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三.巫女の御言葉〜Is love power?〜

賢樹の心臓は、自身を誇示するように高鳴っていた。

それが何故かは分からなかった。

危ない事態を免れた為か、それとも。

あまりにも間近にある、初とその顔を突き合わせる形になっているからか。


「嘘でしょ?あいつ…『止まり木』な訳?」


みちるの顔は焦りが簡単に見てとれた。

だが、今がチャンスと彼女は哥い始める。

その間も、初と賢樹は会話を続けていた。


「なあ、『止まり木』って何だ?」


「昨日私が、短時間しかこの姿にならなかったの覚えてる?」


「ああ。そういえば何でだ?」


問いに、初は答える。


「私達『禽』の力は、使わない間に玉に蓄えられた分しか通常は使えない。けれど、それを補える人がいる。それが『止まり木』。…あなたの事よ」


「…俺が…」


だが、


「おいおい何だそれ、すごい設定だな」


「…え?」


「どこまで俺を巻き込むんだよ?そろそろネタばらししても平気なんじゃねえの?」


笑いながらそう言う賢樹に、初は怪訝な顔をする。


「これさ、何かの撮影なんだろ?すごいな、今の撮影技術は。簡単に飛んでるように見せるんだな」


「…何言って」


「みちるだっけ、お前も大変だなあ!いつまでもそこにいてさ!」


何かを叩いた、そんな音がした。

否、その音は叩かれた音。

初が賢樹の頬を打った。


「馬鹿でしょあなた!現実を見なさい!!」


「見てるだろ!!だからこれはドラマの撮影か何か「違う!!」


叫ぶ初の目は真剣だった。

日本人ならば有り得ない朱色の瞳は、確かに賢樹の顔を捉えていた。


「これが現実。あなたのいる世界。目を背けないで。私達は今確かにここにいて、戦ってるの。夢なんかじゃない、全身で感じなさい」


みちるの方を向いた初は、哥う。


『我は謳う、我が為に、汝が為に。籠の中で啼こう、喜びを、憂いを。それは我が思い。捉える汝はどう映す?』


それは賢樹に向けられた歌。

この二日で覚えた初のイメージを、彼は戸惑いながら言葉にした。


「……炎。眩しく輝く、炎」


笑みの形を作った口は、『哥』の続きを紡いだ。


『汝が思いは我が思い。それは炎と映された。ならば我は炎となろう、此の()に翼に、其を纏わん』


『哥』に応じ、初の翼と腕に紅い光が昇り立つ。


(…やっぱり。力が回復されてる。『止まり木』がいるって…)


「遅い!『氷鳥乱舞!!』」


しかし、初が攻める前に、みちるの『哥』が終わる。

巨大な氷の鳥が現れ、その翼を羽ばたかせる。

途端に辺りの空気が冷えるが初は気にしない。

自身に満ちる力に喜びを感じながら、彼女は哥った。


(…なんて、幸せ)


