エルパカ増殖編④ 新たな魔法はヤバい魔法
『さて、書斎に着きましたが恐らく鍵はないでしょう』
博識への扉、知識の鍵とも言うべき書斎の中に、確かに鍵らしきものはぱっと見では見当たらない。
けれど、それはまだ本格的に探してはいないからという可能性も十分にあるはずだけれど、シロフィーはそうは思わないらしい。
すごい自信だけど、本当に大丈夫かな……。
『いいですかクロ。私のことを見える人間は貴方だけですが、人じゃなければ他にも見える者はいるんです』
人じゃなければ見える者もいる……?
僕は落ち着いて今までの暮らしを考え直してみると、思い当たる存在があった。
ルイーゼだ。
顔に穴の空いた彼女は言葉を発することはないが、しかし、シロフィーの指示を聞いて従う光景は良く見る。
もう最初から当たり前のように話しているから、疑問にも思わなかった。
『そう、ルイーゼは私を見ることができます。理由はですね、これは推測になってしまうのですけれど、私という存在がそもそも魔物よりなんだと思います』
確かにシロフィーは人間離れしているよね。
メイド光線とかもう明らかに人外の所業だ
『そういう話ではなく! メイド光線は生前にできてましたが、私は人間でしたよ! そうじゃなく、幽霊の話です! 多分私は服に取り付く霊という魔物なんですね』
服に取り付く魔物。
言われてみれば確かに幽霊という存在をごく普通に受け入れていたけれど、その存在は人というよりも魔物と言われた方が正しい気はする。
そしてルイーゼもダンジョンの魔力によって人間から変異した魔物寄りな存在である。
『つまり、クロは着ることで私を視認しますが、そうじゃなくても、魔物寄りで人と同じ意思を持つ者は私のことを視認できるし、会話も出来るんです』
なるほど、そういう理屈が存在していたのか。
では、そんなシロフィーのことを見て、聞いて、話せるエルパカAは魔物寄りな存在ということ……?
うーん、エルパカはちょっと普通じゃない女の子だけれど、魔物とまでは思わないな。
『私はその正体にもあたりがついています。クロ、ちょっとエルパカの脇をくすぐってやってください!』
当然のように無理難題を言ってくるシロフィーの顔はちょっと笑っている。
なんで今日はこんなにボディタッチさせようとしてくるんだ!
『クロに免疫をつけさせる為にもいい機会ですからね。それに今この場でクロがくすぐらないなら、実行するのはロザ様ということになりますよ』
何ぃ!?
そ、それはまずい!
少年の心に重大な歪みが発生してしまいかねない!
やむを得ないか……。
ここはロザ様の為にも覚悟を決めて、僕が女装をして女の子の体を弄り回す変態となるしかないようだ。
我がご主人様の為にも仕方がないな……!
『ちょっと嬉しそうじゃありません?』
何を馬鹿なことを……この悲痛な思いが分からないのか!
大義名分を得たから急に乗り気になったなんてそんなわけないだろ!
『もうなんでもいいのでさっさとやっちゃってください。この変態』
シロフィーの永久凍土よりも冷たい眼差しが僕を襲う。
はい、すいません……やります……。
無心でやります……。
僕は全力で心を殺しつつ、エルパカAを押し倒す。
「きゃーですわ! 急になんですの!?」
「あまりしゃべらないでください。今、貴女のことを猫か何かだと思うように頑張っているんです」
「本当になんですの!?」
めちゃくちゃに混乱したエルパカAを無視して、僕は地面に組み伏せた彼女の脇をくすぐる。
「きゃー! きゃー! い、意味わかりませんわよ!!!? ちょ、ちょっと本当にやめてくださいまし!」
「わたくしが乱れてますわ! ロザ様のお目を隠しますわ!!!!」
「いや、くすぐっているだけだろう?」
ロザ様の純真さと真面目さが行きすぎて、この場のいやらしい感じをまるで理解してはいなかった。
その純白な心に感謝!
そして僕は薄汚れた心を頑張って殺しながら、脇をくすぐり続ける。
「ほ、ほんとに限界ですみゃ! みゃー!」
みゃ?
エルパカの声がだんだんと甲高く、そして少し濁声に変化していく。
というか、耳と尻尾が生えてきたような……。
「猫耳のわたくしもなかなかのものですわね!!!」
「おい! 見えないんだが!」
エルパカBは歓喜しロザ様は困惑している。
しかし、一番困惑しているのは意味も分からずくすぐり続けている僕なのである。
もう、何が何やらなんだけど!
