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伝説のメイド現る編⑦ 就職内定


『若い時の調子に乗った発言が歴史に残っちゃってるー!!!!』


 あっ、黒歴史なんだ。


 キャラに合わない発言だと思ったら、若気の至りだったらしい。


 いや、まあ、その、よく分からないけど、いい言葉だと思うよ。よく分からないけど。


『うるせぇです!私だってよくわかんねぇですよ!』


 本人にも分からないのかよ。


「よし、決めました」


 メアリさんが何かを思い付いたのか、さりげなく注ぎ直していた紅茶を飲み直すと、僕の方へ向き直った。


「私の娘のメイドになりませんか?」

「えっ、娘ですか⁉︎」


 え⁉︎娘ですか⁉︎

 

 娘ですか⁉︎


 娘⁉︎


 娘って言うことは娘ってことで……経産婦⁉︎


『ショック受けすぎですよ』


 それくらい衝撃的だったので許して欲しい。


 すごく若く見えるのに。


『魔術師ってのは大抵そういうものなんですよ』


 そういうものなのか……。


 魔術師は凄い力をもった社会不適合者でめちゃくちゃ若作りらしい。


「私の娘も魔術師なのですが、才能に恵まれている上に大変に良い子で、私の自慢なんです!」


 少し興奮したようにメアリさんが話す。


 ここにきて最高のテンションだが、割と親馬鹿なのだろうか。


「まだまだ子供ですが、ゆくゆくはきっと素晴らしい魔術師に育つと思うのです!それに、結局このダンジョンを制御する魔術師が必要ですし、外に向けた印象的にも、娘にここに住んで貰えば、もろもろ解決なんです!」


 もろもろもろっと解決するらしい。


 なんだか娘愛が強すぎて、冷静な判断力を失っているようにも見えるのだけれど、シロフィーはどう考えているだろうか。


『少女のメイドになれるなんて、人生の終着点ですね!』


 なんかよく分からないこと言ってる!


 そういえば、ロリコンだったっけ……。


『失敬な!ロリコンではありません。ただ、仕えるなら愛らしい子供に限るというだけで』


 素晴らしいご主人様はどうしたというんだ。


 シロフィーがきっちり判断してくれないと、もうお先真っ暗なのですが。


『実際好条件ですよ。領主の娘が住んでくれるなら、この厄介な屋敷も安泰ですし、魔術師なので、今の強引な形じゃなく安定させられます』


 今の異界屋敷は立場も悪ければ、状態も悪い。


 メアリさんの娘さんが住むことでその両方が解決するなら、それは確かに一石二鳥、いや、僕たちのご主人様も見つかるので一石フェニックスくらいのありがたさがある。


 まあ、元々、僕はシロフィーにおどさ……雇用されているようなものなので、彼女が乗り気なら断る選択肢はないのだけれど。


「あの、クロフィーさん。一つ、いいですか?」


 恐らく虚空に向かって視線を動かしていた僕を見て、メアリさんがおずおずと口を挟む。


「なんですか?」


「シロフィーさんがそのメイド服に宿っているというのは、黙っておいた方が良いですよ」


「……それはご息女にもということですか?」


「ええ、着るだけで力が宿るお手軽強化アイテムだなんて知られたら、それだけで争いの元になりますし、それを魔術師が知れば、絶対剥ぎ取って研究材料にしようとします。うちの娘は、そういう欲求に素直なのです」


 言われてみれば確かにこんな便利アイテムを、僕が占有して文句がでないわけがない。


 ただ、良い子だと熱弁された直後だというのに、娘さんの評判にすでに陰りが見えてきているのですが。


 先行きは不安しかない。


『まあ魔術師ってそういうものですよ。目の前の彼女が、かなりレアってだけで』


 確かにメアリさんは、まるでこの不思議な服と不思議なメイドに興味はあっても、それ以上の感情は見えてこない。


 裏があるのかと思いたくなるほどだが、まあ、メアリさんだしなと納得しておく。


『何目線の発言ですか。誰目線の物言いですか。メアリさんのなんのつもりなんですか貴方は。さっき会ったばかりでしょうに』

 

 我ながらチョロいものだが、僕の中のメアリさん像は結構な女神になってきていた。

 

 娘さんもそうだとは限らないのが怖いところだけれど。


「どうやら娘のことは、了承していただけた様ですね。では、数日以内に、娘をよこしますので」


 メアリさんは満足げにそう言うと、屋敷を後にした。


 帰り際、屋敷の玄関で彼女は最後に一つだけこう言い残した。


「娘のことをよろしくお願いします。シロフィーさんと……貴女なら安心して任せられます。私と違って……」


 それがどういう意味の言葉なのか尋ねる前に、彼女は風の様に僕らの目の前から消えてしまった。


 こうして、喧騒は去り、そして新たな喧騒がやってくる。


 お嬢様()()は、数日後ではなく、その翌日に姿を表した。


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