エルパカ増殖編① エルパカパカ
「大変ですわご主人様!!!!」
遊戯室でロザ様と共にカードで遊んでいると、騒がしい声と共にドタバタとエルパカが入ってきた。
非常にややこしいのだけれど、この場合のご主人様はロザ様でなく、僕のことである。
エルパカはメイドのメイドなので、基本的に僕をご主人様として扱っているのだけれど、もうメイドのメイドという概念がややこしいので、僕もまだ慣れてはいなかった。
「どうしたんですかエルパカ。魔法の鍵を無くしたとか?」
「あれは肌身離さず胸に挟んでいるので、絶対に無くすことはありませんわ!!! そうではなく!」
よく見ると、エルパカは背後にもう一人、誰かを連れてきているようだった。
やがて、その人物は部屋に入ってきた。
それは……エルパカだった。
いや、すでに部屋にいるだろって言われると思うけれど、違うんだ。
本当にエルパカの後ろにエルパカがいて、部屋に入ってきたのだ。
「ヤバいですわよ!!! この世に一つしかない超愛らしいわたくしが、この世に二つになったら、世が乱れますわー!!!!」
「いえ、わたくし。むしろ、愛らしさが二倍になったことで、あまねく世界に可愛さを伝えることができるようになったのではなくて!!!!?」
「確かにそうですわね!!!!」
や……。
やばい……。
一人でも扱いきれないレベルの変人なのに、そのエルパカが二人になったら、世は乱れないまでも、オセロ屋敷は乱れる!
「ど、どうしたら!」
僕の脳裏に増殖したエルパカによって破壊されるオセロ屋敷の図が浮かぶ。
絶対にあり得ないとは言い切れない!
「いや、落ち着けクレイ。明らかに魔法の効果であって、どちらかは偽物だ」
カードをシャッフルしながら冷静に対応するのはロザ様である。
ようやく僕の呼び方にも順応したのか、ちょっと小慣れた呼び方に変化していた。
「し、しかし、まるで見分けがつきませんよ」
「どうせテレサの仕業だろう。あいつはこんなことばっかりするからな」
テレサ様の兄として、ロザ様がどれくらいやってきたのかは、僕には分からないが、やはりというか、結構苦労されているらしく、魔法的な事件には慣れっこの様子である。
ホラーには弱いのに。
「えっ、このわたくし偽物ですの!?」
「可愛さは本物ですわよ!?」
「つまり……本物ですわよ!!!!!」
「……二倍うるさいですね」
二人になったエルパカの騒がしさは想像を絶していた。
ただでさえ声が大きいと言うのに、もはや騒音兵器になりかけている。
赤とピンクでドリルな髪も右へ左へ揺れ動くので、視覚的にも相当なうるささだ。
「とりあえず目印をつけておこう。ハートのクイーンがエルパカAでダイヤのクイーンがエルパカBだ」
二枚のカードを二人のエルパカに手渡すロザ様。
素晴らしい判断力だ。
うちのご主人様は二人とも子供なのに、かしこすぎる……。
この場にいるエルパカ二人が百人になっても、テレサ様とロザ様の知能には敵わないのではないだろうか。
僕が百人になっても怪しいけれど。
「ハートですわ!!! 可愛さの具現とまで言われたわたくしにピッタリですわね!!!!」
「ダイヤですわ!!! その愛らしさはもはや美術品とまで称されたわたくしにピッタリですわ!!!!」
「スペードとクラブを渡していたらどんな反応をしていたか気になりますね」
「エルパカで変な実験を始めるんじゃない。とにかく、テレサの元へ急ごう」
本日のテレサ様は研究室という名の非常におどろおどろしい部屋に籠って研究に没頭している。
竜骨生物群集では竜の死肉に加えて、なんと謎のロボットの頭部まで手に入れてしまったので、もうテレサ様の好奇心は破裂寸前で、ずっとその二つについて調べ続けていた。
僕としても、あのロボの正体には非常に興味があるので、テレサ様の研究には全力で応援の構えなのだけれど、一人の方が集中できるというので、ご飯を運ぶ時以外には、あまり協力できていない。