『こう言ってあげてください。 貴女は猫だと』
いや、それは見れば分かるけども!
「あ、貴女は猫です!」
僕のその言葉を聞くや否や、くすぐられてうねうねと体を悶えさせていたエルパカAが、急に停止して一度目を瞑ると今度は……猫のような目を開眼させた!
「そうみゃ! どーして忘れてたんだみゃ! みゃーは……ミャカエルみゃ!」
そう宣言する猫耳のエルパカB……いや、ミャカエルはボフンと吹き出る煙と共に変身し、煙が晴れた場所には一匹の猫が胸を張って立っていた。
「みゃ、ミャカエルだったんですか!?」
猫のつもりでくすぐっていたら本当に猫になってしまった。
『ええ、その猫なら元ダンジョンの主であり魔獣よりの存在であり、しかも人間並の意思を持っている。私のことが見えるのも分かる話です』
た、確かに!
しかもミャカエルはこのダンジョンによって変貌したという点がルイーゼたちと共通している。
それもシロフィーを視認する条件なのかもしれない。
でも、初対面の時はシロフィーを見ているような雰囲気はなかったような……。
『いえ、ちょっと見られてましたよ。でも、猫ってそもそもよく分からない場所を見ますからね。それにあの時はもっと変なものがいたでしょう?』
もっと変なもの……。
確かミャカエルの元に足を踏み入れた時のメンバーは……僕とシロフィーとテレサ様(魔獣入り)に穴メイドのルイーゼ……。
本当だ!
変なのが多すぎて別にシロフィーが目立たない!
まともな部類ですらある!
「お猫さんですわ!! ミャカエル! どうしてわたくしに化けてたんですの?」
「そうそう、それですよ謎は」
割と猫好きなエルパカは喜んでミャカエルと話す。
ミャカエルがシロフィーを見ることが出来るのは分かったけれど、エルパカに化けた理由とその方法は謎のままだ。
「そう! よく聞くみゃ! 魔石を食い続けて、みゃーはどうやら一個上の魔法に目覚めたみたいなんだみゃ! それが変身魔法みゃ!」
なんとミャカエルは言葉をまた喋れるようになっただけでなく、魔法まで手に入れたらしい。
当屋敷に魔法を操る存在がまた一人増えた瞬間だった。
影魔法に扉魔法に変身魔法……なんかみんな変化球すぎる!
もっと王道な魔法ってないの!?
「それでエルパカに化けて私に悪戯でもしようと思ったんですか?」
「と、とんでもねぇみゃ! みゃーが変身魔法を覚えた時に一番近くにいたのがそこのピンク女だったんだみゃ。図書館でぐっすり寝てたみゃ」
「寝顔もさぞ可愛かったことですわ」
エルパカはまるで悪びれずに、むしろ胸を張る。
「丁度良かったから化けてみたんだみゃ。それで適当に屋敷を歩いてたら、まだ変身に慣れてなかったせいで、盛大にすっ転んだんだみゃ!」
「魔法覚えたてにはありがちなミスですわね! わたくしも扉魔法を覚えた当初は適当な場所に飛ばされたものでしたわ!!!」
「それは今でもそうなのでは……?」
いや、中界の恒常性のせいではあるんだけど。
魔界ではもっと完璧なエルパカが見れるのだろうか?
……それもなんか嫌だな。
「そして目を覚ましてフラフラしてたら鏡を見て……自分をそこのピンクだと思い込んでしまったみたいみゃ! いやー、不覚だったみゃ」
「そんな簡単に自分を見失います!?」
転んだ時に記憶喪失にでもなったとしか思えない状況だ。
でも、魔法というのは、そういう側面もあることを僕は忘れていた。
不可能はないし、そしてそれは自分の心さえ変えてしまえるのだ。
『変身魔法というのは恐らく心理面まで忠実に似せてしまうのでしょうね。魔法は想像力ですし、まだ覚えたてホヤホヤだったので、容姿だけ似せる、なんて細かいコントロールが効かずに、意識まで勝手に似ちゃったのでしょう。その人の真似をしてたら自分をその人だと思い込む様になった……というのはよくある話です』
ひえー、魔法ってコントロールが甘いとそんなことになっちゃうのか。
一歩間違えばミャカエルは、このまま一生をエルパカとして生きることになっていたのではないだろうか。
結構恐ろしい話だった。
次回エピローグ?
今日で投稿一ヶ月目となりました。
いつもご愛読ありがとうございます!




