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エルパカ増殖編③ 謎解きは勿体ぶった後で


 エルパカをいなしつつロザ様と仲良く会話しながら歩いていると調理場に辿り着く。


 それなりに立派な施設だけど、最初は結構持て余していた。


 今はそれなりに人数も増えたし、稼働率は高い。


 調理場の中には都合が良いことにベム子がいて、慣れた手つきで狩った獣を捌いているところだった。


 ただこれはメイドとして優秀というよりサバイバルが得意なのかもしれない……。


「主ではないか。どうしたんだ?」


 血塗れの顔で振り返るベム子はなかなかのホラーなメイドだけれど、この屋敷ではもはや可愛いものである。


「エルパカが鍵を無くしてしまって……見ていませんか?」

「あんな大切なものを無くしたのか。馬鹿だとは思っていたが大馬鹿だったようだな」


 呆れるベム子の言葉を聞いてエルパカ二人が喚き立てる。

 

 何という口撃力。


「馬鹿っていう方が馬鹿ですわよ!!!」

「馬鹿っていう方が馬鹿っていう方が馬鹿だ!」

「馬鹿っていう方が馬鹿っていう方が馬鹿……っていう方が馬鹿ですわ!!!!」

「無限ループするのはやめてください。どちらも馬鹿です」


 もはや、ちょっと楽しくなってしまっているベム子と、エルパカAエルパカBを諌める。


 そもそも馬鹿っていう方が馬鹿は自分の馬鹿を否定していないので、馬鹿を増やしているだけである。


 よって、今この場では正しい言葉かもしれなかった。


「というか、なんで増えているんだお前。風邪か?」


 ベム子は何故かエルパカが分裂したことを病気の類だと思っていた。


 どういう理屈だよ!


 ……と思ったけれど、魔界ではあり得るのだろうか。


 可能性はある。


 何故なら、魔界は頭がおかしいからだ!


 何でもありな場所の極地!


「魔界では風邪で増えるんですか?」

「増えるわけないだろう。今のはジョークというやつだ」

「分からないんですよベム子のジョークは!」


 そして魔界は色々おかしいから分からないんだよ!


 今後、ベム子が魔界ジョークのレパートリーを増やしてきたら、一生、嘘か本当か分からないままに生きる羽目になりそうだ。


「しかし、増える魔法を使うやつはいた。十魔王の一人〝増殖のレギオン〟だ。そいつは自分を無限に増やすことが出来る分裂魔法の使い手でな、一つの国を自分の質量だけで滅ぼしたことがあってな。そう、単純にその質量が厄介なんだが不死身性も併せ持っていてな……」