『テレサ様はかなり外に出る方ですが、やはりこういうところは魔術師らしいですね』
シロフィーの口振り的には、どうやら魔術師はこうやって一人研究に没頭することが、本来の姿らしい。
テレサ様の冒険好きは特別なんだなぁ。
「ご主人様を挟んで歩きますわ!!! 両手に花……いえ、両手に花火ですわね!!!」
「いえ、両手に花火どころか……両手に可愛さの爆弾ですわ!!!!」
「割と気分的にはあってますね」
完全にいつ爆発するか分からない人型爆弾を両脇に抱えている気分だ。
もっというと、エルパカの豊満な胸が両方から近づいてくるので、非常に心臓に悪い。
何という男子殺し。
『もうこのままでもいいんじゃないですかね』
シロフィーは凄く投げやりになっていた。
面倒くさいのは確かだけど、放っておくわけにはいかない。
エルパカAエルパカB、そしてロザ様と共にテレサ様の研究室まで僕は急いだ。
★
研究室は怪しげな肉や、魔物の標本のようなものが飾られていて、精神的にキツい。
ロザ様はこういう系には弱いため、僕の後ろに隠れて、なるべく見ないようにしていた。
大変に可愛らしいが、これで右も、左も、後ろも、全てが可愛いで挟まれてしまった。
何なら僕も可愛いので可愛いのインペリアルクロスと化している。
『そして私も可愛いので、右も左も後ろも、そして頭上も! 可愛い盛り沢山ですよ!』
もう何が何だかな光景だ。
そして、そんな可愛い密集地帯の前方で待ち受けるのは可愛いの金字塔ことテレサ様である。
テレサ様はロボを前にして、顕微鏡か何かで観察しているようだった。
僕らの気配に気付いて振り返ると、テレサ様はきょとんとした顔でこちらを見る。
「みんな揃ってどうしたの?」
「あの、テレサ様。お忙しいところ申し訳ありませんが、エルパカを元に戻していただけないでしょうか」
「えっ? エルパカが……何?」
椅子から立ち上がって、こちらに近づいてくるテレサ様は、僕の左右にいるエルパカの姿に気がつくと、目を丸くして驚いた。
「あっ、本当に二人いる……面白すぎる。なになに、何したの?」
「何もしていませんわ!!! 何もしてないのに増えましたわ!!!!」
「この可愛さ以外に罪なことなど、このエルパカ何一つありませんわ!!!!」
「おー、すごいすごい」
拍手をして喜ぶテレサ様だけど、こちらの心情としてはまずい。
テレサ様が関係ないということは、このエルパカの問題はもう解決の目処がないどころか、その原因すら分からなくなってしまった。
魔術師の住処は常に、他の魔術師に狙われているので、攻撃の可能性すらある。
本当に困ったことになったな……。
「テレサ様は無関係みたいですよロザ様」
「お、おおお、落ち着け! こういう時は取り敢えず両方縛りあげよう!」
「流石ロザ様、混乱していてもそれなりにちゃんとした意見です!」
僕は近くにあった縄を手に取ると、一瞬でエルパカ二人を縛り上げる。
メイド技術その三十三〝荷造り〟だ。
「いきなりなんですの!? 荷造りされてしまいましたわ!!!」
「可愛いのお届けものは禁止ですわよ!!!」
「うーん、本当に見分けがつかない。面白い」
テレサ様は、縛られて地面に転がったエルパカAとBを見比べながら、興味深そうに観察している。
そして、本当に二人に違いらしいものはまるで見当たらない。
胸ポケットに挟んだカードだけが、二人が別の存在だということを示していた。
「テレサ様、これは一体どういうことでしょうか?」
「まだ分からないけど……敵の魔術師の仕業ではないと思う。ここ最近はクロに加えてベム子もいるから、そう簡単に侵入出来ないし、魔力の乱れも屋敷からは感じなかった」
「ベム子の姿で屋敷に侵入したわけではないってことですか」
「絶対ないとは思わない。魔法に不可能はない」
魔法は理論上何でもできる力なので、断定はできないということか。
「でも、本物を見分ける方法はある」




