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勇者に会いに行こう編⑨ 死体の魔女フラーン

 

その後も死体の魔女の領域からは次々と魔獣の死体が現れては僕らに襲いかかってきたのだけれど、それら全てをクスクスさんが性別魔法で一撃で葬り去っていく。


 もはや無双とすら言って良い活躍具合だ。


「こんな時くらいしか役に立たないがのう」

「そんなことはない。性別魔法は多くの可能性を秘めている」


 謙遜というよりは本気で言っているであろうクスクスさんの言葉にテレサ様はさっと反論する。


 魔法に関しては一家言あるテレサ様である。


「私としてはオスを性別魔法でメスにした後、更に性別魔法でオスにした場合、それは最初のオスとは同一でない可能性があるのではないかと思っている。オリジナルの女体化の男体化がオリジナルとイコールとは思えない」

「ほう、面白いところに気がつくのう。それは確かにそのとおりで、やや違いが出る」

「と言うことはこれをもっともっと繰り返せば、性別魔法によってオリジナルとは全く異なる存在を作ることが可能なはず」

「実験したことはあったんじゃが、それには大きな問題があってのう。そもそも性別魔法で変換できる回数には――」


 かなり専門的な話に突入してしまい、僕にはちんぷんかんぷんだ。


 とにかく、この場ではクスクスさんが最強に対抗できる強力なジョーカーであることは間違いない。


 このまますんなりいけば、確かに余裕で死体の魔女を倒せそうだけれど……。

 

 そう簡単にいくはずはなかった。


 魔獣たちに紛れて現れる人間の死体は、クスクスさんの魔法ではどうしようもないからだ。


「人間には使えんからのう。それさえできればこの領域は本当に完封できるんじゃが」

「いずれ必ず出来るようになる。ここは私たちに任せて」

「そうです! こう見えても戦闘においては心配はありません!」

「主の主だけでも余裕なくらいだ」


 僕らはそれぞれで協力し、死体の魔女フラーンに操られた死体をバッタバッタと倒していく。


 もはやこの程度の戦闘で詰まることはない。


 気がつけば、僕らは謎の小さな古屋まで辿り着いていた。


「恐らくここが最深部」

「ということはここにフラーンが?」


 古ぼけた古屋の周囲にはまるで人の気配はないけれど、本当にフラーンはここにいるのだろうか。


 そう、この場にあるのは古屋の近くで倒れている少女の死体だけ……。


「フラーン、その猿芝居はもう分かってるからさっさと起き上がった方が良いと思うがのう」


 クスクスはその少女の死体に向かって話し始める。


 すると、死体は本当に、ゆっくりと起き上がり、僕らの方を見るではないか。


 少女の……青色の髪の死体の少女は、腹部に穴が空き、片目は喪失している。


 しかし、生きていた。


「あらぁ、クスクスがいたのねぇ」


 甲高いその声はゆったりとしている。


 僕としてはなんで動いているかが気になりすぎるのだけど!


「フラーンは随分前に死んだ……けれど、自分自身に死体魔法をかけることで死を回避することに成功した。まさしく、天才」

「え、えええええ!? じ、自分の死体を自分で操っているんですか!?」


 もはや生とはなんなのか、死とはなんなのかと考えさせられるほどの出来事だけれど、確かにそんな無茶苦茶が出来るのなら、彼女は天才魔術師なのかもしれない。


 今まで聞いたどんな魔法よりも、非常識さが抜きん出ている。


「やろーと思えばできるのよぉ、魔法ってそういうものだしさぁ。あとー、わたしぃ、天才だからさぁ」

「本当に才能だけは凄い……けど、やんちゃしすぎ」

「あらぁ……そういえばあなた誰ぇ? 新顔の魔術師?」


 フラーンは独特のフラフラした動きのまま、首を捻る。


 本当に首が捻じ切れそうだと、僕は不安にさせられた。


「メアリ・ミラーの娘にして魔術師のテレサ・ミラー」

「わぁお、メアリの娘ぇ? うっそー、ヤバァい」


 まるで驚いているようには見えないのんびりとした口調で、フラーンは大袈裟に両手を広げてみせる。


 その姿には余裕しかない。


「クスクスだけなら死体ちゃんたちでなんとかなったけどぉ、そうぅ、護衛もつけたのねぇ。はぁー、面倒ぉ」

「とりあえず、降参しないならこのまま倒す」

「うーん、それは無理でしょぉ。だってぇ、私には最強の死体ちゃんがついてるんだもん」


 そうだ、彼女は運命を操るという謎の死体を保持している。

 

 その余裕綽々な態度は、その死体への自信から来るものなのだろう。


 テレサ様は対策を用意していると、言っていたけれど果たして。


「かもーん、ツッチー」


 フラーンのその声に反応して、古屋の扉が開く。


 そして中から現れたのは……絶世の美少年だった。


 透き通るような肌に、赤色の髪。


 そしてその手には立派な剣が握られていた。


「なっ、なんじゃと!?」


 その美少年を見て驚いた声を上げたのは、なんとクスクスさんだった。


 これまで常に飄々としていたあの老婆を驚かせるとは。


 いや、待てよ。


 ここ最近で美少年という話に聞き覚えがある。


 それは女装して女人の村に忍びこんだと言う話で……。


 その苦労してそうな人物はそう。


「驚いたな主、あれは勇者だ」

「……やはりそうですか。というか、ベム子、勇者を見たことがあったんですね」


 ベム子の口から発せられたその存在の名前を僕は知っている。

 

 大昔に存在していたという勇者。


 彼がそうだと言うのか。


 そして、考えてみればベム子が勇者を知っているのも当然だった。


 何故なら彼女はシロフィーと幼馴染の関係にあるのだから、同じ時代を生きていたはずだ。


『……残念ながら本物のようですね。クロ、あれは勇者と呼ばれた男……名前をツルファと言います』


 少し冷たいシロフィーの言葉で完全に確定したようだ。


 目の前の美少年の名前はツルファ。


 一週間前に、あんなにもミャカエルが会いたがっていた、あの勇者である。 


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