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ドルヲタ男子高生、アイドル運営はじめました!  作者: フミヅキ
第二章 新人アイドルと愉快な仲間たちと僕
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新人アイドルと愉快な仲間たちと僕⑪

 楽曲と衣装の他にも、グループのロゴデザインを作るために美術部の友達に相談したり、物販で販売するTシャツに柊木さんと白樺さんの似顔絵を載せるために漫画研究会の人に声を掛けたり、アーティスト写真を撮ってくれる人を写真部で探したり。


 もちろん、協力してくれる人たちにはきちんと謝礼を払うことを約束した。


 そんな風に僕は忙しく動き回っていたのだが、ある日、ようやく時間が空いてダンスレッスンに顔を出そうとした時、僕は担任の男性教師に呼び止められた。大学を出たばかりの若い先生だ。担当教科は理科、特に化学の専門。


「椿、ちょっと……時間いいか? 少しまずいことになりそうで」

「え?」

「お前、アイドルの運営みたいなことしてるよな」


 僕はびっくりして目を見開きつつ、心の中では「そうか、ついに先生の耳にも入ったか」という納得もしていた。


 僕は校内メインで協力してくれる人を探していたから、僕たちがアイドル活動を始めたことはじわじわと生徒たちの間に広まっていた。面白がる人、バカにする人、興味がない人など色々いたが、そのうち先生にも知られるだろうことは予想していた。


 しかし、うちの校則や校風から見ても、そんなに問題視はされないだろうと考えていた。一部の教師には反感を持たれるかもしれないことも覚悟はしていたけれど。


「いや、俺はね、成績に影響がない限り、生徒の自主行動は尊重すべきだと思ってるんだが……。俺もここの卒業生だしさ。でも、学年主任がちょっと……お前のそういう『校外活動』に疑問があるらしいんだ。今から進路指導室に来られるか?」


 僕は嫌な予感に震えた。とはいえ、呼び出しを断れるはずもなく、担任の先生の後ろについて進路指導室に向かう。


 うちの高校は校則も緩く、生徒の自主性が重んじられている。アルバイトも申請なしに勝手に始められるし、もちろん芸能活動だって許されている。「立派な進学実績さえ残せば、犯罪以外のことは自由にしていい」なんて嘯く生徒もいるくらいだ。


 ただ、何かに熱中しすぎて成績グラフが右肩下がりをし始めた生徒は、先生の「指導」をきっちり受ける羽目になるし、校外活動についての計画修正も求められる。


 そのことはわかっているから、僕も勉強は疎かにしていないし、柊木さんや白樺さんにも気を付けるように伝えていた。これについては白樺さんが胸を張って引き受けてくれた。どうやら、授業に集中できない柊木さんの補習は子供の頃からずっと白樺さんの役目だったらしい。「自分の復習にもなるから丁度いいのよ」と彼女は言っていた。


 担任の先生と一緒に入った進路指導室の机には、学年主任の先生がどっしりと腰を下ろしていた。五十代で小太り、いささか頭頂部の毛量に心配ありの、ループタイをした国語教師だ。


 僕は学年主任の仏頂面に気後れしつつ、おずおずと口を開く。


「あの……確かに僕たちはアイドル活動をしていますが、ちゃんと勉強してますし、まだ定期テスト前なので成績動向は出ていないはずですけど……」


 僕の言い訳めいた言葉に対し、学年主任の先生は「ふん」と鼻を鳴らして僕を睨みつける。


「もちろん、キミらの成績は次の考査でじっくりと拝見させてもらうよ。だが、キミ、生徒に金品を渡して回っているそうじゃないか」

「え! いや、それは楽曲を作ってもらったり、ダンスを考えてもらったり、絵を描いてもらったりのお礼ですけど……?」

「生徒同士で金の貸し借りはいかがなものか?」

「貸し借りではなくて、仕事をしてもらったことへの対価です。確かに、のちのち揉め事が起きないとも限らないですけど、お互い条件とかはよく話し合ってちゃんと書面にも残しています」

「学生同士なんだ。お願いして厚意で作ってもらえばいいじゃないか」

「タダでやらせるなんて出来ません」

「それはキミに人望がないだけじゃないのかね?」


 噛み合わない会話に、僕は目が点になる。


(ちょっと何言ってるかわからない……)


 どこかの芸人のようなツッコミを入れたくなるのを、僕はなんとか我慢する。


(そもそも最低限、時給に見合うお金が必要だし、プラス技術料とか必要経費って感じが常識じゃないの?)


