勇者に会いに行こう編⑤ しゆうやとゆうしや
「メイド、お主……似ておる」
老婆は僕の顔をじっと見るなり、そんなことを言い出した
に、似ているとは?
「似ておる……あの忌々しいメイドに!」
何故だか分からないけれど、すっごい恨まれてません?
老婆とは思えない活力のある怒りを感じるんですが?
や、ヤバい……怒りのままに性別魔法を使われたら全てが終わる!
我が性別の危機!
『いやー、大変ですねぇ』
シロフィーは面白そうにこちらを見ている。
くっ、本気で女になればいいと思っているのかこのメイド!
な、なんとか宥めないと!
「あ、あの、私、ただのメイドですので」
「いや! お前からはやつの雰囲気を感じる……〝掃滅のシロフィー〟のな!」
老婆が怒りに震えながら口にしたのは、僕の背後でふよふよと浮いている幽霊メイドの名前だった。
いや、お前じゃねーか!
よくもまあ素知らぬ顔で面白がれてたな!?
『あはは。安心してくださいクロ。その老婆は戦闘力はありませんから』
戦闘力はないかもしれないけれど、その分、魔法がヤバいんだよ!
「に、似てませんよー。似てたとしても、それは他人の空似というやつです!」
「うーむ、いや、顔は全然違うんだが、雰囲気が似ておる……」
「雰囲気なんて大抵似てるもんですよ!」
「そうかのう……あともう一つ気になっておるんだが」
老婆は今度は僕の全身をジロジロと舐め回すように見てくる。
次は何だと言うんだ……。
頼むから変なことは言いませんように……!
「お主、本当に女か?」
「ひぇっふ!?」
喉から一気に息が抜け出して、変な声が僕の口から溢れ出る。
いいいい、今、何って言いました!?
本当に女かって!?
嘘でしょ!?
メイド服の効果なのか、余程、僕が女顔なのか、これまで一度だって女性だと疑われることはなかったのに!
自分で言ってて悲しくなるけれども!
「なななな、なに、何を言うのですかオバ様! 見ての通り、私が正真正銘の美少女メイドですよ!!!!」
「そうじゃよなぁ……」
僕はもうしどろもどろに、必死に弁解をする。
老婆はまだまだ疑心を抱いているようすだったが、とりあえずは納得したように、落ち着きを取り戻した。
よ、よかったぁ……。
終わったかと思った……人生が!
「あたしの性別魔法が人間に通用すれば確認できるのだけど、人は無理じゃからなぁ」
「あっ! そ、そうなんですか!」
老婆のその言葉を聞いて、僕は心底、もう本当に心の底の底から安心した。
よ、よかったぁ……。
流石に人間相手にまで活用できる魔法ではなかったようだ。
『やはりまだ無理でしたか。生前も無理だったので、予想はついてましたが』
どうやらシロフィーは全てを理解していた上で僕をからかっていたらしい。
あ、悪質すぎる!
今まで色々な危機に直面してきた僕だけど、今日ほど恐れた日はなかったよ!
僕の一番の敵はどうやら身内にこそいたようだった。
「迷惑かけたのう。あたしは雌雄屋のクスクスという……まぁケチな魔術師じゃ」
「は、はい。クロフィーと言います」
「名前まで似ておるんじゃな?」
「ゆ、有名人の名前を借りるのはよくありますからね!」
「それもそうか」
核心をついた老婆の発言をなんとかかわす。
このお婆さんとの会話は、なかなか冷や冷やさせられるな……。
「し、雌雄屋さんって私、初めて見ました」
「そうじゃのう、ここいらにはあまり来なかったからのう。まあなに、魔術師っていうのは基本人と関わらないんじゃが、あたしの魔法はこんなことでもしないと役に立たないもんでな」
老婆は自分の魔法がさほど好きでもないのか、腐すようにそう言う。
性別魔法は、確かに僕が今まで見てきた魔法の中でも特別に特殊なものである。
性別を変える……だけの魔法。
そんな魔法を活用しようとするなら、確かに人里に降りてくるしかないのかもしれない。
「みんなの役に立って、立派で素晴らしいことじゃないですか」
「はん、そのせいでもうずっと魔法が成長する気配もないがのう」
そういえばテレサ様の魔法は、短期間でかなりの成長を遂げ続けている。
それはテレサ様の努力熱心な姿勢と、深い深い探究心によるものだと思っていたけれど、騒がしく非日常な日々というのも重要だったのかもしれない。
平凡に暮らしていては、平凡な想像力しか生まれない。
どこかで非凡にならなければならない……それは分かる話だった。
「おい! いつまでこんなとこにいるんだみゃ! さっさと勇者を探すみゃ!」
「ミャカエル……貴女のそういう空気の読めないところ、結構好きですよ」
ミャカエルは僕と老婆の会話にすっかり飽きていた。
もう僕は人生最大の恐怖体験よって勇者なんてどうでもよくなって来ているのだけれど、ミャカエルはやけにこだわる。
そんなに殴りたいのだろうか、勇者を。
「勇者? 懐かしいのう」
「知っているんですかオバ様?」
老婆はミャカエルの話に反応する。
彼女も相当な年齢なのだろうから、当然、昔にいたという勇者を知っているようだ。
まあ、絶対有名人だっただろうしな。
「これは面白い話なんじゃがね。昔、あたしは勇者と間違われたことがあったんじゃよ。それで屋号を変えるハメになった」
「どういうことです?」
勇者と間違われたのも謎だし、それで屋号を変えることになっているのも謎だ。
もはや因果関係がどう繋がるかも予想できない。
「昔はね、雌雄屋じゃなくて、雄雌屋だったんだよ。しゆうや、ゆうしや、ゆうしゃ、勇者ってね」
老婆はお茶目にそんなことを言う。
く、くだらねー!
そんな勘違いをする方もする方だよ!
……いや、待てよ。
この町に勇者が来ているという話はまさか……。
「ミャカエル、本当にロザ様は勇者って言ってましたか?」
「間違いなく言ってたみゃ! 昔はゆうしやとか言ってたからもう完全にあの昔いた勇者に違いねぇみゃ!」
「このお馬鹿ー!」
勇者騒動の真相は、驚くほどに阿呆らしい結末だった。
ま、まあ、最初から本当にいるかは半信半疑だったけれど、もうそういうレベルでなく、超くだらない!
『だろうと思ってましたよ』
最初から何も本気にしていなかったシロフィーの反応は冷ややかだった。
「なんだい? あたしと勇者を間違えてたのかのう? はっはっはっは! 久しぶりに面白い話じゃ」
「すいませんオバ様、アホなことに巻き込んで」
「丁度、今、昔のことを思い出したぞ。そう、名前を間違えられて困ってる時に本物の勇者があらわれて、あたしにこう言われたんじゃ。僕を女にしてくれないかって」
「ええ!?」
まさかのTS願望持ちだったの勇者様!?
め、めちゃくちゃ気になる。




