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天界編11 戦いの終わりに

 四方八方からロボのビームがこちらに向かって飛んでくるけれど、もうそれは光とは思えないほど僕にはスローに見えている。


 ビームの隙間を縫うように、僕は右手でロボ、左手でもロボを掴み、もうでたらめに振り回す。


 子供の駄々に見えるかもしれないけれど、信じられないほどのパワーが出ているので、その破壊力は抜群。


 文字通り鎧袖一触でロボは次々と破壊されていった。

 

 敵はロボ、そして武器もロボ。


 ついでに言えば盾もロボである。


 ビームをロボで弾くように叩き落とし、僕はエルメの元まで歩を進める。


 今、一番恐ろしいのはエルメが隙をついて僕を天界へと送り出してしまうことだ。


 一応、僕の記憶を消すことも考えているため、速攻で天界送りを決めようとは思っていないようだけれど、いつ痺れを切らすか分からない。


 倒せるうちに倒すのが得策と見た!


「て、天界人様強すぎませんか!?」


 常に余裕綽々だったエルメの表情がついに崩れた。


 魔法戦においてはいい傾向なのだけど、ロボという科学相手ではどれくらい通用しているか……。


 でも、相手が冷静さは欠いている方がどっちにしろ良いことは間違いないか!


「チートをもらってはいないように見えたのですが……」

「チート? なんの話ですか?」


 聴き慣れた言葉につい反応してしまうが、エルメはなんだかんだ僕に優しいので、疑問に答えるように話を始める。


「天界人様の中で不幸な事故に会った人を掬い上げて、チートと呼ばれる天使の加護をお渡しして、魔界や中界に送りだしているのです」


 異世界転移の仕組みはそんな感じだったのか。


 チートは天使の加護ね……。


「なかなか面白い話ですが、何故、そんなことを?」


 依然としてロボを破壊しつつ、エルメとの会話は続く。


 そう、基本的にはこれでいい。


 注意は僕に向いているのが一番だ。


「天界人様には魔界の王、魔王を退治してもらっているのです。天使としては、あの魔界という世界だけは許せないものですから」


 天使と魔界が仲が悪いのは神話の話で聞いた覚えがある。

 だからこそ真ん中に新たな世界が置かれたとかなんとか……ちなみにそれが中界である。


 そして魔王は十魔王のことではない気がする。


 元々は魔王は一人だけだったけれど、それが死んだことで十魔王という群雄割拠の時代が訪れたとエルパカが話していたような……。


 だからこの場合の魔王とは一人の魔王のことを指していると思われる。


 その魔王を倒したのが天界人……つまり、僕と同じ転移者ということになるのか。


 ……じゃあ、僕だけなんでチートないんだよ!


 本当にもう大変だったんだよ!?


 半年間奴隷生活だったんだから!


「チートや世界の説明を行う部分をどうやら天界人様は全てすっ飛ばしてしまったようですね……本当に申し訳ありません」

「つまり私は滅茶苦茶不運ということですか」

「ええ、ですが安心してください。きちんと天界へ帰れるようにしますので」


 結論は結局それか……。


 やはり、話は重要な部分で通用していないようだ。


 言葉が通じないなら、戦う他ない。


 僕はロボを手にして振りかぶると、エルメに向かって全力全開、そして一球入魂でぶん投げる!


 ロボは風切り音を響かせて地上の流れ星かと思うほどに美しく飛んでいく。


「私にそういったものは通用しません」


 エルメは片手をかざすと、例の穴を空け、投げつけたロボを何処かへと飛ばそうとするけれど……投げつけたロボは空中で鋭角に曲がり、穴を避ける。


「な、なんですそれは!?」

『仙人山秘技その3〝一石極鳥〟』

 

