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勇者に会いに行こう編⑥ 恐ろしき魔法


「ゆ、勇者様は女の子になりたかったんですか!?」


 あまりにも気になる話題だったので、食い気味に僕は老婆に迫る。


 己の身に降りかかる女体化は恐ろしいが、他人の身に降りかかるのならそれは野次馬的な楽しさがある娯楽だ。


『私の気持ちが分かってくれたようですね』


 シロフィーは、ふっふっふと笑いながら僕を見る。


 うっ、なるほど側から見るとただの面白エピソードということか……!


「うむ、なんでも女しか入れないという女人の村に入る予定があったようじゃ」

「あ、そういうやつですか」


 思っていた事情とは違ったようだ。


 勇者といえば村を行き交い魔王を目指すのが定番だけど、その道中がすんなり行かないのもまた定番。


 昔にいたという勇者も結構苦労していたのかな。


「結局、勇者が女装して行ったんじゃよ」

「ゴリ押しですね!?」

「まあ、なんとかなったんじゃが」

「なったんですか!?」

「性別の枠を外したような美少年じゃったからな」


 た、確かにブサイクな勇者というのは何か嫌なんだけれど、まさか性別を超越したレベルの美少年だったとは。


 羨ましい……。


『いや、貴女もそんな感じでしょうに』


 シロフィーはそう言うけれど、僕のはメイド技術によって色々と誤魔化しているのと、性別の枠を外したというより、単純に女顔なだけである。


 インパクト絶大な白黒の髪で本質を惑わしているというのもあるけれど。


「勇者は本当に面白いやつでな、一度女になってみたいものだから、人間に魔法を使えるようになったら呼んでくれと言っておったわ。まあ、あれからどれくらいの時が過ぎたかも忘れてしもうたが、人間に使える気配はないのう」

「ま、まあ、無理に人間に使わなくてもいいんじゃないですかね!」


 僕は必死に性別魔法の無進化を願う。


 お願いだから人間相手には使わないようになって欲しい……!


 後生だから!


『必死すぎてなかなか面白いですよ、クロ!』


 僕の相棒は徹底して鬼だった。


 鬼に金棒、虎に翼、メイドに女体化。


 どれも涙が出るほど恐ろしいという意味である。


「まあ、この年で無理なんじゃから、もう一生無理じゃろうな。アタシの想像力は凝り固まっておる」

「そ、そういうものなんですか」

「年は食えば食うほど夢見れなくなるもんじゃよ」


 そう言って遠い目をする老婆の、クスクスの目は、年輪のように深い皺に囲まれている。

 

 魔術師が大抵若い容姿をしているのは、年齢という枷によって想像力を衰えさせないためなのかもしれない。


 流れゆく時という厳しい現実に負けないように。


 逆に言えば、クスクスは若いままでいられなかったのだろうか?


「魔術師はだから若い姿の人が多いんですか?」

「まあ、そういうことじゃな。アタシはババアの時に魔術師なって、それからずっとババアじゃからなこんな目にあっておる」

『クスクスは昔っからずっとババアですからね。子供の頃にババアだった人って大人になっても変わらずババアなもんで驚きますけど、あれの強化版みたいな人ですよ』


 それは強化版扱いでいいの!?


 しかし、長い長い時を老婆のままで生きるというのはなかなか現実問題つらそうではある。


 苦労されているんだなぁ。


「それじゃあアタシは帰るが、久々に楽しかったぞ」

「あっ、はい! 面白い話を聞かせて頂きありがとうございました」


 僕が頭を下げるとクスクスさんは町の人たちにも手を振って去っていった。


 クスクスさんの話は、本当に面白いものばかりだった。


 勇者もかなり楽しい人物だったようだし、魔術師のあり方についても考えさせられた。


 しかし、それでは満足しない者が……いや、猫が一匹存在している。


「そんで勇者は何処にいるんみゃ!? 早くぶっ飛ばせろみゃ!」


 その後、ミャカエルに勇者はここにはいないと言うのを説明するのに大変な時間が掛かった。


 買い出しを効率化させるためのミャカエル起用だったのだけれど、結局、逆効果もいいところで、大失敗だったかもしれない。

 

 ま、まあ? これから先のことも考えればトータルで良しということになるかもしれないし……。


 自分に言い訳しながらその日の大変な買い出しは終了した。


 その時の僕は想像もしていなかった。


 まさか勇者に本当に会いにいくことになるとは。





 あの買い出しの日から一週間ほどだったある日、僕はテレサ様と一緒に森を散歩していた。


 テレサ様はたまにびっくりするくらい早起きすることがあって、そういう時は僕を連れて、屋敷の近くをのどかに歩くことがあった。


 うちのご主人様は頭が良すぎてその目的は謎に包まれていることが多いのだけれど、散歩に関して言えば本当にただの気晴らしなのだろうと思う。


「そういえば、この間買ってきてもらった〝爆薬令嬢〟面白かった」

「それは大変良かった……あっ、そういえばあの日、面白い人にあったんですよ」


 僕はテレサ様の言葉で雌雄屋との、クスクスさんとの一幕を思い出し、テレサ様に語った。


 勿論、僕が性別魔法を超恐怖したことを隠して話したけども!


 この恥は墓まで持っていく所存だ。


『私が知ってるんですが』


 シロフィーはもう墓の中みたいなものだし……。


「雌雄屋、来てたんだ」

「やはりご存知でしたか」

「名前だけだけど……あと、私も今のクロの話で思い出したことがある」

「おや、なんでしょうか?」


 僕と同じように、テレサ様は何かを思い出したらしく、ポケットから手紙のようなものを取り出して僕に見せる。


「これはお母様からの手紙で、最近、領内にいる〝死体の魔女〟が獣を操り暴れているらしい」

「死体の魔女?」

「死体の魔女は文字通り死体魔法を操る女魔術師。死体魔法は、死体を自由に操作できる上に、死体の生前の能力をフルパワーで発揮できる強力な魔法」

「めちゃくちゃヤバいやつですね」


 聞くだに恐ろしい魔術師だ。

 

 しかし、雌雄屋の話で何故、そのことを思い出したのだろうか。


 繋がりが一切見えてこない。

 

「ただし制限がある。操れる死体は……オスの死体に限るという制限が」

「へぇー、それは確かに大きな制限ですね……せ、性別が関係してるんですか!?」


 死体を操る魔女という悪趣味さが男の死体を操る魔女という更なる悪趣味さに変化したところで繋がりは見えた。


 雌雄屋は性別を操る。


 死体魔法はオスの死体を操る。


 相性は良い気がしてならない。


「気にしすぎかもしれないけれど、ちょっと雌雄屋に会ってみたい」

「わかりました。準備しますね」


 こうして僕はもう一度あの恐怖の老婆に会いにいくことになった。


 今度は死体魔法という新たな恐怖を感じながら。 

 

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