序.捕われの少女達 〜Three years ago〜
この話全般に、もしかしたら少し過激、不快に思う描写があるかもしれません。その際は御了承ください。
三年前。
某県星灯市、深夜の上空。
市の中心から突然光の柱が上がった。
その真下には神社。
『主南神社』と言う、一風変わった名の神社からだった。
その日の空は曇天で、いかにも何か起きそうな雰囲気であった。
光の柱の側に、彼女はいた。
眩しそうに目を細めながら、一心に柱の頂点を見詰める。
寝間着の少女は呟く。
「紫穂…」
眼鏡をかけた少女は、人の名を柱に向かって呟く。
確かに、柱の頂には人がいたからだ。
柱の下方にいる少女よりかは幼い、十二、三才程の少女だった。
彼女の目は虚ろだった。
柔らかく両腕を開き、その体は空を向いている。
その時、姉らしき眼鏡をかけた少女の耳に、声が届いた。
【女、主南 初よ】
「誰!?私の妹をどうするつもり!?」
【御前の妹は、我の巫女となる。我の意思を御前達に伝える為に】
声は荘厳、それしか言いようが無かった。
女、男、どちらともつかぬ声。
いや、どちらの声でも当てはまる不思議な声だった。
【女よ、御前の妹を返して欲しくば、戦え】
「たたか、う…?」
【そう、戦うのだ。我が同胞達と】
少女―初は、理解がそろそろ追いつかなくなってきた。
自分の妹を取り返す為に、奪った奴と戦う、それは分かる。
しかし、その奪った奴の同胞とは何なのか。
訳の分からぬまま、話は進む。
【我が同胞は我のように快い待遇ではない。この社は永い間我を守り、また慈しんできた。しかし我が同胞は酷い扱いを受けている。時に汚水の中に捨てられ、時に埃の中に晒され…それは屈辱としか表せないものだ】
「…どういう事よ。あんたが紫穂を、妹を奪ったんじゃない。なのに何で倒すのがあんたじゃないのよ!」
【…同胞は其れにより歪み、本来此の世界を守らなくてはいけない責務を捨て、自らの為に動くようになったのだ。今迄は其れで良かった。しかし彼等の力も必要としなければいけない時、戦う時が来たのだ】
眉を寄せる初。
表情の変化は当然、声には分からない。
声は続けた。
【この戦いにおいて我と御前の妹は必要な存在だ。我と彼女が在らねばいけない。だから戦うのだ、女よ。同胞の怒りを鎮めるのだ。さすれば妹は御前の元へ帰る事が出来る】
声の言う事は分からない事だらけだった。
問い詰めても恐らく明かされはしない。それは先の返答で明らかだった。
それでも分かる事は一つ。
声の言う事に従う事。
相手が悪魔でも鬼でも、それで妹が助かるなら。
俯き、しばらく考えた初は頷いた。
「分かった。戦ってやるわ。あんたの言う仲間と」
【有難う…】
声が途絶えた。
すると、光は薄れ、ゆっくりと紫穂が落ちて来た。
抱き留める初は紫穂に叫ぶ。
「紫穂、紫穂…!」
妹は目を開けた。
そして、言った。
「…我が名は黄穂。紫穂ではない。主南 初よ、此れが御前の力だ」
黄穂と名乗る紫穂の目は、その名の通りに黄色い瞳をしていた。
口調までもが変わった初の妹は、握り締めていた右手を開く。
そこには玉があった。
炎を内に秘めたような、真っ赤な珠が。
分からない事だらけだと思います。
それでも回を追う毎に謎は明かされていくと思います。
よろしければぜひ、お付き合いください。
閲覧、ありがとうございました。