天界編⑥ 読めないけど分かる
世界間を移動すること自体は魔法ではない。
そう言われると、確かにそれそのものはただの物理現象に思えてくる。
そしてあの世界の穴とも言うべきものも、魔法で生み出されたものというより、自然と生まれた現象なのではないか。
高度に発展した科学は魔法と区別がつかない、というのはSF作家の言葉だけど、同じことが今この状況にも言える気がする。
あのヘルメットこそがその魔法と区別がつかない科学であり、もっと言えばあのロボは魔法的な存在ではない……?
でも物理無効とかあったしなぁ……単純にあれは硬すぎるだけ?
とにかくヘルメットがあれば突破口は開けそうだ。
「エルメに飛ばされる直前まで手に持っていたはずなんだけど、何処に行ったのかな……」
『私もこちらに来てますし、一緒に持ってきている可能性は高いと思いますよ』
言われてみれば世界の穴は触れた者の後に続くものでさえ引きずり込む力が合ったはずで、手に持っていた物がこちらに来てないことの方がおかしく感じる。
そして、シロフィーの言葉を聞いて一つ思いついたこともあった。
どうしてこの世界にきた時、服が通常のものに戻っていたのかという疑問なのだけど、それは何となく辻褄合わせという気がするのだ。
そもそも、服だけでなく、時間も僕が異世界に、中界に行く前に戻っていた。
まるで異世界行きのことをなかったことにしたがっているような……。
そんな中で、メイド服がそばにあったのは、本当に呪いのせいなのだろうか?
そもそも天使たちはこの世界に介入できない可能性が高いと思う。
なぜならこの世界には魔法がないからだ。
魔法無しでそう易々と世界を弄ったりはできないはずだ。
つまり、まるで辻褄合わせのように世界が巻き戻ったのは天使の意思じゃなく、世界の意思、もしくはさらに上位の存在の考え……?
駄目だ、これ以上その辺を考えても結論は出そうにない。
一つ分かることは天使が介入できないのなら、メイド服同様、ヘルメットも無かったことには出来ないということ。
つまりこの部屋の中にヘルメットは存在するはず!
そうじゃなかったら終わる!
あってくれー!
『途中から推理じゃなくて願望になってますよ』
もう願望に頼るしかない状況なのを分かって欲しい。
僕は祈りつつ部屋を漁り始めた。
しかし、神に祈るには今は縁起が悪すぎる。
だから僕はテレサ様に祈った。
我らが女神である。
僕は本棚の裏からベッドの下、そしてカラーボックスをひっくり返してまでヘルメットを探し求めたけれど、なかなか見つからない。
くっ、流石にこちらに都合が良すぎる妄想だったかな……。
『というか、クロの部屋はかなり汚いですね。洗濯物が溜まっちゃってるじゃないですか』
洗濯機に出し忘れ、山のように積もっていた洗濯物を見て、チビシロフィーがぷんぷん怒る。
メイドとしては気になるのも分かるけれど、今はそれどころじゃないから!
……いや、でも、本当に積もってるな。
僕も一端のメイドなので気になってくる。
物一つくらいなら隠せそうなくらいの物量だなぁ……隠せそうなくらい?
その思考が脳裏をよぎった瞬間、僕は洗濯物を掻き分け始めていた。
まさかこんなところに……?
衣類という名の地層を必死に発掘していくと……そこには化石のように眠るヘルメットの姿が!
ほ、本当にあった!?
『きちんと片付けしないと駄目ということです!』
シロフィーのお叱りに僕は頭を垂れた。
あ、危なくだらしなさが原因で詰んでしまうところだった。
流石にそれは情けなさすぎる!
しかし、見つけたからにはこっちのものだ。
あとはこのヘルメットを起動させて世界の穴を見つけ出せば脱出成功だ。
「確かヘルメットを被りながら呪文を言えばいいんだよね」
『はい、勇者が言ってた奴です』
「よし……えっと……な、なんだっけ?」
こんな場面で僕はなんと重要なあの呪文を忘れてしまっていた。
しかも難しいものじゃなくて、普通の言葉みたいな呪文だったのに!
なんかこう……起動!みたいな。
『やれやれ、クロは本当にお馬鹿ですね。いいですか、えっと……なんか起動みたいな感じですよ!』
悲しいことに僕もシロフィーも記憶力は同レベルだった。
ど、どうしよう……だらしなさで詰みかける残念な事態の次は記憶力の悪さで詰みかける残念すぎる事態が発生してしまった。
嘆いていても仕方がないので、ヘルメットをジロジロと眺めながら何とか思い出そうとするけれど、何も思い浮かばない。
もう見るものも無くなって、ヘルメットの内部に光を当てて眺めていると……文字が書いてあることに気付いた。
そういえばテレサ様は、文字の一致でこのヘルメットが天界産だと分かったと話していた。
結局、それは天廊産だったんだけど、天廊で使われている文字って何なんだろう。
気になって文字を見ていると、それは……読めない文字だった。
けれど、分かる文字だ。
『それが天界の文字ですか? へぇー、意味分かりませんね』
いや、違うんだシロフィー。
これは……URLというんだ。
読めないけれど、読み込むことはできるものだ!
僕はパソコンの前に移動すると、ヘルメットに刻まれていたURLを打ち込み、ページを開く。
するとそこには、あり得ないほど古いレイアウトのブログがあった。
フォントがいちいちデカく、色合いも目に厳しい。
そしてその中心に、虹色に輝く文字でブログタイトルがデカデカとこう書かれていた。
〝天使ちゃんの開発ブ♡ロ♡グ〟
だ、ダサい!
マウスを動かすと後からキラキラしたやつが付いてくるし!
何の意味があるんだよこれ!
『クロ、なんですこの輝く板は』
シロフィーはパソコンが分からないために、過去からタイムスリップした人みたいになっていた。
実際、中界はそんなに科学技術が発展してなかったし、まさに過去から来た人みたいなものか。
ただ細かく説明するのは面倒なので無視することにして、僕はブログの調査を始める。
大抵くだらない日常の恨みつらみが書いてあって、相当なストレスが見受けられた。
というか、明らかに地上で暮らしている人のブログだった。
天廊ではなく地上にいる天使もいるということか。
更新頻度はさほど高くなく、年に一二回程度に収まっていた。
そして、ある年に入った時、驚きの文章を僕は見つけてしまう
そこにはこう書いてあった。
〝娘ちゃん生まれる♡ テレサと名付けました!〟
ここまできておかしな話ですがタイトル変えました!
とは言っても良いタイトルがまるで思いつかなかったので、良いのが合ったら是非教えてくださいませ!




