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天界編② 世界の穴

「えっ、天界ですの! 行きますわ行きますわ!!!!」


 ようやく見つけたエルパカはロザ様と歓談中だった。


 また魔界の話で盛り上がっていたのだろうか。


 しかし、今から行くのはその真逆の場所である。


「天界か……僕も結構気になる場所だけど、流石に行きたくはならないな……」

「いや、それが普通だと思いますよロザ様」


 天界はどう考えても危険な場所な上に、謎な場所でもある。


 要するにその危険度も未知数。


 そんな場所に行きたがるのは、よほどの勇気の持ち主か、探究心が強いか、あるいは馬鹿かだ。


「エルパカを連れて行くということは逃走まで考えてのことだよな? やっぱり、難易度は高そうなのか?」

「極高です。もうヤバいやつがうじゃうじゃしているらしくて」

「なかなかおぞましいな……なら、危なくなったらすぐに逃げるんだぞ」


 ロザ様は親切にそう言ってくれるけれど、なんかRPGでアドバイスをくれる人みたいな会話だな……。


 けれどその言葉はその通りで、何度でも挑むつもりなのだから、しっかり帰還することが大事だろう。


 なんなら湧き出てくるロボ相手にレベル上げの日々になる可能性もあるな……。


「わたくしがいれば大丈夫ですわ!!! さあ! 行きますわよご主人様!!!!」

「私として貴女が一番不安なんですがね」


 自信満々なエルパカだけれど、彼女の魔法は不安定なところがあるので、どうにも信頼できない。


 天界ではマシになるはずだけれど、果たして大丈夫なのかな……。



 ★



「うえっ!? な、なんかめちゃくちゃ可愛い人がいますわよ!?」


 研究室に戻りツルファの姿を見たエルパカは珍しく驚愕していた。


 確かにツルファは元々性別を超越した美しい容姿をしていたところを、そこから女性になりフリッフリな可愛い服に身を包むことで可愛さへの変革を果たしている。


 その可愛さはエルパカの目から見ても相当な物だったらしい。


「そのカラフルな髪色とツノは魔界人じゃないか! すまないね、可愛すぎて!」

「い、いえ、まだ私の方が可愛いですわよ!!!!」


 エルパカとツルファの間で熾烈な可愛い争いが始まりつつある。


 元男性とは思えないほど自然に可愛さを主張しているツルファのメンタルはかなりすごいのかもしれないと、女装男子としては思った。


「それじゃあ穴を探すとしようか」


 謎の勝利感を醸し出しながらツルファがエルパカを横目に説明を始める。


 エルパカも何故か悔しそうにしていた。


 い、いや、本当に何故?


 何らかの可愛いバトルが水面下で行われ決着がついたのか!?


「探すと言ってもそんな何処にでもあるような物なんですか?」

「そうだなぁ……人間の体を世界とするとホクロくらいの数あるかな」

「微妙な例えですね!」


 それなりにレアと言えるのかな……?


 少なくとも例えば僕の手には一個もないわけだし。


「本来なら探すだけでも一苦労だけど、今回は竜の墓場で見たんでしょ? だったらそこを起点に探せばいい」

「あっ、なるほどー」


 当たり前だけれど、闇雲に探そうという話ではなかったようだ。


 ロボがその穴を通って移動するのならば、当然発見される位置もその穴の近くと推定できるのは道理だ。


 賢い人はちゃんと成功率の高い方法というものを知っているから賢いんだなぁ。


 ツルファはもうなんか馬鹿感もすごいので紙一重な感じあるけども。


「偶然近くに穴がある可能性もなくないから、鎧は被っていくべき」

「それもそうだね……じゃあ、クロフィーさん付けるかい?」

「わ、私ですか!?」


 急に話を振られるもので焦ってしまう。


 そもそも、めちゃくちゃ怪しげな物体なので、被ることに激しい抵抗感もある。


 一生外れなくなったりしそう!


『でもこの中で最も視力に優れているのは私とクロでしょうからねぇ』


 うっ、そう言われたら確かに。


 それにテレサ様にこんな怪しいものを被せるわけにもいかない。


 どうやら僕がやるしかないようだ。


「では被ることにしますが……これ本当に大丈夫なんですよね?」

「大丈夫大丈夫、恐らくきっと大丈夫」

「駄目そうですね……」


 ツルファも笑いながら言っているので、冗談だとは思うけれど、不安は煽られる。


 じょ、冗談だよね?


