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勇者に会いに行こう編⑦ クスクスという魔術師


 雌雄屋のクスクスさんは定住地を持たないらしく、町を旅して行商しつつ暮らしているらしい。


 そんなクスクスさんを追うのは普通に考えれば大変なのだけれど、我らがオセロ屋敷にはこういった捜査に優れた人材がいた。


 ベム子である。


 元々、エルパカに対する諜報としてこの世界に来た人なので、当然ながら人探しにも優れている。


 そうでなければ、この広い世界の中から、あんなにすぐにエルパカの居場所を特定できたりはしない。


 まあ、その当のエルパカに潜伏がバレてしまったのだけれど。


「私の調べによるとこの田舎町に雌雄屋はいるはずだ」

「本当に優秀ですね貴女は」


 驚くほど即座に調べ上げたベム子と共に、テレサ様を連れてやってきたのは麗かな風の吹く畑だらけの田舎町だった。


 性別魔法はその性質上、家畜の多い場所でこそ有用なわけで、こういう場所にいるのは自然と言える。


「この程度は仕事のうちにも入らない。もっと、極寒の氷河に潜めくらい言われないとな」

「仕事意識が強すぎてドMみたいになってますよ」


 ベム子は有能だけどやはりどこか馬鹿だった。


 魔界ではそれくらい普通だったのかなぁ。


「今は丘の上にいるはずだ。ついて来てくれ」


 ベム子に先導されながらなだらかな丘を登っていると、風車のすぐ側に腰掛けて空を見ている老婆の姿があった。


 大きな魔女帽子をかぶっているその姿は、一週間ほど前にみたクスクスさんのもので相違ない。


「おや、そこにいるのはいつぞやのメイドかのう」


 勘に優れているのか、クスクスさんはすぐに僕らの存在に反応する。


 痩せてかれても魔術師は魔術師。


 油断ならない存在だ。

 

「お久しぶり……と言うほど日が離れてはいませんが、今日はうちのご主人様が会いたいと言うので連れてきました」

「どうやら魔術師のようじゃな……若い魔術師は目に毒じゃわい」


 一目でテレサ様を魔術師と見抜くのは慧眼と言いたいところだけれど……そもそもテレサ様はかなり怪しい格好をしているので、まあ、すぐ分かるよね。


「領主の娘の魔術師、テレサ・ミラー」

「なんとそんな大物がアタシになんのようじゃ」


 テレサ様は自分の立場を明らかにしてから、クスクスさんと話を始める。


 かなり本気の態度だ。


「最近、死体の魔女が活動を活発にしているのは知っている?」

「ああ、あのど変態魔女まだ生きておったのか……もしや、アタシは疑われておるんかのう?」

「そこそこ」

「うーむ、関係ないと言いたいところじゃが大昔に一度だけ会ったことがあるのう。奴のお気に入りの魔獣をオスにしてやったことはあった」


 あくまで疑いすぎな程に過度な疑いだったのだけれど、一応は関係があったらしい。


 死体の魔女側からすれば、性別魔法の持ち主に接触してくるのは、その性質上当然か。


 テレサ様も昨日今日の話ではなく、それくらい長いスパンを考えてクスクスさんに会いに来たというわけか。


「じゃあ、これから死体の魔女を倒しにいくから、罪滅ぼしでついてきて」

「老人になんという無茶を……仕方ないのう。オーケーじゃ」


 クスクスさんは嫌々ながらも、お茶目にも指で丸を作りつつ頬に二つ置いて了承した。


 なんと物分かりの良い。


 横から見ていると、相当な無茶振りだと思ったけれど。


「そもそも領主の娘に言われたんじゃ拒否権がないのう」

「流石、物分かりが良くて助かる」


 年の功というべきか、クスクスさんはこの場における身の振り方というのをよく理解して了承したようだった。


 というか、えっ、これから死体の魔女のところにいくの!?


 死体のフルパワー使えるんでしょ!?


 オスしか操れないとはいえほとんど最強な気がするんだけど!?


「言っておくが死体の魔女はめちゃくちゃ強いぞ。なにせ、長年強い魔物の死体を集めまくっておるからのう」

「竜とかある?」

「当たり前じゃ」

「あるんですか!?」


 当たり前のように当たり前とクスクスさんはいうけれど、それはどう考えても当たり前じゃない。


 竜骨生物群集においては死体と化してなお、世界を改変し、周囲の魔物を強化していたあの竜を操れる存在がいるだなんて。


 魔法は本当になんでもありだ。


「楽しみになってきた。クロ、頑張ろう」

「いやいやいやいや! 今までの全てを含めて一番危険な戦いになりかねませんよ!?」

「竜に限った話じゃなく、もっと恐ろしいものも使役しとるんじゃぞ」

「更にヤバいじゃないですかー!」


 死体の魔女は僕の想像の五千倍は危険な存在だった。

 

 オスの死体であれば生前の力を残したままに操ることができるその魔法は、魔獣に使った時に最大の効果を発揮するということか。


 しかも、その数に限りはなさそうだし……。


 質も数も伴った最強の敵だ。


「私の影魔法も最終的にはそのレベルまで到達したい。そのためにも、死体の魔女を倒そう」

「た、確かにそんなやつを倒せば、テレサ様も自信がついて魔法が更に強くなりそうですね」

「若い魔女は努力熱心じゃのう。眩しい眩しい」


 クスクスさんは目を細めてからかうように笑ってみせる。


 僕は苦笑いなのだけれど。


 そういえば倒すという行為は、魔術師同士においては大きな意味を持つ。


 敗北感はそのまま魔法の制限になるし、時には支配権も奪われる。


 強い魔術師を倒し続けるというのは、結構、魔術師的には効率的な手段なのかもしれない。


「まあ、でも、余裕だと思う」

「な、何を根拠に!?」


 テレサ様はずっと余裕のある雰囲気を出しているけれど、その言葉は余裕を通りこして慢心すら感じさせる発言だった。


 竜も魔獣も、なんでも操れる存在を相手に、一体何が余裕なのか。


 テレサ様のいうことだから根拠はあるのだろうけれど、僕には全く分からない。


「何故なら……クスクスがいるから」


 テレサ様はビシッとクスクスさんを指差し、胸を張って見せる。


「重い期待じゃなぁ……まあ、頑張るがのう」


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