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九.二つの終わりと二つの始まり ~long, long time~

「…行けるか?主南」


「ええ。やっぱり『止まり木』は違うわね」


「…賢樹が、真姫をあんな顔に?」


「ええ、そうよ。悪い人よね、賢樹くんは」


真紅の『禽』とその『止まり木』。

直青(ひたあお)の『禽』と仮の『止まり木』。

そして、四人を見る黒い少女。


「………」


不可思議な戦いをぼんやり見つめながら、少女は過去を振り返る。

思い出すのはいるも、大好きな人の後ろ姿。


○ ● ○ ●


「おい鳥居!部活行こうぜ!」


「おう!今行く!」


始まりは四年前。

当時の坂口真姫は、今とは違いとても地味な少女だった。

制服を校則通りに着用し、髪は三つ編み、その目は眼鏡越しに物を見ていた。

得手不得手もあまりなく、ただただ日々を真面目に生きていた。

その中、彼女には賢樹が眩しく見えていた。

常に側には人がいて、誰とも物怖じせず付き合い、日々を自由に生きる。

そうなりたい、といつしか願うようになった彼女は、努力を始めた。

少しでも可愛くなりたい、少しでも気にかけてもらいたいと、陰ながら。

二年かけて、彼女はようやく賢樹と言葉を交わした。それがきっかけで、真姫は友達として彼に近付けるようになった。

ちょっとずつ、彼女は彼に近付いた。後少し、それが中々踏み出せないまま。


(…けど)


冥い瞳は、赤い鳥を見つめた。

突如現れた少女、主南 初。

ついこの間出会ったばかりなのに、あっという間に距離を詰め。

こうして戦う中でも、二人の目には互いに対する信頼がありありと見てとれる。


(…それだけじゃないかも、ね)


独り心で呟きながら、傍観する。


(…あーあ。何だ、私最初から…)


