エルパカ増殖編 エピローグ①
こうして、エルパカ増殖騒動に一応の解決がなされた。
しかし、もっと大きな問題がオセロ屋敷に残ってしまったのも事実である。
そう、ミャカエルの変身魔法のことだ。
ベム子しかりロボしかりミャカエルしかりなのだけれど、事態を収めると何らかの問題が残ってしまう傾向に最近はある。
けれど、テレサ様は少なくともこの内二つの解決策をきちんと考えていた。
まずはミャカエルについてだ。
あの後、ミャカエルをテレサ様の元へ連れていくとテレサ様は愉快そうに笑った。
「魔法を覚えるのは想定外。素晴らしい使い魔になった」
「まだ使い魔になったつもりはねぇみゃ!」
ミャカエルが僕に首根っこを掴まれたままに吠えるが、その姿は完全に飼い猫だ。
「しかし、この変身魔法色々と問題がありまして……」
「うん、見分けがつかないのは面倒。だからこれを付けてあげて」
机の引き出しをゴソゴソと漁った後、テレサ様は僕の手に首輪を手渡した。
真っ赤で燃えるような宝石が装飾として彩られていて大変に美しいが、これをつけるとどうなると言うのだろう。
「それをミャカエルに付ければ変身しても首輪が残る。判別が可能」
「なんとシンプルな!」
それは単純明快な解決方法だった。
でも、確かに判別さえ付けば、少なくともミャカエルだと分かるので、どちらか分からないが変なことをしていたという悲しい被害は減る。
例えば、僕の姿で全裸でほっつき歩いていたなんてことになったら……一度、それを見に行った後に激しく後悔する自分の姿が予想できる。
首輪のおかげでそんな悲しい事態は避けられた。
……いや、あんまり避けられてない?
馬鹿なことを考えている間に、テレサ様は首輪について話を続ける。
「問題点としては変身魔法は服装まで変身することだけど、心理的な問題で首輪は変化できないと思う。ミャカエルはまだ私に敗北心があって、それが魔法を阻害する」
ミャカエルの変身魔法は、エルパカに変身した時も僕に変身した時もそのメイド服まで再現していた。
よって首輪も服装と一緒に変化する可能性も十分にある
しかし、テレサ様はそこまで予想してなお、想像力に基づく魔法においては屈服したという事実の方が強いと判断したらしい。
負け犬……いや負け猫であるミャカエルは首輪という十字架を簡単には外せないということか。
このメンタルが重要になってくるのが魔法の恐ろしいところで、一度の敗北は永久の隷属になりかねない。
もう一度、僕が十魔王のグリッズと戦ったとしても、やはり鎖は簡単に砕けるのだと思う。
……あいつが敗北心を克服してない限りは。
将来に一抹の不安を覚えながら、僕はミャカエルに首輪をつけてあげた。
うん、可愛い。
猫って結構色々なアクセサリーが似合うんだよね……服とか着て欲しい。
「はい、よく似合ってますよミャカエル」
「えっ、そうかみゃー」
「ちょっと変身してみてください」
「みゃかせろみゃ!」
ちょっとおだてるとすぐにミャカエルは変身してくれた。
ボフンと煙がまた周囲に漂う。
「どうみゃ!」
ミャカエルはテレサ様に変身してみせた。
しかし、首輪はその細い首に付けられたままなので、どうやら実験は成功の様だ。
ただ、首輪をしたテレサ様の姿という光景は非常に心臓に悪い。
見た目が犯罪すぎる。
「私、首輪似合う」
「喜ばないでください! 私もちょっと似合うなって思いましたけど!」
「私の首輪、選んでくれる?」
「勘弁してください!」
揶揄うように言うテレサ様の姿を見て、やっぱりうちのご主人様には首輪なんて似合わないなと思い直した。
自由すぎるもんな……。
「ああ、テレサ様、あと変身魔法による自意識の変化も困った話なんです」
結局、こちらの問題が解決されないと、変身魔法はそう易々と使えるものではなくなってしまう。
逆に言えば、それさえ克服されたら相当に強力な魔法だ。
「それは魔法の成長によって安定するはずだけど、一応、首輪で軽減されると思う」
「何か特別な首輪なんですか?」
テレサ様は無言で首を振る。
横でミャカエルもテレサ様の姿で、その動作を真似するように首を振っていた。
悔しいが可愛い。
ダブルテレサ様はちょっと可愛さの過剰摂取で死にかねないな……僕が!
そしてシロフィーが!
『骨は海に沈めてください……』
萌え死しそうなシロフィーが何か言ってるが、いや、骨ないだろ。
「ただの首輪。だけど、首輪が変化しないことで、自分を飼い猫だと判断出来るから、自意識が変化しにくくなるはず」
「なるほどー、確かに首輪してるのにエルパカとかに変身しても、なんで首輪をしているのか自分で疑問を持ちますもんね」
いや、エルパカならやりかねないけどさ!
しかし、それでもやはり、敗北の象徴である首輪を見れば自意識も思い出されるというものか。
驚くべきことに、このただの首輪というアイテム一つで、テレサ様はミャカエルの変身魔法の問題点を一気に解決してみせた。
なんという才女。
一気に複数の問題を解決するのがアイデアだと言う。
まさにテレサ様はアイデアマン……いや、アイデアウーマンだ。
「あと、クロ。ロボのことも分かった」
「テレサ様はなんでも分かってしまいますね」
「実は全知全能が目標」
「壮大すぎます!」
「割と冗談じゃない。魔法に不可能はない以上、それを操る魔術師も最終的には全能にならなければおかしい」
理論的な上に志が高すぎるなうちのご主人様……。
でも確かに、魔法はなんでも出来るのだから、結果的には全能こそが魔術師の目指すべき目標になるのか。
そうであるなら、魔術師の目指すものとはなんと神話的なのだろうか。
僕なんて今日を楽しく生きれれば良いくらいにしか考えていないというのに。
「それで、ロボの正体はなんだったんです?」
僕はちょっとウキウキで尋ねた。
ロボに無条件で興味を示してしまう男の子な年頃である。
「これに刻まれた文字で確定したけど、中界でも魔界でも見ない存在だから、最初から予想はついていた……」
テレサ様はロボの出所については最初から想像していたらしい。
そういえばシロフィーも意味深なことを言っていた記憶がある。
普通に考えればそこしかないと言うことなのだろうか。
「中界、魔界、そして天界……現在確認されている三つの世界の一つにして最も謎多き世界、これは天界の物で間違いない」
『あーはいはい、私もそうだと思ってたんですよ』
急にシロフィーがテレサ様の横に並んで、腕組みしつつ得意げな顔を見せる。
後出しのように割り込むんじゃないシロフィー!
思ってたかもしれないけどさ!
ちなみに僕はまるで察していませんでした……て、天界かぁ、その発想はなかったな。
天界。
それは魔界と共に中界を挟むもう一つの世界。
魔界の情報は魔界人たちの襲来によってかなり明かされたところがあるけれど、天界はまだまだ謎が多い。
その天界の一端が僕らの前に姿を表していたようだ。
「実は私と天界は因縁がある……長くなるけど、天界についてクロには教えておきたい」
「因縁……ですか?」
いつも自由で何ものにも囚われないテレサ様にしては珍しい言葉に思えた。
一体、天界に何の因縁があるのだろうか。
次回、謎多き天界について
エルパカ増殖編といいつつミャカエル編も次回で終わりです




