第102話 風に吹かれて
「父上!私は反対です!あ奴は王の器では
ありませぬ!」
声を荒げて父王に詰め寄っているのは
王太子になる筈だった長男のバルサムだ。
「決して私情で申しているのではありませぬ。
バビルが憎くて言うのでもありませぬ。
あ奴の素行の悪さ、資質に難があると
申しておるのです。」
まぁ、確かに優等生では無いよなぁ。
遊んでばかりで学業を疎かにするし、
下町の不良と徒党を組んで悪さするしね。
剣術や格闘技だけは熱心に取り組むから、
戦士としては使えるかも知れないけれど、
貴族に相応しい教養を身に付けているとは
言い難い所があるわな。
でも仲間には優しいし、義理堅いし、
ちょこっと嘘ついたりする事もあるけど
そんなに悪い奴じゃ無いよ。
「分かっておる、だが大聖女様の御命令だ。
バビルの立太子は決定事項である。
不束であるならば鍛え直すまでの事。」
「では、バビルの教育を私にお任せ下さい。」
「そなたに?」
「はい、存分に鍛えて御覧にいれまする。」
「さようか、相分かった、手加減無用ぞ。」
「無論で御座います。」
えぇ~、それは賛成できないなぁ~
潰す気まんまんだよ?きっと。
大丈夫かなぁ~?
***
また寝てやがる・・・
いやね、婚約したんだからお互いに相手を
良く知る為にだね。
定期的に会って親睦をだね。
深めるのが宜しいのではないかと思ってだね。
週末にお茶会を開いているのだよ。
それなのにだ!
席に付いた途端に寝落ちしやがる!
イビキまでかいてよぉ!
毎回こうだよ!
「いいの?ほっといて?」
「うん、いいよ。
きっと疲れてるんだよ。
そっとしといてあげて、パイパイ。」
優しいねぇ~
さすがに最初はムッとしたんだけどね、
無防備にヨダレたらして寝てるのを見てたら
怒るのもバカバカしくなって来てね。
この頃は、なんだか可愛く思えて来ちゃった。
実はさぁ~
かなり無茶な教育を受けているんだよね。
早朝から剣術と体術の訓練でシゴかれてさ。
昼からは社会勉強だって事で役所の雑用係を
やらされてるんだ。
もちろん身分を隠して偽名で働いてるよ。
だから目一杯コキ使われてる。
日が暮れて城に戻ると、ドサッと宿題の束が
置いて在って、明日の朝に提出しろってさ。
図書室に籠って夜中までお勉強~
いやぁ~良くやるよぉ~
その内に体壊しちゃうよ?
だぶんそれが目的なんだろうけどね。
そんでもって
「この様な軟弱者は聖女様に相応しく無い。」
とかなんとか理由を付けて婚約を取り消そうと
目論んでるんだろうね。
ほんで立太子も無し。
当初の予定通りバルサムを王太子にってさ。
見え透いてるなぁ~
んで何か?
「私こそ聖女様に相応しい!」
たらかんたら言うつもりか?
やめとけ~
それはやめとけ~
バルサムよ、お前は舐めてるよぉ。
サーシアの眼力を甘く見てるよぉ。
節穴みたいだけど底無しだよ?
一瞬で人を見抜くよ?
なんでバビルを大事な大事な娘の婚約者に
選んだと思う?
それはね、ロンドガリアの名誉の為に
死を覚悟したからだよ。
一切の命乞いをせずに。
それは騎士に最も必要な資質なんだよ。
己の命よりも名誉を重んじる。
忘れて無いかい?バルサム。
聖騎士王なんだよ、ロンドガリアは。
***
「んあ?あ・・・また寝ちまったか・・・」
起きたらベッドの中だった~
次の日の朝ぁ~
エミールが魔法でそっと運んだんだよ。
グースカ寝てるバビルをフワフワと浮かべて
客室の寝台まで運ぶのはいつもの事だね。
『あら、また寝ましたの?』
「えぇ、お母様、うふふ。」
『嬉しそうですわね。』
「べ!別に嬉しくなんかありませんわ!」
『しー、静かに、起きてしまいますわよ?』
「お、お母様が揶揄うからです・・・」
まぁ~初々しいこと!
「バビル様、朝食の用意が整って居ります。
皆さまもうお揃いで御座います。」
侍女が呼びに来た。
「おぉ!相分かった!すぐ参る。」
これも、いつもの事。
聖女一家と一緒に朝ご飯を食べてから帰る。
「その・・・すまなかった・・・」
「いつもの事ですわ。」
「次からはちゃんとするから!」
「それもいつもの事ですわ。」
「あいや、すまぬ・・・」
「ふふっ、ごめんなさいましね。
少し意地悪でしたわね。
お気になさらくても宜しいですわ。」
「かたじけない、ではまた週末に。」
「えぇ、お待ちしておりますわ。」
ゲートを通ってハイラムへ戻る。
閉じる間際に吹き抜けた風の中に、
彼女の香を感じた。
もっと会話すれば良かったのにと、
いつも後悔をする。
この週末の休息でなんとか持ち堪えてるけど、
その内に限界が来るよ?
どーしたもんかねぇ。
どーする?サーシア。




