第106話 はりけぇ~ん
「バビル!大変だ!カールがやられた!」
いつもの外回りから役所に帰って来た所で、
悪ガキ軍団の一人が待ち構えていた。
最近はとんとご無沙汰しているな。
「カールが?何が有った?」
飲食店組合から呼び出されて話を付けに
行ったまま帰って来なかったらしい。
仲間が総出で探し回り、街外れの雑木林で
血まみれになって倒れているのを見つけたと。
「まだ息は有るけど、いつまで持つか・・・」
「医者には見せたのか?」
「そんな金ねぇ~よぉ。」
「俺に任せろ!今から呼びに行くぞ!」
「頼む!」
バビルと彼らでは生まれ育ちが違うからね。
本来なら友人になんか成らなかったんだ。
でもひょんな事からバビルとカールが街中で
殴り合いのケンカになってね。
お互いにヘロヘロになるまでやりあってさ。
引き分け~
んでもってそのまま酒場で乾杯ぁ~い!
それ以来すっかり仲良しってわけね。
引き摺るようにして医者を連れて来て、
カールの手当てをさせたんだけどね。
どーにも良くないらしい。
医者と言っても薬屋に毛の生えた程度だから、
大した治療は出来ないんだ。
「内腑がやられとるよ、ワシでは
どうにもならん。」
内臓の何処かが破裂しているようだね。
顔面蒼白で舌が紫色になってる。
大量の内出血でお腹が腫れあがっている。
これは・・・駄目だな・・・
「バ・・・バビル・・・」
「なんだ?カール。」
「み・・・みんなを頼む・・・」
「わかった、何も心配するな。」
「すまん・・・」
「兄貴!死ぬな!」
「兄貴!」
願いも空しくカールは死んだ。
「くそっ!許せねぇあいつら!」
「仇討ちだ!」
「待てっ!早まるな!」
「でもよぉバビル、このままじゃ兄貴が
浮かばれねぇ!」
「分かってる、只じゃ済ませない。
でも何かおかしい、あいつらはカタギだ。
ここまでするだろうか?」
「じゃぁ誰がやったって言うんだよ!」
「とにかく情報を集めるんだ。
見たやつが居るかも知れない。
組合の方には俺が行って来る。
お前らは街で聞き込みしろ。」
「あぁ、分かった。」
いくら揉め事があったとは言え、真っ当な
商売をしている連中が人殺しをするとは
思えないよね。
噂にでもなったら客足が遠のいてしまうもの。
人を殺したやつの店で美味しくお食事なんて
出来るはずがないよ。
「先ずはカールの葬儀だ、ちゃんと送って
やろう、動くのはそれからだ。」
「あぁ、そうだな。」
殺人事件だから本来は憲兵隊に届け出るのが
筋なんだけれどね。
それでは示しがつかないんだよ。
やられたらやり返す。
それが下町の流儀だ。
お上に邪魔されたく無い。
ってお前は王子様なんだけどなっ!
すっかりチンピラモードになっちゃてるよ~
友達を殺されて頭に来てるね。
まぁ分かるけどさぁ。
身内だけのささやかな葬儀を済ませて、
仲間達は情報集めに街中に散らばった。
さて、組合に乗り込むか!
と思った矢先に朝一番で長兄のバルサムに
呼び出しを食らった。
「お呼びで御座いますか?兄上。」
なんだ?今は取り込み中なんだけどな。
あー宿題の提出すっぽかしちゃったな~
それの事かな?
「そなたに殺人の容疑が掛かっておる。
飲食店組合から憲兵隊に訴えが届けられて
受理された。
心当たりは有るか?」
「な!なんですって!私に?殺人?」
「そうだ、カエル亭の主人ピヨンキッチが
刺殺体で見つかったそうだ。」
「なんと、それは・・・ですが何故私が?」
心当たりは大いに有る。
カールの一件と無関係では無いだろうね。
でもいきなり犯人扱いは不自然だよ。
組合にはまだ行って無いんだから。
「そなたから呼び出されたと言う話だ。」
「何かの間違いです!その様な事はして
おりません!」
おいおい、なんだそりゃ?
誰がカールを殺ったのかも分からないのに、
ピンポイントで呼び出したりするもんかよ。
何を言ってるんだ?
「近くに短剣が落ちていてな、それが凶器で
間違いないとの事だ。
我が家の紋章が刻まれているそうだ。」
「紋章が?」
ロンドガリア家の者にはサーシアから一口の
短剣が下賜されているんだよ。
剣と跳ね馬の図柄が刻まれている。
ロンドガリア家の紋章だ。
「そなたの短剣を見せてみよ。」
「畏まりました、しばしお待ちを。」
それなら寝室の戸棚の中にしまって在る。
こんなバカげた疑いなどすぐに・・・
すぐにぃ?
あれ?
あれれ?
なんで無いのかなぁ?
おっかしい~なぁ~
ここにしか置かない筈なんだけどなぁ~
あっ!こっちかな?
無いな・・・
「何をしておるのだ?早く持って参れ。」
「し、しばらく!しばらくお待ちを!」
やばい!ヤバイ!YABAe!
お願い出て来て~
これからはちゃんと手入れするからぁ~
毎日磨くからぁ~
「どうした?」
「そ、その・・・在りません・・・」
「そうか、無いのか。」
「はい・・・」
「憲兵隊が迎えに来ておる。」
「私ではありません!」
「仲間を殺されたそうではないか。」
「そ!それは!」
「何故届けを出さなかったのだ?」
「それは・・・」
「おおかた自分達で始末を付ける気で
おったのであろう?」
「・・・」
はい~その通りですぅ~
「ならず者とつるんで染まりおって。
王家の面汚しめ、恥を知るが良い!」
「私は殺してません!信じて下さい兄上!」
「申し開きは法廷で延べよ!」
えらいこっちゃぁ~!




