勇者に会いに行こう編④ 謎屋
この辺り一帯はメアリ様の領地であり、近くの町というのも、やはり領内ということになる。
結構な繁栄ぶりを見せている場所で、町を取り囲む城砦、その門の前にも人集りが視認できた。
「すげぇ壁みゃ。一撃じゃ壊せねぇみゃ」
「破壊前提の言動は控えてください。普通に捕まりますよ」
幼い姿で物騒なことをいうミャカエルにヒヤヒヤしながら、門番に挨拶しつつ、門を抜けると、賑やかな町が見えてきた。
僕はもう何度か通ったことがあるけれど、いつ来てみても緊張する。
そう、実は身内でない……つまり、オセロ屋敷の住人でない人の前でメイド姿で歩くことは未だに、結構恥ずかしく思っている。
見知らぬ人の前だとなんかこう……普通に女装で興奮している変態みたいな感じが出る気がするんだよね……。
『何を今更』
まるで普段から僕が興奮しているかのような物言いをシロフィーはするけれど、勿論、嘘なので信じないように!
ほんのわずかにしか興奮してないから!
「まずはテレサ様とロザ様に頼まれていた本を探しますか。それが終わったら、モンスターの素材を一通り買い漁って、最後に服を見ます」
「なかなかギチギチなスケジュールみゃ……」
毎日、町に来れるわけではないので仕方がない。
来れるときに一気に買い物を済ませなければ。
「勇者は全て終わってから探しましょうか……しかし、本当にいるんですかねぇ」
「いないならその時はみゃーが勇者みたいなもんだみゃ」
「謎の理屈ですが、もうそれでいいです」
不戦勝だから自分の勝ちみたいな理屈だろうか……?
例えそうだとしても、勇者は別に勇者に勝ったら勇者みたいな制度じゃないと思う。
というか、そんな物騒な勇者は嫌だ。
『勇者ねぇ……眉唾物ですが、見れるなら見たいですね』
しみじみと言うシロフィーの姿には哀愁が感じられた。
そういえば、勇者の話をミャカエルは普通の猫の時に聞いたと言っていた。
つまりはその時代には勇者と呼ばれる存在がいたことになる
では、その時代を生きていたはずのシロフィーはもしかすると勇者の話にも詳しいのだろうか……?
あるいは、生前に会ったことすらあるのかもしれない。
『おっと、追及されても私は話しませんよ! 秘密主義な女なのです!』
どうやらシロフィーはその辺りについて話すつもりはないらしい。
まあ、いいんだけどね。
「さて、探す本は〝爆薬令嬢爆死する〟と〝猫でも出来る猫のしつけ方〟そして〝魔界の王に聞いたおすすめ癒しスポット77〟……その他もろもろです」
「どれもひでぇみゃ……特に二つ目がひでぇみゃ」
「私としては魔界の王にも気安いやついるんだなって感想が先に来ますね」
「そもそも魔界に癒しスポットなんてあるのかみゃ?」
全くないことはないだろう……混沌な世界なので逆に言えば無いものは無く、何もかもあるはずだ。
だからと言って魔界で癒されようとはこれっぽっちも思わないけれど。
「まずはあそこの本屋から見て回りましょう。ミャカエル、荷物持ちは頼みましたよ」
「首輪付けた子供に荷物運ばせるのかみゃ」
「今更その程度、気にしませんってば!」
そもそも容姿が似すぎているので、姉妹にしか見えないだろう。
もしくは娘に……。
自分で言ってて、悲しくなってきた。
涙を堪え本屋へと僕らは歩を進める。
★
「ぬおおおおお、塔みたいになってんみゃ!」
本を大量に抱えたミャカエルは、その大量の書物によって完全に姿が隠れてしまっているが、しかし、その本の塔が倒れる気配はない。
さすが猫、バランス感覚が尋常じゃない。
感心して見ていると、遠くから声が聞こえてきた。
「スクセ! ガイテン!」
奇妙なかけ声の方へ視線を向けてみると、そこには牛や馬や犬や猫、鶏などを連れた人々で賑わっていた。
い、異様な雰囲気だな……。
『医者か何かでしょうか?』
なるほど、確かに動物医はこの世界にあまりいるものではないだろうし、偶に来るのなら賑わうのは理解できる。
しかし、様子がおかしいような……。
「ほーれ、よってらっしゃい。雌雄屋だよー」
騒ぎの中心で声を上げているのは老婆だった。
いかにもな魔女という容姿で、ヨレヨレの魔女帽子を被り、シワまみれの指で動物たちを撫で回していた。
というか雌雄屋……?
まるで聞き馴染みのない言葉に僕の頭にはハテナマークが大量に浮かぶ。
オスメスのことなのは分かるけれど……。
『なんと雌雄屋ですか。まだ生きてたんですね』
シロフィーは物知り顔で驚いている。
いや、だから何なんだよ雌雄屋!
『雌雄屋は雌雄屋ですよ。ちょっと見に行きましょうか』
まるで説明になっていない説明をしつつ、人混みに入っていくシロフィー。
仕方ないので、僕もついていく。
「みゃーはすっげぇ嫌みゃんだけど……」
ミャカエルはめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。
まあ、今のシチュエーションって動物を騙して医者に連れていくやつによく似てるしな。
放置するわけにも行かないから連れていくけども!
人ごみを掻き分けて、中心の老婆の元までいくと、老婆がちょうど鶏に触れている場面だった。
そして、先ほども聞いた奇妙な言葉を発する。
「スクセ! ガイテン!」
すると、なんということだろうか。
雄鶏だった鶏の立派なトサカが小さくなっていくではないか!
これは要するに……オスからメスになっているのか?
『その通り。雌雄屋は動物の性別を自由に操る魔術師です』
そ、そんなニッチな魔術師がいたとは。
表記するのなら、性別魔法とでも呼ぶべきなのだろうか。
影魔法、鎖魔法、変身魔法ときて、性別魔法……。
振り返って見ると、変なのばっかりだ。
『テレサ様のお母様の魔法は何となくですが、人形魔法ではないかと思いますね』
そういえばメアリ様は巨大な人形を操っていた記憶がある。
テレサ様のヌイグルミの影を操るという影魔法との関連性を微妙に感じるけれど、それはむしろテレサ様が無意識のうちに、似せているという可能性があるかもしれない。
『とりあえず雌雄屋に話しかけて見てください。もしかすると、貴方のことを女に出来るかもしれませんよ』
出来たとしてどうしようというんだ!?
突如としてシロフィーが恐ろしすぎることを言い出したので、僕は心の中で全力で恐怖した。
この白メイド、僕を女にしてしまえばもう完璧じゃないですかとでも言いたげな顔をしている。
まだ女になるつもりはないからな!
例え女装メイドとしてもう結構やってきていたとしてもだ!
「むっ、そこのメイド! 少し良いかの」
シロフィーの言葉に恐れ慄いた僕は、すぐにその場を去ろうとしたけれど、老婆によって呼び止められてしまう。
せ、性別の危機!




