天界編③ 白い世界
気がつくと真っ白な世界に僕はいた。
どこまでも続く白い空間は果ての果てまで白く、地平線のその先、ずっとずっと先まで何の穢れもないように見えた。
い、いかにも天界って感じだ!
「無事ついたみたい」
「あっ、テレサ様!」
横にはテレサ様もいて、興味深そうに周囲を見渡している。
エルパカとツルファは何処に行ったのかと、僕も周囲を見渡していると、急に目の前で扉が出現する。
「おお! やっぱりかなりコントロールが効きますわ!!!!」
「そのようだね。これで逃走は完璧というわけだ」
扉の中から出てきたのはエルパカとツルファで、どうやら扉魔法の試運転をしていたらしい。
こ、この魔法って、扉と僕の位置が同じだったらどうなっていたんだろう……。
ちょっと恐ろしいことを考えてしまった。
それにしても、まさか本当にエルパカの魔法がしっかり使えるようになる日がくるなんて。
いや、元々魔界ではきちんと使えていたはずなので、中界での彼女がイレギュラーなんだけど。
そのはずなんだけど……謎の違和感がある。
エルパカにはポンコツでいてほしい謎の願望が!
「しかし、おかしいな……鎧共がまるでいない」
「もういるはずなんですか!?」
「うん、地平線を埋め尽くすくらいいるはずなんだけど……」
「ヤバすぎませんか?」
よくそんな場所にもう一回来ようと思えたなこの人。
勇者だからって勇気ありすぎだよ。
「違う場所から入ったからまた別の場所になったとか?」
「いや、どこから入ろうと結局、同じような場所にでるはずなんだけど……こんなのは僕も経験がないな」
「平和な分にはまあ良いのでは?」
ツルファはやけにロボがいないことを気にしているけれど、僕としては無駄な争いを避けられるならそれにこしたことはない。
平和最高! ラブアンドダブルピース!
「魔界的には、平和とは争いと争いの中間という意味ですわ!!!」
「ものの見方が露悪的すぎませんかね」
魔界は平和とは程遠い世界のようだった、
僕的には天界よりもっと行きたくないかもしれない。
「とりあえず進むとしよう」
「はい……いや、あの、進むといってもどちらに?」
文字通り何もない世界なので、何処に進めばいいかも分からない。
目印になるものがないと、ここまで不安になるものか。
「僕の場合、適当に歩けば必ずイベントに遭遇するようになっている」
「勇者の運命操作すごすぎますね」
ただ歩いているだけで退屈とは縁遠い人生を歩めそうである。
それはそれで嫌だけどな……。
ツルファの弁に従って、僕らは適当にその辺を歩き始めた。
真っ直ぐに真っ直ぐに進んでいくけれど、やはり世界は白く何もないままで、進展は見えてこない。
やけに静かというか、何か変な気がする……。
そうだ! シロフィーがいるか確認していなかった!
もういるのが当たり前とばかり思っていたのだけど、ずっとその姿さえ僕は天界に来てから見かけていない。
し、シロフィー! いないのかー!
心中で呼びかけるも、応えはない。
ど、どういうことだ……?
混乱していると、何処からともなく声が聞こえてきた。
しかし、それはシロフィーのものではなく、子供の声だった。
「えっ、誰か来てやがります? というか天神号はなにしとんですか!?」
慌てたような声は、僕らの姿を見て驚いているようだった。
それに、天神号とは一体何のことなのか……。
「大きな鎧のことなら一人も見かけてないけど?」
ツルファは堂々と謎の声に応える。
さ、流石勇者様としか言えない場面だ。
こんなわけも分からない世界の意味も分からない声に対しても、まるで恐れていない。
しかも当たり前のように天神号の正体に当たりをつけているし。
「はぁー? そんな馬鹿なことあるわけねぇですが……」
「でも事実」
テレサ様も勇者に負けず劣らず平常心を貫いている。
むしろエルパカも楽しそうにしているので、やはりこの場で弱気なのは僕一人ということか。
し、シロフィーがいないせいでかなり不安になっている自分がいる!
本当に彼女はどうしたというのだろうか。
「ちょっと待ってろです。この目で確認しやがってやりますから」
敬語なのか乱暴なのかそういうキャラなのか、かなり特徴的な話し方の謎の存在は、まるでちょっとコンビニに行くくらいのノリで、僕らの前に現れる。
それは赤い髪をした尖った耳の少女だった。
背中には羽がついていて、まさに天使と言った容貌だ。
そして、その耳と髪の特徴はテレサ様と同じくしている。
ということは……天界人か!?
「マジでいねぇです!? ど、どうなって……って、ああ、了解しました。天界人様が同行していたのですね」
荒っぽい口調の彼女は、僕らの姿を見るや否や、急に態度を変え、スムーズな敬語へと変化した。
天界人が同行していた……というのは、つまり、天界人がいたからロボも出てこなかったということ?
そしてその天界人とは……、
「天界人様は敵ではありませんからね。しかし、その他はお帰りねがいてぇんですがねぇ」
後半は露骨にガラが悪くなっていた。
天界人とその他に対して態度が露骨に違いすぎるなこの子!
そして恐らく、僕らの中にいる天界人というのはテレサ様のことを言っているのだろう。
テレサ様は天界と中界のハーフだという話だ。
半分ではあるけれど天界人と認識されていても不思議ではない。
だから、敵と認識されず、特に邪魔も入らずここまでこれてしまったというわけか。
しかし、目の前には新たな門番らしき存在が現れてしまった。
「テレサ様、あの、交渉してもらっても」
「分かった」
とりあえず、目の前の彼女から丁重に扱われているテレサ様に交渉してもらうことにする。
僕らではきっと話にならないだろう。
上手くいけば手下とかしもべとかで、無理なく同行できないだろうか。
「私はテレサ・ミラー、よろしく」
「はぁ? なんでてめぇとよろしくしなきゃならねぇんですか?」
「え?」
荒っぽい口調のままに、テレサ様の握手を謎の存在は拒否する。
あれ、テレサ様に対して敬語を使っていたのではなかったのか?
とすると一体、誰に……?
もしやツルファが天界人だったりする!?
勇者だし全然あり得そうだけど、彼、いやさ彼女は前回ロボに襲われているはずだから違う。
なら、エルパカか!?
うーん、天界と真逆の魔界の存在なのに、そ、そんなわけないよな……。
実は天界も魔界も似たようなものという話ならちょっと面白いけれど。
でも、流石にそれは変か……仲が悪いという話だったはず。
では、一体誰が……?
「天界人様、ご用件は直接お願い致します」
そう言って彼女が見つめるのは……僕だった。
「えっ!? あっ、わ、私ですか!?」
「はい、天界人様。ようこそおいでくださいました」