「はい被って……そして呪文を唱える『世界合わせ視認モードオン!』」

「呪文がすっごい呪文っぽくないんですが!?」


 しかし効果は本物だった。


 僕の頭部に装着されたヘルメットのようなロボの頭部、そこから見える世界は急激に白っぽく染まって行く。


 そして黒い線のようなものが空間に見え始めてきた。


「な、何か黒いものが見えるのですが」

「ああ、それは世界の綻びで……えっ!? 黒いものが見える!?」

「は、はい、線みたいなものが」

「めちゃくちゃ運がいいじゃないか! 近くに世界の穴があるかもしれないよ」

「ええええええ!?」


 何とまさかの奇跡!


 そんな気軽に見つかって貰っても困るんだけど!?


 テレサ様なんて山に行く準備を横で始めていて、もうモコモコな服に身を包んでいるというのに!


「近い分には何も困らない。グッジョブ」

「そう言いつつ、どこか不満げでは……?」

「山登りもしたかった……」

「激烈に運が良くて申し訳ありません!」


 運が良すぎたためご主人様の楽しみを奪ってしまった!


 いや、運が良いのはこの場合別に僕に限った話じゃないんだけどね!?


 むしろこの屋敷の立地が奇跡的というべきか。


「黒い線の先に穴があるはずなんだけど、何処に続いてるかな?」

「えっと、外ですかね」


 宙に浮かぶ黒い線は屋敷の外へと伸びていた。


 屋敷の中にあったらあったで、なんか面倒くさいことになりそうなんで、ちょっと僕は安心した。


「それでは行きますわよー!!!!!」

「エルパカが先に行っても場所分からないでしょうに」


 何故か部屋から飛び出して行ったエルパカを追いかける形で僕らは屋敷の外に出る。


 この線は果たしてどこに繋がっているのか。





 辿り着いたのは初めてエルパカと出会った、あの大地ごと世界移動してきたというか森の中でも異質な場所だった。


 こ、ここかー!


 あの時エルパカは逆さまになって地中に埋まってたんだよな。


 それは大扉魔法のせいなのだけれど。


「大扉魔法の影響があったんですかね?」


 世界を移動するという意味では、世界に存在するという穴も、大扉魔法も同じものに思える。


 その場所が被っているというのは、偶然にしては出来すぎている気がした。


「むしろ逆でここに穴があるから大扉魔法を使った時にここに出たのかも」

「あっ、そういうことですか」


 大扉魔法は移動先が世界単位であり細かい融通は効かない。


 そしてその移動先は、穴の有無に左右されいるのかもしれなかった。


 その穴というのは、僕の目の前に今、存在している。


 真っ黒なその穴は圧倒的な存在感で、虚空にぽっかりと鎮座し、まるでこちらを威圧しているようにすら見えた。


 けれど、これは僕にしか見えていないわけで……。


「こんなものがあったのに気付かなかったとは驚きです」

「人の知覚で感じ取れるものではないからね。もっと言えば、そもそもその鎧で見えているように見せているだけで、実際はそんな見た目でもないのかもしれない。あくまで想像図ですって感じで」


 そう聞くとまるでこのヘルメットがAR技術のような仮想現実的なものに思えてくる。


 そして今からこの穴に入っていくと思うと、気がとんでもなく滅入ってくるなぁ。


「そのヘルメットをしたまま穴に触れると、吸い込まれていく。僕たちはその後を追えば同じく余波で吸われるってわけだ」

「もうなんか侵入っていうか、捕食されるような気持ちになりますね」


 話を聞けば聞くほど恐ろしくなっていく。


 小心者の権化たる僕がやや気後れしていると、テレサ様が僕の手を掴んできた。


「これで離れないはず。出発進行」


 テレサ様はいつでも冷静かつ冒険欲に満ち溢れ、そして堂々としている。


 そんなご主人様の横で怯えていてはメイド失格だ!


 僕は覚悟を決めて穴に、恐る恐る触れた。


 すると、視界は真っ黒に変化して……。

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