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勇者に会いに行こう編② 画伯

『メイドじゃない技術その三〝画伯(エガ・アーク)〟!!!!』

「そんなのあるの!?」


 思わず口に出してツッコミをいれつつも、僕は無心で筆を動かす。


 現在、僕はミャカエルを連れてオセロ屋敷に存在するアトリエに来ていた。


 だからまあ、この場にはシロフィーのことを視認できる猫しかいないわけで、別にシロフィーと話しても問題はないのだけど、ちょっと無用心かな……。


 アトリエには画材とキャンバスがきちんと保管されていて、その他、モチーフとなる小物類なども充実していた。


 一応、筆ならしということで、石像を持ち出してそれを描こうとしているのだけれど……。


「こ、これ、なんですか?」

「自分で描いとるんじゃろがいみゃ!」


 確かに僕が描いたものなんだけど、あくまでシロフィーの指示に従いつつシロフィーの技術で描いたものだから!


 プラス方面の技術ばかりが受け継がれてきたけれど、実はマイナス方面でも受け継げるんだな……。


 キャンバスに描かれた石像のイラストは……何故か真っ赤に染まり、その中心で下手くそな猫が爆発していた。


 ……いや、どういうことだよ!


『まず赤は絶対なんですよね』

「前提から分かりませんね……」

「みゃんでみゃーが爆裂してんみゃ!」

『これは爆発ではなく、変身している時の煙ですよ!』


 あー……言われてみればそんな風に見えなくも……いや見えねぇわ!


 だって真っ赤なんだもん!


「それで石像は?」

『すいません私、頭の中に存在する世界だけを絵にしたいんですよね。それが私のポリシーっていうか、アートっていうか』

「一丁前に何を言っているんですか」


 そんなこと言える段階に存在している画力じゃないからな!


 くっ、なんとなく予想はついていたけど、やっぱりシロフィーは絵がド下手くそだったか……。


 そういえばシロフィーの技術って要するに体鍛えてるからみたいなの多いもんな……。


 筋肉でゴリ押しできないものは苦手なのかもしれなかった。


「そのへんにある適当な絵に変身するかみゃ?」

「うーん、それは結局著名人に変身するのと同じ問題が起きかねませんからね。最後の手段に取っておきましょう」


 と言っても、現状既に手詰まりであり、もう崖っぷちみたいなものなのだから、その最後に手を出す必要があるのかもしれない。


 そう思っていると、アトリエに来訪者が現れる。

 

「…………」


 無言で現れた彼女は、顔に穴の空いたメイドさんことルイーゼだった。


 彼女は言葉を介さないので、まあ必然的に無言でしか現れないのだけれど。


『ルイーゼ、どうしましたかこんなところに』


 シロフィーの言葉に、ルイーゼは見つめ返してじっと彼女の方を見る。


 二人は結構長いこと一緒に働いていたらしいので、シロフィーからすれば顔を見れば言いたいことが全て分かるらしい。


 いや、顔、ないけどね?


 なんてことを思う僕でも、なんとなーくルイーゼの顔を見れば言いたいことが分かってしまうので、不思議なものだ。


『はいぃ? アトリエに向かう私を見たメイドたちが一斉に問題視してルイーゼに知らせて来たですって? なんですかその扱いはー!』


 申し訳なさそうにルイーゼは俯いてしまうけれど、これは完全にメイドたちが正しい。


 そもそも、そこまで生前から危惧されていたのかよって思うけど。


「派遣されてきたってことは、ルイーゼは結構絵が上手かったりするんですか?」


 ルイーゼは僕のその言葉にしっかりと頷いて見せる。


 おお、ちゃんとした自信を感じる。


 シロフィーの明らかに暴走しているやつとは違う自分を理解した自信が彼女にはある!


『芸術は理解されないっものですねぇ……』


 シロフィーは部屋の隅に方に蹲り、珍しくいじけていた。


 あんな何でも出来るチートな存在でも苦手なものはあるんだな……。


 まあ、最近はそこそこポンコツなところも見せるようになってきた。


 仲良くなればなるほど、完璧でないと分かるのもまた、友情というものだろう。


「それではルイーゼ、ミャカエルが変身する為にオリジナルな人物画が必要なんです。出来ますか?」


 ルイーゼはすっとキャンバスの前に座ると、なれた手つきで筆を整え始める。


 任せてくださいと言わんばかりだ。


「ミャカエル、そういえば容姿の希望とかありますか?」

「うーん、人間みゃんてどれも一緒……とちょっと前まで思ってたんみゃけど、最近は魔法の影響で結構違いがわかるようになったみゃ」

「まあ、そうじゃないと変身魔法は使えないでしょうからね」

「特にみゃんでか可愛いか可愛くないかがめちゃくちゃ気になるんだみゃ」

「それは全面的にエルパカのせいですね」


 変身を解いたことでエルパカに化けていた時の影響は無くなったと思っていたけれど、どうやら余波はその趣向に残っているらしかった。


 改めて本当にヤバい魔法だ。


「でも、この世で一番可愛い生物って猫じゃねぇかみゃ?」


 ミャカエルが何やら真理を突いているようなそうでもないような事を言い出す。

 

 この猫、びっくりするくらい変身魔法に向いてない気がする!


「それを結論にしてしまうと、もう変身魔法への意欲だだ下がっちゃいますから。それにミャカエルの人間の姿、きっとすごく可愛くかっこよくなりますよ」

「みゃに!? 可愛さにかっこよさが足されたら……無敵じゃねぇかみゃ!?」

「ええ、目指しましょう。無敵を」

「よっしゃー! じゃあ、かっこ可愛く無敵なやつを頼むみゃ!」


 とりあえずおだてることで要望を得ることには成功したけれど、もしかすると無い方がマシなオーダーなのでは?


 こんな曖昧かつ謎なものをイラストレーターさんに発注したらぶん殴られるかも分からない。


 しかし、文字通り文句一つ言わない……いや、言えないルイーゼはただひたすらに筆を走らせる。


 何だかんだで文句を言えずに仕事をする姿は、社畜感があるというべきなのか、プロフェッショナルだと讃えるべきなのか。


 とりあえず後者にしておこう……。


『ルイーゼは給料なくても働くタイプですからね』


 前者っぽい!


 どちらかと言うとそれはもう奴隷だけど!


「そういえば思ったんみゃが、メイド……は多すぎるみゃ。クロは可愛くてかっこよくて割と無敵じゃねぇかみゃ?」

「えっ、ま、まあ、そ、そうですかね?」


 突然ミャカエルに容姿を褒められてしまい僕は超戸惑った。


 しかも、かっこいいとまで言われたので動揺は倍増する!


 可愛いはもはや褒め言葉になっているのか、男子としては微妙なのだけれど、かっこいいは普通に喜べるからね!


『女性としてかっこいいってことですから、可愛いと意味合いは同じでは?』


 シロフィーが鋭く正論を投げかける。


 ええいうるさい!


 可愛いのみよりかっこ可愛い方がダメージが少ないんだよ!


 もう女装生活も相当長いけれど、まだまだ男の子なつもりの僕だった。


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