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天界編⑩ スーパーメイド人

「あの人形はお母様が何かを参考にして作ったと言っていた……それが目の前のやつなのかも」


 テレサ様は天を突く巨大な人形を眺めながら、流石に驚いたような声を上げている。

 

 メアリ様が天廊に来ていたのだとすれば、それはテレサ様からすればお父様に続き身近な人間2人目である。


 そりゃあ驚くという話なのだけど、メアリ様は地上で随一の魔術師なのであり得そうな気もする……。

 その関係性はいまだに謎なのだけど、もしかすると旦那を追いかけた可能性も……?


 ま、まあ流石にそこは推測に過ぎない。


 テレサ様がドラゴンヌイグルミを作ったように、メアリ様も天廊で強敵と出会いその人形を作ろうと考えたのだとすればなるほど分かる話だった。


 そして、そのテレサ様が真似たと言うことは相当な戦闘力があるのだろ。


 僕は警戒心全開で動きやすい体勢を取るが、そんな僕を見てエルメは笑っていた。


「ちなみに特に戦闘力とかはありませんよ天界人様」

「その巨体は飾りですか!?」

「飾りでは勿論ありません。他の連中はもう理解したかもしれねぇですねぇ」


 エルメはほくそ笑むようにテレサ様の方を見る。

 

 テレサ様はヌイグルミに影魔法を使おうとしているようだが……しかし、ヌイグルミをじっと見て固まっていた。


「テレサ様、どうしました?」

「……魔法が使えなくなった」

「はい!?」


 言われてみれば、先ほどまで元気にしていた影ドラゴンもすでにただのヌイグルミとして地面に転がっている。


 あの巨大な人形の力は魔法の無効化、もしくは恒常性の強化か!


「天界を再現する魔法『秩序魔法』です。この人形の視界の範囲は全て天界と恒常性を同じくする素晴らしい魔法ですよ!』


 いかにも天界大好きな天使らしい魔法だ。


 魔法のない世界こそが天使たちの至高なのだろうな……。


 そしてもう一つ思いついたことがある。


 ……メアリ様のあの人形も能力は魔法の無効化だったのか!


 言われてみれば通路が肉から普通のものに変化していたけれど……あれはあの人形が魔法を無効化してのかもしれない。


 そもそも、ダンジョンは魔術師が支配するものであり、その魔術師の対策にあの人形を連れていたのだとすれば納得がいく。

 

 だから僕のことを一発で魔術師じゃないと見抜けていたし、魔界の土もその無効化能力で魔界の影響を消していた……。


 色々と繋がっていく感覚に感動していると、テレサ様が僕のスカートを引っ張る。


「……クロ、お母様はあの人形をシャーロットと呼んでいた。もしかすると、名前は共通しているかもしれない」

「共通してた場合、何かあるのですか?」

「私もヌイグルミに名前を秘密に付けている。そのほうが意思がこもって強力になるから……お母様はさらに人形に文字を刻んでいたけれど、それは少し危険性があって、文字を改造されることがある」

「そんなこと可能なんですか!?」

「ゴーレムでは割と鉄板な方法」


 そう言われてみると、ゴーレムなら確かに聞いたことがある。


 確か、emath(真理)という文字がゴーレムには刻まれていて、そこからeを消すとmath(死)になるので停止するとかそういう話だ。


「シャーロットはうまく削って三文字入れれば『制御』の意味の言葉にできるはず……」


 テレサ様はとんでもないことを考えていた。


 あの人形の操作権を全て自分のものにしようとしているらしい!?


 いつだって僕の想像を超えてくるご主人様の姿に僕の心は燃えた。


 あの天使が使う天界送りの穴に少し怯えていたのだけど、そんなことを言っている場合ではなかった。


 今、魔法が誰も使えない以上、僕がやるしかない。


 というか、そもそもそのつもりでここに舞い戻って来たんだ!


「私はそもそも魔法を使いませんので影響ゼロですよ」


 意思を新たにエルメにそう告げると、彼女はまだにこやかに笑っていた。


 余裕も余裕な表情だ。


「天界人様には申し訳ありませんが……魔法なしなら私たちの技術が勝ちます」


 エルメのその言葉を聞いていたかのように、あの大量のロボたちがどこからともなく湧いてくる。


 この天廊ではあのロボをどこにでも生み出せるシステムが存在しているらしい。


 なんという驚きのセキュリティ方法。


「天界人様には普通襲い掛からないのですが……無理矢理動かさせてもらいます!」


 ついに大量のロボと戦う日が来たらしい。


 しかし、エルメは大きな誤算をしている。


 僕からしてみれば、ロボはどちらかといえば一体の方が厄介なのだ。


 何故なら、物理無効が存在している以上、どうしようもないからである。


 けれど、複数いるなら前にシロフィーの言っていたあの戦法が使える!


「ではテレサ様、少しやっつけてきます」

「……待って、クロ、髪の色がいつもより白い」

「へ?」


 自分で自分の頭を見ることは出来ないけれど、長髪なので毛先を見ることはできる。


 僕は腰まで伸びた髪を手に取ってみると……それは確かに真っ白になっていた。


 ついに完全に僕を乗っ取るつもりかシロフィー!


『天界で完全に脳の中に住むことになって、同化が加速してるんですね……自我は大丈夫だと思いますし、おそらく、いつもより強い力が出せると思いますよ!』


 まさかの強化要素らしい。


 髪が白ければ白いほどシロフィーに近く、そして強くもあるという理屈か……。


 そう、実は僕が使っているシロフィーの力はずっと不完全だったりする。


 彼女の全盛期には遠く及ばないものだったのだ。


 それを、今、かなり全盛期に近い状態まで持って行けたとすれば……これはもう負ける気がしない。


「大丈夫みたいなので行ってきます!」

「頑張ってねクロ」


 ご主人様の声を背に受けながら、白い髪をなびかせて、僕はロボに向かって突撃する。


 いつだったか竜骨生物群集で魔物の群れに突撃した時のことを思い出した。


 あの時より相手は数段強くなっているけれど、今の僕もまたあの時より結果的に強くなってしまっている。


 本当になってしまったって感じだけど……。


 そしてあの時はちぎっては投げちぎっては投げと戦ったものだった。


 そうこんな風に!


 ロボの足を掴み持ち上げると、そのまま僕は大回転してロボでロボを叩き、抉り、吹き飛ばす。


『仙人山秘技その2〝一騎当億〟』


 シロフィーは何かかっこいいことを呟いている。


 せ、仙人山秘技とは?


 いつものふざけたメイド技術はどうしたんだ?


『あれは私がメイドになった時に開発したもので、そもそも戦闘には向いてないんです。まあ、ネーミングは割とふざけたものですが』


 メイド技術は一応、その名の通り戦闘を意識したものではなかったらしい。


 そして……本当にふざけて作ってたのかよあれ!


 一応本気で言ってたのに!


『そうじゃないとメイド光線なんて生み出しませんよ』


 ごもっともな意見だ……。


 つまり、今までのものはまだメイドの業務で使うことを想定したものだけど、仙人山秘技はもう戦闘特化らしい。


 い、今までは箒で戦ってた感じなのか。


『クロが私の全盛期に近づいたことで使用可能になったんです! さあ! 蹴散らしますよ!』

 

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