 僕はなんとか理解してもらおうと、衣装制作の例を出すことにした。


「わかりやすい例でいえば、衣装ですが、まず材料費がかかります」

「材料費なんて大したものじゃなかろう。わざわざ金を渡すなんて……」

「いやいや、布代だけでも結構しますよ! その他にリボンだのレースだのも結構しますし。それに彼女にはデザインを考えてもらっていて、縫製もお願いしています。特に縫製にはそれなりの時間がかかると言っていました。彼女のおばあ様も手伝ってくださるそうで。その労働に対する対価は必要です」


 学年主任が言葉をはさむ前に、僕は言葉を捲し立てる。


「楽曲を作ってもらうのも、デザインやイラストを描いてもらうのも、写真を撮ってもらうのも、ダンスを考えてもらうのも、頼んだ人の時間を使ってもらっているし、必要な機材を駆使してもらったり、今まで蓄積してきたスキルを公開してもらってるわけで……それはすごく価値のあるもののはずです」

「子供が趣味で作ったようなものに金銭的価値などないだろう」

「そ、そんな……! で、でも、アイドルのライブで儲けたお金を僕たちだけで独占して、手伝ってくれた人に還元しないなら、それこそおかしな話じゃないですか!」

「素人アイドルなんかで儲けられるはずがないだろう」

「な……!」


 僕は絶句して思わず隣の担任を見るが、先生も僕と同じような困った顔をしていた。


 確かに、アイドル活動の方向性を誤って失敗する可能性はある。でも、僕はきちんと活動するために姉という金主を得て、姉に対しては命を懸けて金を返していく覚悟をしている。僕は子供だけど、ちゃんとリスクとリターンとそれに付随する責任を考えているつもりだ。


 ただ、僕はそれをどう言葉にすれば学年主任に伝えられるのか、少し迷ってしまった。姉のお金に対するスタンスも話しづらい。


 僕がしばらく口を開けずにいると、学年主任は不機嫌そうに顔を歪めた。


「キミね、私の話を聞いてるかね?」

「え、あ、は、はぁ……」

「そういう不真面目な態度はいかんな、キミ……そういえば、君の名前はなんと言ったかね。えーと、椿寒三郎……?」


 机の上に置いた紙に僕の情報が書いてあるらしい。だが、僕の名前を読んだ瞬間、なぜか学年主任の表情が凍り付いた。


「椿……も、もしや、キミはつ、つ、椿媛子さんの……?」

「椿媛子は僕の姉ですが……?」

「ひぃっ……!」


 学年主任の口から悲鳴のような声が漏れた。


 この先生は媛子姉さんのことを知っているのだろうか。確かに姉もうちの高校を卒業しているし、学年主任も在職年数は長いはずだから面識があってもおかしくない。


(おや……? これはもしや……)


 僕は恐ろしい予感に震えつつ、人の好い笑顔を心掛けながら言葉を続ける。


「実はこのアイドル活動の主宰は姉なんです。僕は姉の連絡係――ただの手足として動いているだけで」


 もちろん嘘だが、媛子姉さんは自分の名前を使ってよいと言っていたし、このくらいのフカシは許容してくれるだろう。効果はてきめんで、学年主任は急に慇懃な態度でおどおどし始めた。


「な、なんだ。そ、そ、そ、そうだったのかね! それならそうと言ってくれればよかったのに!」

「あはは。そうですよね。僕みたいな高校生が活動の主体だとしたら先生も不安に思われるのは当然です。すべては姉の采配なんです」

「なるほど。媛子さんの……! な、ならば文句のつけようもないな! 素晴らしい生徒だったよ、彼女は! ハ、ハハハ! ど、どうか姉君にくれぐれもよろしくと伝えてくれたまえ」

「はい。伝えておきます」


 僕は学年主任に対してにこやかに頷きつつ、心の中で訝しむ。


(媛子姉さん……この先生のどんな弱みを握ってるんだ……?)


 気にはなったが、知るのも恐ろしいので僕はそれ以上考えるのをやめた。

 代わりに僕は学年主任への苛立ちを心に燃やした。


(みんなの技術に価値がないと思われてるのはすごく悔しい! 絶対成功して見返してやる!)

 僕は決意を新たに、進路指導室を出た。



 担任の先生と別れた僕は廊下を歩いていた。


(やっとダンスレッスンを見に行ける!)


 ホッとしたところで、僕のスマートフォンがメッセージの着信を告げた。


(白樺さんから……?)


『ルゥちゃんと花水木先輩がたいへん! すぐ来れる?』


 僕は足の動きを小走りに変えて体育館裏を目指した。

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