに決まってるよ。
「アリーゼと旅をするなんて初めてだね~」
「駄目よ、お父様。アリーゼでは無くて
シンシアですわよ。」
「あぁ~そうだった!ごめんよアリーゼ~」
「だから!シンシアですわ!」
「う、うんアリ・・・ンシア~」
不安だぁ~~~
***
「へぇ~そんなに面白いのかい。」
「えぇ、そりゃ~もう凄い見世物ですぜ!
右かと思ったら左、上かと思ったら下。
一体いつ入れ替わったのかさっぱり!
一番驚ぇ~たのは首が伸びるんですよ!
ビヨォ~~~ンって!」
張り切ってるねハニー!
言うまでもなくアリーゼ・・・じゃなかった、
シンシアを座長とした芸人一座「ビタリス座」
の公演だ。
サーシアが命名したんだ。
『旅芸人と言えばこれですわ!』ってね。
「ほぉ、是非見てみたいねぇ。」
「屋敷に呼びますかぃ?」
「いや、それには及ばないよ。
広場に小屋建ててるんだろう?
あーゆーもんはねぇ、その場で見るのが
いいんだよ。」
おっ!分かってるねぇ。
粋なセリフを宣ったのは、この辺りを仕切る
カラマティ族の族長ジェーン。
槍術を得意とする女傑だ。
ビタリス座がドーモンの地で公演を始めて
そろそろ半年が経つ。
これまでに七つの部族を回って来たよ。
ここで最後だね。
最初に行ったのは、一番大きな勢力の
キャシデ族。
あそこの族長ブッヂはクソエロ親父だった。
親切そうな顔をして屋敷に招待してさ。
んで夜中に客室に忍び込んで来たんだ。
うっかり殺しちゃったよ~
あはははははは~
いやぁ~誤魔化すのが大変だったよ。
自室で首吊り自殺したように偽装してさぁ。
二番目はバフェロ族。
族長ビルは賭け事が好きでね。
興行の許可を賭けて勝負しろ!
って言い出してさ。
ポイチョ札って名前のカードゲーム。
当然ボロ勝だよ。
こっちには精霊が付いてるんだよ?
イカサマし放題なんだから。
それでも勝は勝。
潔く負けを認めたビルは許可を出した。
おまけに税金の免除までしてくれたんだ。
なかなかの太っ腹だ!
三番目はゴパッチ族、族長はゲロニモ。
こいつはとにかく戦闘狂でさぁ。
舞台に乱入してモモに勝負を挑んで来た。
もうボコボコにしてやったよ。
そしたらモモに族長になって呉れって
言い出してさ。
いやぁ~しつこかったなぁ~
それ以外の部族は大した事も無いね。
勝イクアナに乗ろうと様子見してるだけ。
んで最後のカラマティ族。
どんなんかなぁ~?




