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エルパカ増殖編② 鍵の在処が鍵となる

「でも、本物を見分ける方法はある」


「見分ける方法があるんですか!?」


 今一番必要なものだと思われるエルパカAとエルパカBどちらが真なのかという問題を、テレサ様は判別できるらしい。


 本当ならもうこの怪事件も一部解決するが。


「扉魔法は激レア魔法だから、基本的に、偽物が真似できるものではない」

「なるほどー! その手がありましたか!」


 言われてみれば簡単な識別方法だった。


 魔法という奇跡の体現を、しかもエルパカの非常にレアな扉魔法を、そう易々と真似できるわけがない。


 むしろそれが出来たらどうなってしまうんだ。


「逆に言えば、両方が扉魔法を使えたらそれはもう両方本物とすら言える」

「えええええええ!?」

「その場合は、両方ともクロのメイドにする。メイドとメイドがメイドのメイドとメイドのメイドになる」

「早口言葉みたいになってますよ!」


 もしもこのままエルパカAもBも扉魔法を使えた場合、僕はエルパカ二匹を連れて生きていくことになるらしい。


 結構なバッドエンドかもしれない……!


「扉魔法ですわね!!! まかせてくださいまし!!!!」

「余裕ですわ!!! 豚が木に登るくらい余裕ですわ!!!!」


 言葉の意味はよく分からないがエルパカは二人とも自信満々だった。


 いや、どちらかは自信を喪失していてもおかしくない状況のはずなのに、何でそんなに元気なんだ。


 本当に二人とも扉魔法を使えてしまうのか……?


「……縛られてるから鍵を取り出せませんわ!!!」

「ご主人様とってくださいまし!!!!」

「えっ、私ですか」


 そういえばエルパカは扉魔法の始動にいつも鍵を用いていた。


 そしてその鍵はいつも胸にしまっているということだが……そこは僕には手を出すことのできない領域だ。


 女性の胸の間、そこは近くて遠い不思議な場所で、僕というミジンコ並のしょぼい勇気しか持ち合わせていない男には、もしかすると永遠に辿り着けない聖域だ。


 もしかしたらそこに踏み入ったが最後、浄化されてドロドロに溶けて死ぬかも分からない。


 くっ、まさかこんな試練が待ち受けているとは。


 清純な僕には厳しすぎる。


『何が清純ですかこの変態。チキンすぎますよクロ。ちょっと突っ込むだけでしょうに』


 シロフィーは簡単そうに言ってくれるが、事はそう単純ではない。


 ちょっと突っ込むだけだって?


 僕にとってそのちょっとは地球と月くらいの距離がある。


 いや、待てよ?


 どちらも丸いし、もしや地球と月の間は谷間だったのか……?


『だいぶ混乱してますね……もういいですから、テレサ様に頼みましょう』


 シロフィーは本当に可哀想な子を見る目で僕を見ていた。


 根性なしで申し訳ない……。


「テレサ様、私は二人を見張ります。鍵はテレサ様が」

「おーけー」


 僕の提案を一も二もなく受け入れたテレサ様は、なんの躊躇もなくエルパカの大きな双丘に手をズボッ! と突っ込んだ。


 す、すげぇや!


 あれが純真さか……。


 あろうことかテレサ様はそのまま胸の間をまさぐり始める。


 世の男子の夢みたいなことをしているが、これは歴とした捜査の一環です!


「……ない」


 呟くや否や、テレサ様はもう片方のエルパカの胸に手を突っ込み、やはりうねうねとまさぐり、鍵を探す。


 片方にないのなら、そいつが偽物の可能性が高そうなので、僕はハートのエルパカの方を、しっかり見張る。


「こそばゆいですわ〜!!!!」


 むず痒いのか、体をくねらせるダイヤのエルパカの姿は扇情的だった。


 だ、駄目だ! 見張っているのに目線がブレブレだ!


