エルパカ増殖編⑤ 変身と過信
「ミャカエル、あまりその魔法は乱用しない方がいいかも」
兎にも角にも魔法を自重させなければならないのだけれど、猫はこういう時素早い。
「じゃーん! お前の姿になってやったみゃ!」
「言ったそばからー!」
馬鹿なミャカエルは考えなしに僕に変身し、得意げに胸を張る。
本来、僕の胸はパッドなのだけれど、あれは恐らく普通におっぱいとして判断されている気がする。
揺れ方とかリアルというか……知らないから完全な妄想だけども!
『まあ、自分の想像を基準に変身するわけですから、真の姿になれるわけではなさそうですね』
シロフィーはドタバタな状況でも冷静に解説する。
この変身魔法が完全に同一な存在になれるとしたら、今の場面でミャカエルは男になっていなければおかしかったわけだ。
結構、危ないところだったかもしれない。
そして、また増殖してしまった……しかも僕が。
先程まではエルパカがダブルという非常に騒がしい空間だったけれど、今度は僕こと黒白髪で片目隠れのクロフィー・クレマティス・クローニングが二人になってしまい、なんと言うかシュールだ。
僕を間近で見るのは僕も初めてなので、ちょっとドキっとする。
な、なかなか美人じゃないか。
「みゃーは思い出したみゃ! お前の最強の力を手に入れれば、みゃーも最強になるはずだって! くらえみゃー!」
以前の意趣返しなのか、僕の姿になったミャカエルは大きくジャンプすると、こちらに向かって拳を振り下ろしてくる。
僕は更に高くジャンプしてそれを避ける。
「みゃにー!?」
「強さは据え置きみたいです、ねっ!」
以前と同じように僕はミャカエルを地面に叩きつけた。
以前と同じように地面に墜落するミャカエル……ただし容姿は僕だ。
……自分自身を叩くってすごい変な気持ちだ。
なんかそういう自己批判の抽象画みたいだな。
歌のPVにありそう。
「さあ、早く変身を解いてください。このままではまた心まで変化しちゃいますよ」
急いでミャカエルに変身を解かせようとするが、時すでに遅かった。
「私がその程度で心を移すとお思いですか? メイドたるものそれくらいのことで動揺したりしません!」
「もう結構侵食されてるじゃないですかー!?」
ツッコミつつも、人からみると僕ってこんな感じなのかと、結構ショックを受ける。
そんな気高い感じだったっけ?
か、可愛いけども。
『おや、ナルシストへの道を歩み始めますか。私も結構ナルシですが、クロには是非私を超えて欲しいですね』
シロフィーは僕を禁断の道へと誘う。
僕が僕に恋するなんてそんなの最悪のバッドエンドだ!
絶対に回避させてもらう!
暴力でな!
「はァ!」
「みゃふー!」
メイドらしからぬ気合の入った声と共に、僕は僕に変身したミャカエルの腹をぶん殴る。
すると、痛みで自意識が取り戻されたのか僕の姿に耳と尻尾が生えた。
猫耳な自分という光景も僕の精神を削ってくる。
「わ、我ながらヤベェ魔法みゃ……」
「正気に戻ってくれて助かりました。そして、ようやく理解しましたか。自身の魔法のヤバさを」
『そのうちミャカエルという存在が消えかねませんよ』
もう冗談みたいな状況で、なんなら面白いくらいなのだけど、実際は結構ギリギリな状態である。
ミャカエルはこのままだと魔法に飲み込まれてしまい、自意識が完全に消え去るかも分からない。
どうしたものだろうか……。
「というか、服を正せミャカエル! す、スカートが酷いことになってるぞ!」
ロザ様の言葉を聞いて、僕は初めて気づいた。
そう、ミャカエル(クロ形態)はその猫な性格のせいで、露出をまるで気にしていなかったのだ!
スカートが尻尾で持ち上げられて酷いことになってる!
