伝説のメイド現る編⑤ メイドと刀っていいよね
ツバの広いお決まりな魔女の帽子を被り、背丈ほどの杖を携えた背の高い金髪の女だった。
出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。
そんなグラマラスな体形は大変僕好みではあるのだが、問題は彼女の背後だった。
真っ白な羽を生やし、顔に五芒星が刻まれた巨躯なる人形が、その四肢を繋ぐ球体関節をギシギシと軋ませながら、魔術師の背後を追従し、闊歩している。
本来、この廊下にこんな化け物人形が通れる程の高さはない。
人形に合わせて、空間の方が歪んでいるのだ。
魔術師というのは、ここまで非常識な存在なのか⁉︎
驚愕する僕を視認した魔術師は、大きな杖の先に付けられた天球をこちらに向ける。
嫌な予感がする。
『クロ!刀を出して下さい!』
部屋を出るときに持たされた細長い袋を指差すシロフィーに急かされながら、慌てて袋の紐を解くと、そこには本当に刀が入っていた。
メイドに刀。
異色のはずなのに、謎の親和性がある。
「シャーロット、お化けメイドを駆除しちゃいなさい」
シャーロットと呼ばれた巨躯の人形は、魔術師の声を聞き入れると、その鈍重そうな見た目からは考えられない速度で、疾走してくる。
巨大な人形が超綺麗なフォームでこちらに走ってきている!
怖い!
結構なホラーだよこれ!
しかし、何故だろう。
速いはずなのに、僕にはそれが、不思議と遅く見えた。
集中すると、更にゆっくりになるような……?
僕に向かって大きな手を伸ばし、掴みかかってきた人形の腕を、僕は適当に刀を振って、弾こうとした。
しかし、うまく弾けなかった。
弾くのではなく、もう、そのままストンと、切れてしまったのだ。
まるで感触がなかったせいで、僕は刀が空を斬ったのだと勘違いして、やってしまったー!ゴルフ初心者さんかよ!なんて思っていたのに、人形の、シャーロットの腕は廊下に重い音を響かせて、落下していた。
『出ましたね。メイド技術その7〝神速〟が』
あからさまにメイドと関係ない!
『メイドは素早い動きが求められますからね……あっ、切れ味は全面的に刀のおかげです。メイド関係ないです』
メイド関係なかった!
もう気付けば、あらゆる事象がメイドのおかげだと思ってしまう脳になってしまった。
これがメイド教育の弊害である。
教育はやはり一つの洗脳なのかもしれない。
「メイドって万能じゃなかったんだね」
『いや、そりゃそうですよ。何言ってるんですか非常識過ぎますよ』
メイド光線とか言ってるやつが常識を語らないで欲しい。
とにかく、戦闘には苦労しないらしく、試しにその巨大な人形を軽く蹴ってみると、思いがけない力によって、ピンボールのように勢いよく魔術師の方まで吹っ飛んでいった。
『それはメイド技術その11の〝剛力〟なのでメイド関係ありますね!』
「ありますね!じゃないんだよ。ありますねじゃ」
やっぱり、ほぼ万能じゃん。
ドン引きする僕をよそに、魔術師さんは飛んできた人形を空中で受け止めると(受け止める⁉︎)、再びこちらへ杖を向ける。
が、暫くこちらをじっと見ると、彼女は驚いたように口を開いた。
「あの、貴女もしかして人間?魔術師の方?」
先程までの僕の行動に人間らしいものは皆無だったと思うが、魔術師から見ると人間に見えるらしい。
どうやらこちらをモンスターと勘違いしていたようだ。
実際、ここのメイドさんはほぼほぼモンスターなので、彼女の判断は正しい。
ともかく、声をかけられたので返答しなくては。
コミュ障特有の焦りが!早く返答しないと、という謎の焦りが!
「えっと、こ、この屋敷でメイド見習いをやっているクロフィーという者です!魔術師ではない……と思います!多分!きっと!恐らく!」
「じゃあ、武芸者かスキルホルダーの方なのですねぇ。驚きましたよ。シャーロットがここまで遊ばれちゃうなんて」
彼女は目を細めニコニコと笑いながら、こちらに話しかけてくる。
むしろ、それがデフォルトの表情なのかもしれない。俗にいう糸目だ。
というか、この世界の武芸者とスキルホルダー?はこれくらい出来て普通なのだろうか……。
『勿論無理ですよ。私は、超、超、超、強いんです。恐らくこの世界で三本の指には入ると思いますね』
どんなメイドだよ。
シロフィーの話を聞いてると頭がおかしくなるので、メイドは置いておいて話を続ける。
「あの!申し訳ありませんが、魔術師様のご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか」
魔術師はにこやかな表情のままに少し困った様子で、僕の方を見つめる。
なんというか、先ほどから見ていると、彼女からは人の良さを感じる。
ほんわかとしたのんびりとした雰囲気と、どこか申し訳なさそうなところが、そこに拍車をかけていた。
「急な来訪、失礼しました。私はメアリ・ミラーという者です。一応、この地域の領主をやっているのですが」
『「領主⁉︎」』