『一度、クロは女体への耐性をつけるべきかもしれませんね……』


 呆れ返るシロフィーの冷たい声が背後から聞こえてくる。


 我ながら情けない限りではあるが、耐性をつける前に死にかねないので、その提案はお断りしたい。

 

「こっちもない」


 漁り終えたテレサ様は、手をひらひらとさせて何も手に入らなかったことを強調しつつ、僕の方を見る。


「エルパカたち、どうして鍵がないのですか?」

 

 僕がエルパカたちを糾弾し始めると、彼女らは目線を逸らした。


「……無くしちまったかもですわ」

「……どうりで今日はおっぱいが冷たくないと思いましたわ」

「最初に私に無くすわけないって言ったのは何だったんですか!」

「過言でしたわね」

「慢心でしたわ」


 エルパカ二人は仲良くしれっとした顔で自らの失態を語る。


 に、憎たらしさも二倍!


 しかし、これは本当の本当にマズイ事態だと言わざるを得ない。


 唯一の判断基準の扉魔法すら頼れなくなったのは、痛すぎる。


「もう鍵を探すしかないんじゃないか?」

「それしかないですか……」


 ロザ様の意見は僕が見ないようにしていた意見でもあった。


 この広大な屋敷で一つの鍵を探すのはあまりにも面倒で、なるべくなら最後の手段にしたい。


 しかし、文字通り八方塞がり、崖っぷちなので、もう最後の手段に頼る段階なのかもしれない。


「ダブルエルパカはどこで鍵をなくしたか分かりますか?」

「屋敷の中としか言えませんわ!!!」

「昨日の行動を思い出していくしかありませんわ!!!」

「忘れ物あるあるなやつですね……」


 まあ、実際、自分の行動を一個一個思い出してその場所を巡っていくのが忘れ物探しでは、最善か。


 仕方ない……覚悟を決めて頑張ろう。


「ちょっと待ってて」


 テレサ様は僕に一声かけると、奥にある小屋のようなものを覗き込む。


「あれ、いない……ミャカエルに手伝わせようと思ったけど」


 ミャカエルは猫の名前であり、今はテレサ様の使い魔候補だ。

 

 元々はダンジョンの主だったこともあり、非常に強力な力を持っていたが、今はそれを失って久しい。


 そして結構気ままなやつなので、屋敷をブラブラしては餌を貰っている姿をよく見る。


 まさに猫って感じだ。


「もうそろそろ元みたいに喋れる頃だと思うから、見かけたら手伝わせて」


 果たしてミャカエルが失せ物捜査にどれくらい役に立つかは未知数だけど、テレサ様がそういうなら、見かけたら声をかけてみるか。


 こうしてまたエルパカAエルパカB、そしてロザ様と僕というパーティーで屋敷を巡ることになった。


 テレサ様は研究を続行した。


「昨日は調理場でベム子とおしゃべりしてましたわ!」

「ちょっとつまみ食いもしましたわ!!」

「正直は美徳だけど、お仕置きね」


 僕はエルパカBにデコピンを喰らわせると、エルパカは普通に痛そうにしゃがみ込む。

 

 こういう細かな反応にも、本当に違いがないな。


「クレイ、思うんだがエルパカは魔界の姫だよな?」

「はい、そうですが」

「そういう過去のことを聞けば違いが出るんじゃないか」

「確かにそれは有力ですが……私はあまりエルパカの過去に詳しくないんですよね」


 オセロ屋敷の住人全員に言えることなのだけれど、あまり過去のことを詮索しないというのがある。


 僕の過去も人に言えるものではないが、テレサ様もロザ様もあまり昔の話はしないし、ベム子にしても元々魔王の部下なので、話さないことも多い。


 それはエルパカも同様であり、その過去についてはザッとした流れは知っているものの、深いところまでは聞いたことがない。


 まあ、オセロ屋敷は今が良ければそれでいいという方針だということだ。


「そうか、そうだったな……じゃあ、素直に鍵を探すしかないか」

「はい、面倒ですよね……」


 僕らは地道な作業を続ける運命にあるようだった。




 


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