「教育に悪いです! ミャカエル! 早く元に戻って」
「人間は面倒くさいみゃー……」
ミャカエルはまたボフンという音と共に煙を発し、元の猫の姿に戻った。
本当にヤバい魔法だ……。
あの姿で色々されたら、全部僕にも被害が来るという事実。
じ、地獄……。
そんな魔法をこの猫が手に入れてしまうとは。
「と、とりあえずテレサに伝えよう。もしかしたら、ミャカエルの暴走も止められるかもしれない」
顔を真っ赤にして動揺してもなお、ロザ様の言うことは正しい。
うっ、自分のえっちな姿のせいで顔を赤くしていると思うとなんか罪悪感が。
変なもん見せてすいませんという気持ちが湧いてくる……全部この猫が悪いのに!
「て、テレサの元にはあまり行きたくねぇみゃ!」
「まあ、ボロ負けした相手ですからね……気持ちは分かりますが」
「飯がまずいんだみゃ!」
「そこですか!?」
嫌がるミャカエルは、苦手意識から拒否しているのかと思ったら、ただのわがままだった。
しかし、確かに魔石を砕いて混ぜて食べさせるだけの飯だった記憶がある。
確かに美味しそうには思えない。
だからこそ、ミャカエルはオセロ屋敷を歩きまわり飯をねだっていたのかもしれない。
だとすれば、まあまあ不憫だった。
「今度からは私がご飯にも気を使ってあげますから」
「マジかみゃ!? お、お前、もしや神かみゃ!?」
「メイドです」
「いや、悪魔かもしんねぇみゃ……これは魂の取引みゃ」
「メイドですって」
まあ、ちょっとメイドか怪しいところもあるけど……一応メイドですよ!
ミャカエルはだいぶ悩む仕草をした後に、吹っ切れたように立ち上がる。
この猫、当たり前のように二足歩行になるな。
「仕方ねぇみゃ……その契約に乗ってやるみゃ! その代わり、日に一度のブラシ掛けを要求するみゃ」
「や、安い……」
僕の毎日の業務にミャカエルの世話が加わった瞬間だった。
さて、ミャカエルを懐柔して、問題は解決した……わけではなく、この猫の変身魔法にまつわる様々な問題はまだ残されたままだ。
けれど、それらはテレサ様になんとかしてもらおう……。
そもそもテレサ様の使い魔であるし、それにテレサ様なら何とかするだろうという期待感もある。
もはやドラえもん並みに頼りになる少女である。
いや、そういえば、ミャカエルにはもう一つの問題があった。
そちらはテレサ様に解決してもらうわけにもいかないので、今この場でなんとかしないといけない。
そう、それは……シロフィーが見えてしまうという問題だ。
僕はミャカエルの目の前で座り込み、目線を合わせて、小声で交渉を開始する。
これが失敗すると、結構大変なことになるぞ……。
「ミャカエル、あの、私の上で浮いてるメイドについては秘密にして貰えると」
「みゃ? みゃんでみゃ?」
「な、なんでかと言うとですね……えーっと」
『私のことを人に話したりすると……呪われちゃうんですよぉ!』
空中で浮いていたはずのシロフィーが急にミャカエルの前に現れて、猫だましかのように、ミャカエルを驚かす。
ミャカエルは全身の毛並みを逆立てて、めちゃくちゃ驚いていた。
「ぎみゃああああああああ! わ、分かったみゃ! 話さねぇみゃ! だから許して欲しいみゃ!」
ミャカエルは本気でビビっているらしく、従順にシロフィーに従った。
よかった……ミャカエルがビビリで。
こうしてミャカエルは変身魔法という武器を手にした凶悪な存在になったものの、なんとかオセロ屋敷の仲間となった。
あとはテレサ様に全てお任せしよう……僕は疲れ果てた。
思いのほか伸びたので分割
次回はロボの正体も含めて説明回になりそうです