 エルメには聞こえていないだろうけれど、彼女に答えるようにシロフィーが呟く。


 剛腕で複雑な回転をかけることにより、その投擲物を自在に操ることができる技だ。


 エルメは背後から迫る魔球と化したロボに激突したが、吹き飛ばされつつも、羽で姿勢を直した。


「ま、魔法は使えないはずですが……」

「魔法ではなく修行の成果だそうですよ」

「ふ、ふふふ……やはり、天界人様は素晴らしい……秩序の中で素晴らしいものを見せてくれる」


 常軌を逸したシロフィーの力を見たエルメは何やら不気味に微笑み始めた。


 天界人の力じゃなくて、中界人の力なんだけどね。


 しかし、それを伝えると発狂しそうな恐怖もあって、それは黙っておくことにしよう。


「流石天界人様です。私程度の思い上がりを正していただき感謝します……なので、何度でも諦めず天界へと送る他ないようですね!」


 両手と両翼を広げたエルメの前方に、次々と世界の穴が生み出されいく。


 その光景はまるで世界の終わりだった。


 これが触れるとアウトで厄介なんだ……。


 もう一度この世界に戻ってこれるとも限らないわけで、ここは避け続けるしかない。


 そう思った矢先に、天廊に大きな音が響いた。


 何かが軋むようなそんな音は天から聞こえてくる。


 エルメも僕も同時に視線を上にあげると……そこにはエルメに向かって拳を振るう巨大人形の姿があった。


 魔法無効化のあの人形が急にその主人に反旗を翻した! 


 勿論、人形に意思があって僕に味方しようと思ったわけではない。


 僕にはわかる……それは僕のご主人様の仕業以外ありえないと。


「しゃ、シャーロット!? 動けたのですか!」

「シャーロットは魔法人形、自分自身の魔法無効化で動けなかっただけ。魔法無効化を解除すれば動く」

「は、半天使の小娘じゃねぇですか!」

 

 テレサ様はシャーロットの、巨大人形の肩の上に立っていた。


 どうやらこの人形に刻まれた『シャーロット』の文字を『制御』に変更することは成功したらしい。


 やっぱり僕のご主人様は常に万人の想像の上を行く。


 それは天使相手でも変わらなかった。


「こいつを返して欲しいなら、もううちのメイドは諦めて。そして、あと一つ要望がある」

「はあ!? ご、強欲が過ぎますよてめぇ! し、しかし、『秩序魔法』は今後の為に絶対に必要なもので……」

「今すぐこの人形に自分を殴らせてもいいよ?」

「調子に乗りすぎですよガキ!」

「貴女もガキみたいな容姿。それに、私は大人のレディ。色気もある」

「私の方があるに決まってんでしょうが!」


 最初は交渉のはずだったのだけど、最後はもう子供の喧嘩みたいになっている。


 同じ天使な存在として張り合うところがあるのかもしれない。


 でも、大人の色気はないと思いますよテレサ様……。


 このままでは埒があかないので、僕もエルメと交渉することにした。


 天界人相手なら、なんとか話は聞いてもらえるはずだ。


「ロボもあらかた片付きましたし、エルメ、こうして戦う形にはなりましたが、当初の私たちの目的はテレサ様の母に会うことです。テサトンをこちらに連れてくることは出来ませんか?」

「テサトン……あの変人の娘だったのですか。中界人が天界にいる者に会おうなんて、ほ、本来絶対許されないことですよ!?」

「そこを許してください。お願いします」


 僕は深々と頭を下げる。


 そう、エルメは職務に忠実なだけで、別に悪意に満ちた存在ではないはず。


 今、シャーロットという材料を得た以上、交渉は可能になったはず。


「……天下人様、天使の加護なしでは中界も魔界も苦しい場所です。いずれその身に不幸が降りかかるかもしれません。考え直しませんか?」

「見ての通り、私は強いです。そして、不幸が来ようとも、私はご主人様といます」

「……分かりました。半天使、母親に会わせてやるです」


 心底苦い表情で、エルメは交渉を受ける決断をした。


 僕の強さを証明することと、交渉材料を手にすること、この二つがエルメを納得させる条件だったのかもしれない。


 こうして、天廊の戦いは終わりを告げた。


 あとは、テレサ様がお母様と再会するだけだ。 


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