○ ● ○ ●


夜空白花(やくうはっか)!!』


『翼の一振り、(くち)の一刺し、御足の一突き、尾の一払い、全てを顕わすものを此処に…煉剣・朱片!』


星型の氷を、赤銅色の刀が弾く。


「真姫に何を言った、賢樹!!」


「何も言ってねえよ!」


飛ぶ拳を、首を捻って避ける。

空で陸で、四人は戦う。


「『水月刺刀』…、ねえ主南 初、あなた、はっきり言って本当の本当に邪魔者よ」


「そうね、自覚してるわ。けど過ぎた事は悔やんでも仕方ないもの。だったら今を頑張るだけよ」


互いの獲物がぶつかる。

鎚で打った鉄のような。厚い氷をつついたような音が響く。


「俺はずっと!!お前等の為に、真姫の為に!!」


「どういう事だよ!?意味分かんねえよ!」


ぐい、と隼は賢樹の胸倉を掴む。

怒りと戸惑いが、双方の瞳に映る。


「迷惑なんかかけたくない、でも」


「抑えられるならそうしたいよ、でもな」


揃う言葉は空に響く。


「「どうしようもない!!」」


動く。

初はみちるのサーベルを弾き、隼は賢樹の服を離す。

よろける二人に、一撃。

空から数滴、血の雨がコンクリートに落ちた。


「…っく、『直治清水』」


「派手にやられたな」


切られた腹に手を当てながら、みちるは隼の肩に手を置く。


「大丈夫、鳥居君?」


「平気。普段より本気なだけだ。結構力入ったボディブローだよ」


地に座る賢樹を、初は手を取り立たせる。

そして四人はまた向かい合った。


「あたしの『止まり木』、今日はなんだか、これで決着が付きそうよ」


「そうだな。いくらでも力、使えよな」


「ごめんなさい、いつも」


「気にすんなよ、主南。お前はただ、全力でやれば良い」


二人の鳥は、それぞれの翼を広げた。


「…あなたが『止まり木』なら、本当に良かったかもね」


「…ありがとう、私の『止まり木』」


そして、綺麗な声で『哥』を紡ぐ。


『我が内に満ちる哥、力、思い。形になどならぬ、形になどしてはならぬ。今溢る、熱持つ奔流』


『…舞踊霜子』


『…炎波・湯滝』


バサリ、と一撃ち。

羽撃きと共に疾る力。

吹雪と、炎の川。

静かに、それは拮抗し。

やがて。


○ ● ○ ●


「………」


眠る、隼。

それが決着を意味する。


「本当に死んでないよな?」


「当然よ。自分の、仮でも『止まり木』を殺す訳ないでしょ。眠ってるだけ」


「大丈夫よ鳥居君。私の『湯滝』は誰も焼いてないわ」


三人は隼を見ながら話す。

時刻は午後一時半。本来の日常を忘れ、屋上に五人の影。

その五人目は急に動き出した。


「…坂口」


「…サッキー。後夜祭の時、昇降口に来て」


「あ…ああ…」


言うと、真姫は一足先に屋上を後にした。


「あいつ…」


「記憶消せないわね、これじゃ。まあいいわ。みちる、今日こそ…」


振り向いた時には、既にみちるの姿は無かった。


(逃げられた…早くに対処すべきだった)


むくれる初は変化を解き、隼の脇を抱える。


「…鳥居君、とりあえず彼をどこかに移しましょう」


「そうするか。…にしても何でこいつ、あんなに怒ったかなあ」


(…鈍感過ぎ)