「面白そうな話だけど、また今度にしてくれ。聞きたいんだが、昨日のエルパカの行動におかしなことはなかったか?」


 ベム子が魔界トークを繰り広げようとしている中、それをロザ様が止めた。


 ロザ様は結構魔界トークが好きなので、それを止めてまで捜査を継続しようとするのには、ロザ様の真面目さが表れていた。


 僕は結構続きを聞きたかったけど……。


 十魔王は僕の中の男の子を掻き立てる何かがある。


「うーむ、いつも通りの騒がしさだったぞ。確か、書斎に行くとか言ってたはずだ」

「書斎ですか、エルパカが珍しいですね」


 エルパカは一応は名のある家の生まれだろうから、その辺の素養もありそうなものだけれど、僕が見る限りでは本に興味を示したことすら見たことがない。


 本を読む暇があるのなら、僕のところに取り敢えずやってくるのが彼女の生態で、最近は犬に似ているなと思い始めている。


 多分、フリスビーとか投げてあげたら普通に喜ぶ。


 今度やってみよう。


「ご主人様の名前の元になったという本を探しにいったんでしたわ!!!」

「でも、速攻で諦めて本を枕に寝た記憶がありますわ!!!」

「書斎にある可能性高そうですね」


 寝ている隙に落とすなんてことは、いかにもエルパカがやりそうなことだ。


 この屋敷全域を探す失せ物ツアーにおいて、書斎は一気に有力候補となった。


「そういえば一緒に猫も来てたな。つまみ食いしそうだったから、皿に盛ってやった」

「みんなミャカエルを甘やかしてますねぇ」

「それが猫の仕事だ」


 それはそうかもしれない。


 ミャカエルの普段の暮らしも聞けたところで、僕らは今度は書斎に向かって歩き始める。


 書斎はその言葉から受けるイメージの五倍くらいでかいので、鍵があったとしてもなかなか骨が折れそうだけれど、屋敷全体を探すよりは一億倍マシだ。


「ご主人様ってほんと可愛いですわよね!!!!」

「鏡を見る以外で癒される瞬間ですわ!!!」


 両側からジロジロとエルパカ二人の遠慮のない視線を浴びていると、二人が急にそんなことを言い出した。


 容姿を褒められるのは、なんと言えばいいのか、嬉しいような、恥ずかしいような、非常に微妙な気分になる。


 ちょっとでも喜んでいるのはおかしい気もするけど、悲しいかな美男子と言われようと美少女と言われようと、嬉しいものは嬉しいのだった。


「ま、まあ、多少は容姿に自信はありますが」

「あと、言おうか迷ってましたが、そちらの浮いている方もなかなかの可愛さですわよ!!!」

「はい?」


 浮いている方?


 僕が視線を上げると、そこにいるのは勿論シロフィー一人だ。


『えっ、私ですか』


 急に視線を向けられてシロフィーは驚いている。


 と、というか……。


 み、見えている!?


 基本的にはシロフィーは僕しか見えないものでは!?


「なかなかの可愛さ指数してますわ!!!」

「エルパカは何を言っているんだ……?」


 急に虚空に向かって会話を始めたエルパカを見て、ロザ様がやや引いたような表情を見せる。


 や、ヤバい! ロザ様が不審に思い始めてる!


 このままでは僕の秘密も芋づる式にばれてしまう可能性大!


 混乱の中、どう誤魔化そうかと慌てふためいていると、一つの奇妙さに気が付いた。


 騒いでいるのは、片方のエルパカだけなのだ。


 エルパカBは、シロフィーの方に視線を向けてなどいない。


「……ダイヤのエルパカは何か見えませんか?」

「検討もつきませんわ!!!! 見えているのは、わたくしが将来どれほど可愛くなるかという、天望だけですわ!!!」


 やはり見えていない様子だ。

 

 どうして、こんな違いが生まれているのだろう……謎だ。


 しかし、それは有力な手掛かりになりそうでもある。


「どうやら天望も見えていないようですが、ロザ様。言動はさておき、違いが見えてきましたよ!」

「すておけない言動なんだが……まあ、確かにおかしな違いではあるが、それでどちらが本物かはイマイチ分からないな」


 強引に話をすり替えることによって、なんとかロザ様の興味を別のものに逸らし、追求を逃れることが出来た。


 とはいえ、更にエルパカAが話し始めると面倒なので、口封じは必須だけれど。


「エルパカ、取り敢えず見えているものは黙っていてくれます?」

「はい? よく分かりませんが、了解しましたわ!」


 エルパカAはとても素直だった。


 でも、なんで急に見えるようになったのだろうか。


 今までそんな人はいなかったのだけど。


『……なるほど謎は全て解けました』


 シロフィーは何かを察したように、まるで名探偵のようなことを言い出した。


 僕は検討もつかないのだけど!


『まあ、立ち話もなんですので、書斎で話すとしましょう』


 自信ありげにふふんと鼻を鳴らしながら、シロフィーは腕を組む。


 うわっ、わざわざ推理を勿体ぶるところとか、推理を披露する場所に拘るところとかがめちゃくちゃ名探偵っぽい!


 どうやら幽霊メイド探偵が誕生してしまったらしい。


 こうして書斎へ行く理由は、失せ物探しから、推理の場という古典的な理由へと変化した。

 

 本当に解決できるのかなぁ?

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