『光鳥・思形』


飛んだ。

真っ直ぐに氷の鳥へ向かった初は、体ごとぶつかっていき、

それを砕き割り、賢樹の元へ戻って来た。


「な…」


輝く氷の欠片が降る中、舞い戻った紅い鳥は、隣にいる『止まり木』に話し掛ける。


「…あなたの力が、今の結果。見て、これが現実。…綺麗ね」


「……ああ」


見上げる夕焼け空に反射して、氷が煌めく。

間近で光る星達は、二人の勝利を祝うかのようだった。


○ ● ○ ●


「…それじゃ、行くわよ。あなたが『止まり木』って分かった以上、会わせなくちゃ」


「誰に会うんだ?」


「ついてきて。私の家にいるから」


初の話に従い、賢樹は歩く。

向かった先は神社。

主南神社、初の家へ。

引き戸を開け、初は屋内の誰かへ告げる。


「ただいま。…連れて来たわ、『止まり木』を」


「上がれ、『止まり木』。挨拶出来ない木偶の坊では無かろう?」


初に続いて賢樹も板の間に上がった。

彼女について歩き、辿り着いた部屋は和室。

そこに座っていたのは少女。

初より色素が薄いクリーム色の髪に、何故か巫女服。

人形のようにどこか感情の無い黄色い目を細めて、初の妹、主南 紫穂は口を開いた。


「よく来た『止まり木』。我は主南 ()穂。初の妹であり、『(とり)』の巫女だ」


「…はあ。えと、鳥居 賢樹です」


「ふむ、良い名だな。鳥居と言う名字など、御前の役割にぴったりではないか」


からからと笑う少女は、不意に表情を消した。


「さて、『止まり木』鳥居 賢樹よ。御前が初の相棒となったからには、色々と教える必要が有るな」


「はい。…何故、俺達は戦っているんですか?そこがよく分かりません」


「ふむ。ならば初達の持つ『玉』に関して教えなければの」


巫女は語る。

何時からか、『玉』はこの世に存在し始め、どれも強い力を持っていたと。

それを神や悪魔と考えた昔の人々は、『玉』を祀るようになった。

それがずっと続いた初の持つ『珠』は、しっかりと力を振るってくれている。

しかし、みちるの持つ『碧』は祀っていた社が崩れたか、それとも他の原因なのか、悪心を持つ者に力を渡すようになってしまった。

残る二つも行方が分からない。

唯一つ分かる事は、『碧』は怒り苦しんでいるという事。


「だから我は巫女として、御前達に伝えねばならんのだ。戦う理由と其の意味をな」


(戦う意味…)


賢樹は初の戦いを思い出す。

真っ赤な羽根を散らして戦う少女は、神の前で踊る巫女のようだった。


(…神みたいな力を持ったものを、鎮める為、か…)


ふと賢樹と目が合った黄穂は、彼が理由を分かったと見たのか笑う。


「他にも聞きたい事が有るなら聞くぞ?」


「じゃあ、『止まり木』って何ですか?」


大人びた笑みの黄穂にどきりとしながら、賢樹は自分に一番大事な事を聞いた。

黄穂はやはりといった顔をする。


「名の通り、御前達が知っている通りの役割だ。羽を休め、力を蓄え、また飛び立つ為の場所だ」


「何だ、何か特殊な役割でもあるのかと」


「特殊…役割ではないが、有るぞ」


その後の言葉に、二人は絶句する。


「『止まり木』はの、相棒との身体的、精神的な交わりにより力が強まる。つまり『禽』の力を強くする事が出来る。尤も、感情の籠らない其れは意味が無いがな」


二人の頬が真っ赤になった。

互いの顔を見合わせ、黄穂に言う。


「「誰がこんな奴と!!」」


「息も合っているようだし、此方が口出しは無用だな」


二人は二の句が告げなかった。


○ ● ○ ●


「もう六時か…」


「時間、取らせてごめんなさい」


「大丈夫。案外、家から近いみたいだから」


工場の煙で朱に見える月が、夜空を照らす。

賢樹の見送りで共にいる初は、それを見ながら小さく言った。


「…ごめんなさい、紫穂が、あんな事」


「紫穂?黄穂じゃないのか?」


「三年前にあの子は『禽』の巫女になってから、黄穂と名乗ってるの。別の人格があの子の中にあるみたいに」


言葉を切って、初は最初の話に戻る。


「あまり気にしないで。『止まり木』が居なくてもこうして今まで戦って来れた。紫穂の言う事なんかしなくても、あなたがいればきっとすぐ『玉』を鎮める事が出来るわ」


「仮に勝てなくてヤバくても、そんな事しないけどな」


初の先を歩いていた賢樹は彼女に振り向き、軽く笑って言った。


「あいつに『止まり木』はいない。すぐに勝って、他の『玉』もすぐに鎮められるさ」


「…そうね」


呟くように、初は相槌を打つ。

俯いた彼女はそれより小さな声で伝える。


「…あの、昨日、湿布貼ってくれて、ありがと」


「ん?良いって。まあ無茶はするなよな」


「…それから」


少し上げた初の顔は、酷く真っ赤で。

視線を合わさず、朝の答えを告げた。


「…私、人見知り激しいから。今はこんな言い方しか出来ないだけ。『禽』の時は少し…いつもと違くなるから…」


「……あ、うん」


頭を掻いて、賢樹は止めていた歩を進めた。

その後は気まずい空気が続く。


「…ここ、だから。ありがとな…主南」


「分かった。…じゃあね、鳥居君」


「…おう」


少女は巫女服を纏い飛び立った。

一枚、落ちた羽根を拾い上げ、賢樹はそれを街灯の光に透かす。

羽根は夜風に吹かれ、ふわふわと動くのだった。


 ○ ● ○ ●


「…まさか、『止まり木』が見つかっちゃうなんて」


どこかの家の風呂場。

二十五メートルプールの半分程の大きな湯船。

一人、蒼い鳥はそこに沈んでいた。


「あたしも探すしかないわね、『止まり木』。世界に二人といない、見つかる確率の低すぎる探し物…」


目を伏せ、また開く。

央真 みちるの茶色い瞳は、怒りをその中に孕んでいた。


「…絶対、集めてやるんだから。あたしの願いを叶える為に…」


やがて、少女は笑い出す。

始めは小さく、終いには大きく。

広い風呂場に、ずっと少女の声は反響していた。

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