○ ● ○ ●


数時間後。

日は暮れ、虫が鳴き始める。

後夜祭楽しみだね、などといった喧騒から一人離れ、賢樹は昇降口へ向かった。

既に、そこには彼を呼んだ人がいた。

半袖のワイシャツにサマーセーター、蒼雲高校の夏服を着た、それは賢樹の友人であった筈の少女。


「…待たせた、坂口」


「大丈夫だよ。…ありがと、来てくれて」


表の暗い景色を見ていた坂口 真姫は、彼の声に振り向いた。

笑う彼女の頭には尚、賢樹があげた黒いリボンが揺れていた。


「…それで、話って何だ?」


「サッキー、とぼけないで。分かってるんでしょ?」


「いや、全く分かんないんだけど」


そっかあ、と言うと真姫は真っ直ぐに賢樹の目を見た。

少し、悲しそうにその言葉を放つ。


「鳥居 賢樹君。…私はあなたが好きです」


「………」


「中学の頃から、ずっと見てました。…付き合って、くれませんか?」


賢樹も、真姫を正面から見ていた。

本当は予期していた言葉を受け止め、ややの間の後、口を開いた。


「ごめん」


「………」


「坂口は…俺にとって大事な友達だから。……だから」


真姫の頭が、段々と下を向く。


「…分かってたよ」


小さくそう呟くと、彼女は顔を上げる。

真姫は、笑顔だった。


「えへへ、良かった。私、サッキーにとって大事な友達なんだね!ちょっと嬉しいかも」


「ああ…」


「それじゃ、私はこれで。後夜祭、見る気はないんだ」


言うと身を翻し、足元に置いてあった鞄を持つ。

靴を下駄箱から取り出し、履き始める。

その小さな背中に、賢樹は一言。


「…ごめん、坂口。本当に…」


背中は一度小さく震えた。

首が縦に大きく振られた。


「じゃあな…」


そっと、その背に手を置き、賢樹は昇降口を後にする。

その彼の背に、声が飛ばされた。


「サッキー!!」


振り返ると、靴を脱いだ少女がそこにいた。

涙でぐしゃぐしゃの笑顔で、手を振って。


「また…明後日!!」


「おう!気を付けろよ!」


「うん!!」


真姫は、さよならを告げた。


○ ● ○ ●


「………」


ローファーを履き直して、昇降口を出る。

歩く少女を狙う影。

背中からの衝撃に、真姫は声をあげた。


「きゃああっ!?」


「何しょぼくれてんだ?」


振り返った真姫は、目を丸くして驚く。


「しゅ、隼!?」


「誰だと思ってたんだよ?」


「…お昼の、青い人…」


ああ、と隼は頷く。


「そっか、わりい。てか今日は何だったんだ?」


「そうだねえ。何か、ファンタジーの世界にいたね!…サッキーも、初ちゃんも」


静けさが場に降りた。

内緒話をするように、真姫は声を潜める。


「私ね、隼達が戦ってる時、色々考えたの。昔の事とか。…それで気付いたの。私は初めから…賢樹君の眼中に無かったんだって」


真姫は空を見上げた。

遠くに橙、近くに藍の色が広がる空には、薄い半月が光っていた。


「頑張ったんだよ、これでも。服装とかすごく変えて、明るい子になろうって、そういう子の真似して。…けど」


真姫の視界の中で、月が歪んだ。

俯いた涙声は、悲しみに沈んだ。


「…だめだった…」


真姫の体から力が抜ける。

学校の前庭、人はまばら。その目も気にせず真姫はその場にしゃがんで声をあげて泣き始める。

彼女を見下ろしながら隼は呟いた。


「…駄目な訳あるかよ」


「……?」


「最初は全く近付けてなかっただろ。ずっと遠くからあいつを見てるだけだっただろ。…こんなにも近付いただろうが。主南さんとは特殊な間柄だからそれを除けば、あいつに一番近いのは、お前だよ」


その物言いに、真姫は問う。


「…隼。何で私がサッキーの事見てたって、分かるの…?」


「…見てたからだよ」


隣にしゃがんだ隼は、真姫にはっきりと告げる。


「俺がお前の事を、ずっと見てたからに決まってんだろ」


二人の事を見るのは、星と月だけ。


○ ● ○ ●


それから二日後。


「おはようサッキー!片付け大変だねえ」


「おう、おはよう。本当だよな、ずっと文化祭でいいよもう」


いつも通りの朝、いつも通りの日常。

変わらず笑う真姫を見て、賢樹は複雑な気持ちでいた。

それをどこかに吹き飛ばす、聞きなれた低い声。


「おはよう、賢樹、坂口!」


「おう、今日は早いな隼」


「まあな」


そこで、賢樹は違和に気付いた。

真姫がすぐに言葉を返さなかったのだ。


「…おはよ、隼」


「…おう」


(…!?何だこの空気…)


普段ならここで真姫が憎まれ口を叩き。

いつもなら隼がそれに皮肉を返す。

それらが一切、無かった。


(…何なんだ、この二日間に一体何があったんだよ!?)


いつも通りでない、いつも(・・・)

賢樹はそれに戸惑うばかりであった。


○ ● ○ ●


「…そう。どっちも大丈夫そうなのね。なら良かった」


「一応な。けど何だかあの二人妙にギクシャクしてて。すっげー気になる」


(…大方予想はつくわね)


その日の放課後、主南神社。

その境内で初と賢樹は言葉を交わす。

二人の手には箒が一本ずつ。

掃除をしながらのお喋りであった。

制服姿の初は作業をしながら口も動かす。


「それにしてもあなたの夢、気になるわね。実はあなたが『(たま)』を持ってたりしてね」


「そんな訳あるか。だったら俺も三年前に『禽』になったりしてんだろ」


「…そうよね。何なのかしらね、一体」


会話を進めながら、箒で落葉を一つの箇所に集めていく。

一瞬、そこで箒が止まった。

賢樹が持つ方の箒だ。


「そういえば、あの時の言葉、どういう意味なんだ?」


「…何が?」


「友達じゃなくて…ってや」


そこで言葉は途切れた。

足元に蒼い羽根が、落ちて来たから。


「逃げて、鳥居君!!」


身を翻した瞬間、それは爆発した。

背中に熱と苦痛が駆けた。


「…ぐっ、がぁっ…!」


「鳥居君…!それにしてもこの力…強過ぎる。あいつに何が…」


『珠』の力を使い、初は哥ってすぐに賢樹の背を癒す。


「みちる、出て来なさい!!」


「嫌だわ初ちゃん。あたしはさっきからずっと、ここにいたんだけど?」


声のする方角は、初の正面。

「阿」の口の狛犬から。

それが唐突に歪み、狛犬の前にみちるが現れた。

彼女の足は、地に着いていなかった(・・・・・・・・・・)


「…みちる、まさか」


「ええ、ようやく見付けたの。あたしの『止まり木』」


蒼い鳥は肘辺りまで袖を捲る腕に座っていた。

黒と黄のネクタイ、黒いスラックス。

烏の濡れ羽色をした長い髪を一つに束ねる男は、声を発した。


「初めまして、紅い鳥とその『止まり木』。俺は要片(やすかた) 玄。…よろしく」


笑んだ男の目は、酷く生き生きとしていた。

獲物を見付けた獣みたい、初はそう思った。

半年以上更新せず、申し訳ないです…


ここからが本番といったところです。

これからもお付き合いの程よろしくお願いいたします。

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